PERSONA3 TEXT

似た者同士?


「じゃあ…今日のメンバーは      

 タルタロス攻略の為にいつも通りメンバーを選ぼうとすると、後ろからもの凄い視線を感じた。振り返ると順平が睨みつけていると言ってもいいぐらい自分の方を凝視していた。

「…何…」
「お前さぁ…」

 呆れた顔というか、怒った顔というか、まぁ変な顔をしている順平をまじまじと見る。そして一点に気が付いた。

「あれ、お前…レベル低いな」
「おまっ…!!お前が最近全然連れてってくんねぇからだろっ!!」
「あぁ…それで。いや、ペルソナの属性が被ってたから…」
「おいおい…考えてくれよ…オレのこともどうでもいいとか思ってんじゃねぇだろうなぁ?」
「…、………わかった…お前のレベル上げの為に二人で行ってやるよ」
「何今の間!?つか面倒臭そうに言うなよ!…ったく、恩着せがましく言いやがって…」

他のメンバーに待機を命令して、火属性以外のペルソナをつける。それから順平が体良く成長出来るよう簡単に計画を立てる。

「じゃあ、上の階でさっさと上げるぞ」
「いきなり!?どんだけ無茶させる気なわけ!?」
「フォローはしてやる…瀕死になっても生き返らせてはやるし」
「スパルタ教育過ぎんだろッ!!オレ褒められて伸びるタイプよ!?」
「言ってる意味がよく分からない」
「ちょっ…!置いてくなって!!」

 グダグダ言ってる順平を無視して上の階に飛ぶワープ装置にさっさと歩くと、まだ何か言いながら後を追いかけてくる。一言えば十返すその脳をもっと有効に使えばいいと思う。

 犬みたいな奴だけど、コロマルの方がうるさくない分圧倒的に可愛げがある。というか実のところコロマルの方が賢いんじゃないだろうか。




 順平の経験値を上げることが目標なので、敵のレベルもそこそこ上の階までワープし、視界に入るシャドウをとにかく片っ端から倒していくことにした。

「うわ…すっげぇ強いじゃねーかよー…」

 レベルに多少差がある順平は、並のシャドウ相手でも既に泣き言を言い始めた。しかしその割りに…というか先程から、いや、ずっと前から気になってたのだが…

「お前さ…ラクカジャばっかりかけるなよ…しかも僕に」
「あ?」
「身を守れないのはお前だろ。自分にかけろ」
「…うっせぇな」

 確か順平が僕に対して何故か苛ついていた時期も、自分の方が危機的状況でも他人や僕にまで防御力を増幅させるラクカジャを優先的にかけていた。

「リーダーが倒れたらヤベェだろ。オマエ一番強ぇし…つか、回復して貰えなくなっからなー」
「……」
      !おい、なんかまたデケェの来たぞ」
「…分かってる」

 …こういうのって      

 一瞬思索にふけったのが間違いだった。その一瞬に順平が周りも確認せずに目の前の敵に攻撃しようと直進していた。その後ろから別のシャドウが狙っている。

「っ!おい…!」
「ッつ!!ってぇ〜…」

 元気に飛び掛っていった順平が後ろからシャドウに攻撃されかけたのを、何とかカバーして掠り傷に止めた。

 ちゃんと確認しろという注意と、大丈夫かという心配を込めて視線を送るとこっちを向いて、コクコクと頷く。ちゃんと通じているのか疑問だが。

「悪ィ悪ィ。お前のおかげで軽く済んだ」

 どうやら通じていたらしい。これくらいの意思疎通が出来るなら一方的な喧嘩なんて起こらないはずなんじゃないかと思いながら、通じたことに少し満足感を得ていた。

 順平は手をプラプラと振って、大きな両手剣を握り直すと標的にするんだろうシャドウを見据えた。火力がある順平には、十分倒せる相手だろうと予想して後方から見守る。

「ンじゃ次はこっちの      

       …カラン

「順平?」
「あ…れ…?」

 握り直した剣を振り上げた瞬間、スルっとそのまま順平の手から滑り落ちて、派手な金属音をたてて転がった。自分でも何が起こったのか理解出来なかったのか、落ちた剣と自分の手を交互に見て呆然としている順平をめがけて、その標的だったはずのシャドウが動き出した。

「下がれ順平…!」
「へ…?うおわっ!?」

 順平を後ろに突き飛ばすのと同時に、召喚器でペルソナを発動させて大きな塊を一瞬にして粒子にした。ただ、慌てた為か咄嗟に破壊力のある技を使ったせいで体力の減りが異常に早い。このままのペースで進むのは正直きついと思い、軽くこれからの消費の計算を頭で弾く。

「…あっぶねー…何だぁ?…あ、サンキュな。また助けてもらっちったなー」

 突き飛ばした弾みで、尻餅をついた順平を呆れるように見下ろした。敵に向かって行って途中で無防備に立ち止まるなんて攻撃してくれと言っているようなものだ。

「もっと周りに注意しろ…、どうかしたのか?」
「やー…両手剣がやたら重たくなって…手の力が急に抜けたっつーか、指先がピリピリすんだけど…」
「ピリピリ…?」

 急な痺れとこの症状と言えば思い当たることが一つあった。それを伝えようとした時、相変わらずヘラヘラとしていた順平の表情が一転した。

「んー…これってさぁ…      !?…え…」

 立ち上がろうとした順平がそのまま膝をついて前に崩れるように倒れた。慌てて傍に寄り、順平をゆっくりと仰向けにして首を腕に乗せて具合を窺う。

 熱い。じわじわと毒が回り始めているのか身体は不気味な熱を帯びていき、汗が急に噴出してきた顔は苦痛に歪んでいる。

 恐らく先程のシャドウの攻撃に毒の効果があったんだろう。たかが掠り傷だと思っていた痕が痛々しく腫れ上がっている。

「っ…はっ、…こんな時でも、無表情かよ…心配、しろっての…」

 薄く目を開いて僕の顔を見ると無理に笑顔を作って言われる。この表情と感情は回路が切断されているとまでは言わないが、自分は顔で表現するのが酷く苦手だ。それだけだ。だから表情が全てなんじゃない。

「…心配…してる」
「…へ、ぇ…?」

 目を見開いて意外そうな顔をする。何か腹が立つのは気のせいだろうか。仲間が傷付いて気にしないほうが可笑しい。それ程冷徹だと思われてるんだとしたらこっちが傷付く。

「…っ、…ぐ、ドクドク…ズキズキ…する。…これ、毒だよなぁ…?」
「…だな」
「と、とにかくさ…毒抜いて、くんね…?」
「……」
「おい…?」

 それが問題だった。僕は冷徹な人間でもないし、人並みの感情だって持っている。仲間が傷付いたら悲しい。だから出来るならさっさと治している。つまり      

「それが…毒を抜く薬も無いし、スキルを持ったペルソナも今はいない」
「!?…マジ、かよ…頼むぜ、リーダー…オレ、動けねぇぞ…」
「エントランスまで装置で戻るしかないな」
「だからぁ…ホント、オレ…きついんだって…、身体、力入らねぇ…」
「…最終手段は瀕死にして生き返らせる方法、だな。瀕死になれば状態異常が治る」
「死ねって!?か、勘弁して、くれよぉ…」
「じゃあ無理してでも立て」
「…おま…担いでやる、ぐれぇ言えよ…っう…!」

 無理矢理に順平の腕を掴んで自分の肩に引っ掛ける。本当に力が入らないらしく、全身の体重がずっしりとかかる。

 面倒臭いけど置いていくわけにはいかない…から。




「…う゛、…あ゛…っ」
「…我慢しろ」

 動く度に痛みと痺れが走るんだろう、呻き声を呼吸と共に吐き出しているが今はどうしようもない。可哀想だが耐えてもらうしかないと決めて、半ば引き摺るように運んで行った。

「これで…シャドウに見つかっちまったら…終わり、だよなぁ…」
「喋るな」
「…もちっと優しい言い方、出来ないのかねー…」
「喋ると体力の減りが早いし…痛むだろ」
「…、…そか」

 急にピクっと順平の身体が揺れると、目を宙に泳がせた。困ったような顔、というか恥ずかしそうと言った方がいいのか。顔が微かに赤い。

「お前さー…なん、つーか…伝わり、づれーんだよ…」
「何照れてるんだ」
「照れてねぇよっ…、っつ…ぃ゛…っ」
「だから喋るなって言ったんだ」
      …」

 伝わり辛いのは順平だって同じだ。何でもかんでも直球で勝負してくるくせに、マイナスポイントは独りで抱えたり溜め込んだりする。あの時だって具体的なことは何も言わなかった。お前が笑わなくなるだけで周りがどれだけ心配していたかなんてきっと分かってない。

「…お前だって、同じだろ…」
「あ…?」
「……」
      あ…あれ…!帰還用のっ      !?…げ…」

 ワープ装置が視界に入った瞬間、右の道から凄い勢いでこちらに向かってくる塊があった。      シャドウだ、しかも赤く発光している。つまりこの階では見ないような、強いシャドウ。よりにもよって、だ。

「ウソ、だろ…マジで来やがった…っ、ど、どーする!?」
「…あの装置まで、お前だけで行けるか?」
「う゛…ちっと…自信無ぇ、かも…」
「這ってでも行け」
「む…無茶苦茶言うな…」
「僕が時間稼いでいるうちに早く行け」
「んなの…ッ、っどわぁぁ!?…っ、痛ててっ…」

 順平の背を思い切り前に突き飛ばして自分から離すと、召喚器をこめかみに押し当てた。素早く敵の数を確認して、残りの体力と技の消費量を計算する。その背に順平の荒げた声が刺さる。

「っば…、無茶すんなよ…!!相手、一匹じゃ…ねぇんだぞ…!!」
「…煩い。さっさと行け…!」
「!?」

 首だけ後ろを向いて、前髪から覗く眼で鋭く睨み付けて言うと、ビクッと身体を震わせて、何か言いかけたがそのまま言葉を飲み込んだ。代わりに悔しそうに舌打ちをすると装置に向かって壁に手を付きながら一歩ずつ進んで行った。

 動き出した順平に反応したのか、順平に向かって凄いスピードで迫り出したシャドウを出来る限りの有りっ丈の力を込めて攻撃する。

「…こっちに、来い」

 一体を攻撃すると他のシャドウも怒ったように自分に襲い掛かってきた。自分よりも後ろに進ませないように頭と力をフル回転させる。

 思ったよりも強く、一撃で仕留めることが出来ない。それに体力が攻撃によって削られていくために強い攻撃が出来ない。敵の攻撃も素早く、回復する暇も無い。

 何とか二体にまで減らしたところで、一瞬の隙を突かれて左右から攻撃を仕掛けられる。負傷は免れないと判断して、一体を攻撃して何とか倒す。そしてもう一体からの攻撃の痛みに身構えた。

「っ…!?」

 瞬間、目の前が真っ赤に染め上がる。自分を攻撃しようとしていたシャドウが赤く舞うと、そのまま燃え炭のように消えていった。

      、…順平…」
「っ…危なっかしーな…っつ…」

 振り返ると、エントランスに行ったはずの順平が膝を付きながらも召喚器を握っていた。

 息も絶え絶えになっている。ボロボロのくせに。弱いくせに。また自分じゃなくて他人を守る。

「…どっちが、何で戻ってきたんだ…!」
「放っておけ、ねぇだろ…、っ…、…」
「…邪魔なだけだ」
「酷ぇ…、      っつ      

 ふらついて召喚器を落とすと同時に、糸が切れたようにぐにゃりと身体を緩ませ、そのまま壁に身を預けた。完全に意識を失くしたのだと分かる。

 …ほら、余計に面倒臭いことになった。一人で張りきって、妙な博愛主義を振りかざして、あげくこの様じゃないか。

 こういうところ…まぁでも、嫌いではない、けど。




      …っ、ん゛ー…、…?おぉ!?」

 エントラスでしっかりと治療した順平が目を覚ます。辺りを見回し状況を確認出来たのか、いつも通り間抜けな顔になると、ヘラヘラとこっちを向いて笑われる。

「オレ担げたのかよ?」
「足持って引き摺っていった」
「…扱い酷くね?」
「どうでもいい」
「まーたまたぁ。何だかんだ言ってオレのこと必要としちゃってんだろぉ〜」
「…逆だろ」

 ニヤけた顔が物凄く腹立つ。どうせ今も顔は無表情なんだろうが。そもそも順平の方こそどうなんだ。

「なになに?何かあったわけ?」
「ゆかりッチ、聞いてくれよ〜もーコイツがさぁ、オレのこと守ろうって必死になっちゃってさぁ」
「…お前が弱いからだろ」
「あァ!?おまっオレだって最後カバーしてやっただろ!」
「…その原因はお前だろ」
「な…ッ」
「なんだ、順平ただのお荷物だっただけじゃん」
「ち、違うって!違うよな!?確かにちょっとミスったけど…」

 順平だと、巻き込まれるように素直な感情が勝手に出てきて、それを抑える為に逆に素直になれない気がする。例え顔と繋がっていなくても、ちゃんと人並みに感情は持っているから。

 変な奴だ。嫌い、ではない。ただ好きだと素直に認めるのも何故だかしたくない。

 もしかしたら、お互い      


「なぁっオレ助けてもらったけど、助けたよなぁ?つーか、オレらって案外似てんじゃね?」
「……」
「何その目!?感じ悪っ」
「アンタが彼に変なこと言うからでしょ」

 前言撤回、しておく。そんなこと、それこそ、どうでもいいことだ。

「…変な関係だ…」

 岳羽さんと言い合ってる順平を見て、自然に口元が緩んでしまうのは…きっと気のせいだ。




fin.

2007/02/24
2008/04/30 文章修正

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