SUBJECT

一から十まで選ばれた


 突然だけど、ふと思いました。

 今横にいる真田サン。牛丼を掻き込んでいるこの真田サン。真田サンってどこがいいんだろう。オレは真田サンのどこがいいんだろう。

 …顔?ああまぁ顔は誰が見ても良いよな、整ってる。そのデコに付いてるテープは気になるけどな。そろそろ皮膚の一部になりかけてそうで触るのがちょっと怖ェ。

 性格…は、マイペースなのが善いようでもあるし、ちょっと難有りってのもあるか。筋トレのオタクぶりはもうちっと限度を知ってほしいかなぁ。

 センスは悪くない…と思う。寮に居てもビシッとイタリアン的な服着てるし。ブランドなのかねぇアレ。

 背はいくつだっけ。確かオレよりも高ぇんだよな、…五センチだっけ?なんかちょっと悔しいよな。

 頭はいいんだよなぁ。つか真面目?勉強してるっていうより、普段からコツコツやってるから当たり前のようにテストの順位には上位にいるよな…

 体型は…それこそ完璧か。細いっていっても筋肉質だからな。鍛えれるところは全部鍛えてるって感じで、触らなくてもオレとの違いは目に見えて分かるし、肩はやっぱりしっかりしてる。

 肌は真っ白。筋トレとかでやたら外で走り回ってる割にはオレより白い。リーダーからこっそり聞いたことがあるが、何でも焼けると赤くなる体質なもんで日焼け止めをバレないようにこっそり塗ってるらしい。男としてはもうちょっと黒い方がいいかもしれねーけど…実は体毛が銀色のせいもあって、ツルツルでツヤツヤで、マシュマロのような食いついたらモチモチしてそうなあの肌色と肌質がオレは好きだったりする。実際は筋肉質で硬くて全然美味くなかったけど。

 女だとか男だとか関係ない!ってわけでもねぇよなぁ…。だって男だってはっきり自覚して関係持ってんだし。肉厚なのにうんざりしたり、逞しい二の腕にちょっとだけ胸打たれたり。

 ああでも真田サンだからってのはあるか…うーん、難しいよなこのあたりが。男性だから惚れたなんてことはあるわけないけど、男前さに惚れたってのはあるよなぁ…なんつーか、身体の強さ以上に心の強さみてぇなの?


 出会い…もあるよな、やっぱ。アレは人生で一番の恐怖だったし…正直途切れ途切れにしか覚えてねぇけど、もう訳が分かんなくて唯一棺桶じゃない普通の人間だって分かった瞬間泣き崩れながらしがみ付いたよなぁ…恥ずかしい。けどあの時の体温ははっきり覚えてる。自分が冷えてたのか真田サンが高温なのか、熱がポカポカと伝わってくるほど温かかった。宥める手も声も、優しくて、気持ちを落ち着かせるのには十分で心地良かった。

 あの時声をかけてくれた真田サンだから、第一印象からどれほど失望しようが多分一生慕い続けるだろう。まぁマイペースで突き進む人だから天然には多少苦労するけど、いざって時には先輩らしく頼もしくて、助言や優しい言葉もかけてくれるし。


 …うん、まぁこんなところか。これ全部ひっくるめて真田サンが色んな意味で好きなんだろうな。

 でも考えてみればオレが能力に目覚めて、あの時真田サンに偶然逢うなんて凄いことだよなぁ。

 何つーか…一から十まで選ばれた、何か運命と言っても過言ではないような、そんな関係なんじゃないだろうか。




      …って結論に至ったんスけど、どうですかね?」
「…一から十まで選ばれた、か」
「ね?」

 牛丼を掻き込みながらの真田サンと、カップラーメン味噌味を啜るオレ。

 ラウンジの最近では定番になりつつある隣同士の席で、いつも通り他愛もない話をして、プロテインの話を聞き流している時に、ふと思ったこと、それが冒頭に至るんだけど。

 少しロマンチックな運命論が浮かんで、それをそのまま口にして。そうだな、の一言で次の話題に移る程度の気持ちで聞いた。…それなのに真田サンはごくんと牛丼を飲み込むと、えらく真剣な顔付きでこっちを見た。

「いいか、運命なんてものはない。人生は自分で切り拓いていくものだろう」
「…あ、ああ…、…え?」
「だから俺は俺の意思でお前を見つけ、お前の傍に居る。俺がそうしたいと望み、俺が決めたことだ」
「…、…」

 つい言葉に詰まってしまった。言っていることは真田サンらしい、と済むけれど、何だか真面目な返答にこっちが恥ずかしくなってきた。

「…運命って言やぁ済むじゃん…」
「良いことも悪いことも、運命って言葉一つで片付けるのは、逃げているようで嫌なんだ」
「でも県内だけでも一千万人以上いるんすよ?まぁ影時間だから限られてっけど…あの日ピッタリってのはやっぱ運命じゃないすかぁ?」
「…っ、…いいんだ。そこから先、お前を連れ帰ったのも世話したのも俺の意思だ!俺がやりたくてやってるんだ!」
      、…はいはい…」

 オレの言葉にムキになって反論する真田サン。そうやって拳を振り上げ、声を張り上げて懸命に主張するということが、どういうことなのか分かっていないところが憎らしい。

 それは…それは自分に対する想いを力一杯言われているようで。一緒にいたいとか、俺の意思とか、そういうのは心に留めておくもんじゃねぇの?

 ああ畜生。顔が熱い!熱い!腋汗掻いてきたっつーの!!つーか真田サンご飯粒付いてるっつーの!カッコついてねーっつーの!

「順平?」
「…真田サン、オレのなると…あげる」
「…ん?くれるのか?」
「チャーシューもあげる」

 オレは好きなものは最後にとっておくクセがある。なるとやチャーシューが大好物!というわけじゃないけど、カップラーメンの特別具といえばこいつらだろう。

 牛丼の上にぽいぽいと乗せれば、はてなマークを浮かべ首を傾げながら、律儀にありがとうと言われた。

 嬉しくて…機嫌が良くて、それを表現しようとちょっとした粗品のつもりで渡したことなんて、きっと気付いてない。真田サンだもん。

 いつもの味噌ラーメン。レトルトの麺がふやけた味噌ラーメン。数日前にも食ったし、まだストックもある。

 …でも今食ってるラーメンが一番美味しかった、ような気がした。




fin.

2009/05/22

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