PERSONA3 UNDER TEXT

影遊びA


 もしかすると此処は別空間なのかもしれない。

 三つの息以外は真空状態のように無音の上に、いつまで経っても暗闇に溶けたような視界は真っ暗なのにシャドウの姿ははっきりと捉えられる。もちろん自分の醜態も。

 ああ、夢なのか。そう期待したいがリアルな感触がそれを否定する。もう既に非現実的な世界だけれど、痛みも痺れも熱も音も肌も全てが生々しくて夢の救いなんて欠片も無い。



 栄吉はひたすら早く終われと願ったが終わる様子は全く無い。それならばと出来る限り意識をあさってな方向へと飛ばしたが、指で思い切り前立腺を抉られた衝撃で無理矢理引き戻されてしまう。

 潤滑剤がないとはいえ乱暴に弄られ続けた後孔は受け入れる肉の壁と化していて、両手で左右に拡げられればミチリという音に続いて冷えた空気が入ってくるようで、それに合わせてヒクヒクと蠢いた。

「欲しいか…?」
「…テメェが挿れてェんだろうが…」
「ハハっそりゃあ、そうだよなァ」

 シャドウ栄吉が頷いて嘲笑うと、シャドウ達哉は眉根を寄せて、肉を裂くように挿し込んだ指を思い切り拡げた。

      ッ、く…ぁ!!」
「…まだ随分余裕みたいだな。指だけで何回イケるか試して見るか?」
「…っ」
「あー…、ちょっと待ってくんねェ?」

 先程まで嬲りつつも少し距離をとっていたシャドウ栄吉の声が溜息でも吐きそうな声色で割って入った。

 もたれ掛かる栄吉の後ろからモゾモゾと這い出して、その身体をベッドヘッドにぶつからない様に倒すと、唐突にシャドウ達哉の顎を細い指で持ち上げて、唇に舐めるように吸い付いた。

「なぁ狡ィって…俺もそろそろ気持ちよくなりてェんだけど…」
「…少し我慢してろ」
「嫌だねぇ。ほったらかし食うの目に見えてるしさぁ。…なぁ、そいつ勃たなくなる前に貸してくんねェ?」
「…、…」

 語尾にハートマークでもつきそうな程甘い声で強請ると、もう一度唇に吸い付いた。シャドウ達哉はまた眉根を寄せたが、無言で栄吉から離れた。どうやら許可したらしく、ベッドの傍の椅子を引き寄せると腕を組んで悠々と様子を眺め始めた。

 許可をもらったシャドウ栄吉は身体を捩じらせて逃げようとする栄吉の身体に乗りかかるように跨って、にっこりと黒い笑みを浮かべた。

「さぁて…、じゃあ仲良く遊ぼうぜ…?」
「や、やめろ、跨んなっ…」
「よぉ、挿れていいぜ?まだ前は使ったことねェだろ」
「嫌、だ…!自分は抱けねェっつってんだろ…!」
「…勘違いすんなよ?抱かせてやるって言ってんだよ。…タッちゃんはどうせお前ェに挿れてェだろうから」
「っん、ぁ…!やめ、ろって…ッ」

 シャドウ栄吉はするりと身体を滑らせて足元に移動すると栄吉の性器を握りこみ、強弱をつけながら上下に擦り始めた。それと同時に自分の後ろにも手を伸ばし、チュニックを捲り上げ、スラックスの中に潜り込ませると後孔を弄り始めた。もぞもぞと布に覆われた手が中で妖しく蠢く。

「あ、ぅ…ん、やっぱ…ラブオイル欲しいよなぁ…」
「ねェよ…!いい加減に、しろ…ッ、触んなぁっ…!指挿れんな…!」

 自分のシャドウが自分で孔を拡げている様も、それを見ることも不快過ぎる。怠い身体を起こしてシャドウの髪を掴んで制止させようとするが、やけに慣れた手つきで性器を刺激されて上手く力が入らない。その上鈴口を割られて擦られてしまえば、意思とは関係なしにまた性器が勃ち上がってきてしまう。

「やめ…やめろって、こんな…の…!んん…ッ」
「あ?…舐めた方がいいのかよ?」
「ちがっ…ァ、何で…!や、あ…ッ」

 自分に自分のモノを咥えられる画の衝撃は凄まじい。栄吉は見たくなくて目を固く閉じてみるが、逆にピチャピチャと嫌な水音や、んっ…と頬張る声が余計に大きく耳に入り、与えられる刺激に無意識に集中してしまう。

「ほら栄吉、ちゃんと見ろよ。良い眺めだぞ」
「嫌だ、嫌だ…!こんなの…おかし…ッ」

 シャドウ達哉の言葉にも首を強く左右に振って否定した。この状況にも自分のシャドウにも。実際、性交がただ綺麗なものだとはもう思っていなかったが、今の状況は無修正のポルノビデオを無理矢理に見せつけさせられたようなショックがあった。

 普段から性の魅力に関して広言している大部分は啖呵というかインスピレーションで、昔の自分のルックスにコンプレックスを抱く出来事があったために作り上げたものだ。元々そこまで性に飢えていないし、そもそも知識も経験も持っていなかった。身体を合わせるのは愛情表現の一つであって、淫らなことをするというよりも純粋な愛の形という意識の方が高い。だから過剰な性交や、淫猥な言葉、許容範囲を超える刺激には頭がついていかない。むしろ理性を超えることに恐怖すら感じてしまう。



「…そろそろいいか…」
「っ…!!や、やめろ…ッ、っぅ      !!」
「う…      ッ、…っは、…ああ…」

 シャドウ栄吉はスラックスの中から下着をずらして再度跨ると、無理に勃たせた性器を宛がって、自ら飲み込んだ。

 栄吉は肉棒を絞られるような初めての刺激に驚愕すると共に、勝手が分からないために声も上手く吐き出すことも出来ず身体を異常に強張らせた。

 硬直状態の栄吉に対して、シャドウは気にすることも辛そうにすることも無く、自分の好みの箇所に当たるように好き勝手に腰を動かし、身体を弾ませた。耐える栄吉の声とは違い、淫靡な声を上げ、欲望を貪る姿を惜しまず乱れた。栄吉は目を強く瞑って正解だったかもしれない。これほどに淫らな姿を曝す自分がいるということに気付かないで済んだという点では。

「ァ、んぅ…っどんな感じだよ?挿れる方っつーのは…、っは…あ…中の肉で締め、られんのは…!」

 シャドウ栄吉は腰を揺らしながら胸に抱いた栄吉の髪を撫でた。言葉とは裏腹に力を抜けという意味らしいが初めての挿入で力を抜けず、栄吉は必死にシーツを握り締めて無意識に抱かれる胸に顔を押し付けていた。

「…、馬鹿…傷付くだろうが…」
「ん      、はっ…」

 白い手がさらに色を失うほどシーツを強く握った手を見て、シャドウが額にキスを落とし、髪の毛を指に絡めるように撫でた。優しい仕草かもしれないが、栄吉にとっては妙なものでしかない。自分を抱くのも、挿入するのも、言葉と行動の差も、間にある温度差も、ただ妙でどうすればいいか分からない。出来ることと言えば目を開けないことだ。その妙なものを眼前で直視する心の許容は、いくら栄吉と言えど胸を張ってあるとは言えるものじゃない。


 一人は必死に耐え、一人は快楽を追う。どちらも栄吉であることには違わない。シャドウ達哉はジッと二人の様子を見て、乾き始めた唇を舐め、熱い息を吐いた。自分の好きなものが絡まりあうのは眼にも楽しく、そして欲を煽った。

 きつく閉じた目は涙で濡れていて、首のシルバーアクセサリーで血液が遮られていない今の肌には赤みが差している。噛み付いたところは赤く、また内出血で所々は青い。下ろした黒髪も幼さを強めていて、華奢な身体は骨ばって合わさる身体は少し痛そうだ。

       馬鹿で可愛い栄吉。…早く今よりも壊れてしまえ。汚らしく泣いて、縋って、享受してしまえ。目の前のシャドウは酷く淫らな身体だろう?それがお前の身体だよ。もっともっと壊れて堕ちた姿で…奇異染みた悲鳴が聞きたい。

「っ…!      う…ん」

 シャドウ達哉は我慢出来ず急いた様に立ち上がると、歯を食い縛って耐えている栄吉の髪を掴んで顔を上向かせて唇を押し付けた。食い縛って閉じた唇も、細い顎を軋むほどに掴みあげて舌を無理矢理挿し込めば、簡単に逃げようとする真っ赤な舌を絡め取れる。

 息も吸わせないほど貪れば、苦しそうな音が漏れる。それは幼児が泣いてしまいそうな弱った音で、背筋をゾクゾクと震えさせるのに十分だった。



「…      栄吉」

 そう一言シャドウ達哉が、シャドウ栄吉の方に声をかける。すると、それで言いたいことを理解したのか栄吉の首に細く青白い腕を巻きつけた。

「っ…!!」

 栄吉にとっては相変わらず予想が出来ない行動だった。首に腕を巻きつえられたと思えば、思い切り身体を引き寄せられて覆い被さるように倒れこんだ。もちろん繋がったままで腸壁の締まりが変わって歯を食い縛って呻る栄吉と違い、シャドウは甘く一鳴きした。

「あ…ん、いい子だ、ねェ…、でもこんなんじゃあ、俺も…タッちゃんもイケねェんだよ…」
「っう゛      …、足絡め、んな…!」

 ベッドに手をついて離れようと力を込めるが、同じ力で首に巻き付いた腕がしがみ付く。

 それでも尚絡みつく肉から離れようと抵抗しようとすれば、熱い息を零しながら耳朶に思い切り噛み付かれた。耳朶と言えどその刺すような痛みに伸びた腕がガクンと折れ、不本意ながらも全身を預けることになった身体を噛み付かれたまま強く抱き締められた。

「…ほら、タッちゃん」

 シャドウ栄吉が被さる栄吉の先を見据えて言った。栄吉が意味を理解するより早く、突き出された腰を掴まれて間髪入れずに盛る熱を捩じ込まれた。

「っ、あ      !?」
「んんっ…、は…あ…」
「…そろそろいいだろ…?二人だけで楽しむなよ」

 強く腰を進められて、先程解された腸壁を乱暴に突かれた。その力はそのまま繋がっているシャドウ栄吉にも伝わって、無理に揺すられた身体は繋がる中を受動的に掻き回した。

 解されて痛みこそ小さく済んだが、肉が動きに合わせて引き攣れる。それに加えて、支えることすら出来ていない身体は、より接合部を深め根元を全て飲み込んでいる状態で、シャドウ栄吉が喘いで肉を収縮させるものだから、栄吉としては堪ったものではなかった。

「ん゛ぐ      ッ!?んあっ…や、嫌だ…っ!!動くな…!ああっ、動かないでくれッ」

 前では捕食されるかのように激しい腸壁の収縮で肉棒を刺激され、後ろでは弱いところをズリズリと抉られる。片方だけでも強過ぎる刺激を前後同時に責め立てられれば、快楽を得る以上に溢れて、理性が削られていく恐怖がパニックを起こさせた。

 受動的な刺激にこのままでは本当に身体だけじゃなく、精神的にも壊されてしまうと我を忘れて止めてくれと懇願した。いや、こんなもの不感症か余程の淫乱でなくては自我をしっかりと保っていられるはずがない。開いた口から唾液が流れ出すのを止められず、二箇所の接合部が火傷をしそうなぐらい異常に熱く、痙攣しているんじゃないかと思うほど身体はじっとせずに震えていた。突かれる度に意識がブツブツと途切れ、失神するのも時間の問題だと栄吉は微かに動く脳でそう思った。

「いや…ぁ…、やめ…、抜けよォっ…頼むから…っ、ィああっ…!」
「悪いが止めるつもりはない…ッ、こんなことで死にはしない」

 それは自分の好きなように攻撃的な快楽を貪ってるから言える台詞だ、そう栄吉は余裕がないながらも毒づいた。壊したいなんて思っているから配慮なんてしないし、壊れてもいいと思っているから滅茶苦茶に肉を裂く。

 攻撃性や嗜虐性なんてものは誰もが程度は違えど持っているだろう。それでも慈しむ相手には自分よりも神経を集中させて気をかけ続けていたら、甘さよりもしょっぱいものが欲しくなるように、悲痛な声のひとつでも上げさせたいと好奇心から思うかもしれない。だから、理不尽でもそれを出来る限り受け止めようと思う。

       でも、何か違う。本来の達哉と決定的に違う何かが。



「ああっ、ン…!い、イイっ…タッちゃん…もっと、来て…!」

 一方でシャドウ栄吉は、栄吉と同じ振動で同じ刺激が与えられているはずなのに、もっともっとと奥へと誘う。シャドウ達哉の動きを必死に追おうと栄吉にしっかりとしがみ付いて、漏れるような甘い高音で快楽を貪っている。

 間の栄吉を越え、達哉の名を呼ぶ。このシャドウはひたすらに達哉を求めている。そういえばシャドウ達哉は自分ではなく栄吉を求めていると、そうどこか寂しげに口にしていた。


 シャドウが言っていたことが栄吉の頭に浮かぶ。…欲が肉を付けたと、そう言っていた。ペルソナと同じ記憶や意識にずっといて出てきたと。あの時戦闘した闇の部分のシャドウというよりはもっと…断片といおうか。この目の前のシャドウは心のどこかにある、達哉が欲しいという強い切望が生んだひとつの欠片のシャドウなのだろうか。

 それだけに凝り固まっているとしたら…本来の自分のものよりも欲が増幅して、違う意識を持って成長しているとしたら      

      っは…!!…ぅ゛…」
「おい…寝るなよ?」

 突然髪を掴みあげられて、肉がぶつかる音をより一層響かせて最奥まで突かれて栄吉はビクリと身体を揺らした。結局はその勢いはシャドウ栄吉の方に吸われて緩く全身を前後させただけに終わったが。

 刺激を与えられる中で緩々と思考を辿らせるも、今の乱暴でまたチリジリになってしまう。何か大きな違和感を残したまま、また激しく突かれては、絞り取られるのを永遠かと思うほどに続けられて、栄吉はもう考える余裕すらなくなっていった。




 何十分、何時間、嬲られ犯されたのかも分からない程、長く長くシャドウ達は交じることを止めなかった。

 その間突き上げられ、締め付けられ、叩かれ、殴られ…と決して栄吉が意識を手放すことを許さなかった。シャドウ達にとってどこまでが"壊した"ラインに入るのか、それすらも分からない。ただ延々と虚ろな中、何度も精を吐き出し、吐き出されたことは、腹や胸や密着する箇所が酷く滑って、突き挿す中も、突き挿れられている中も大量の液体が溢れて絡み付き、不快な水音を立てていることで分かる。

 空間さえどうにかされているような現状だ。もしかしたらこのまま永遠ともいえるような時が続くんじゃないか、そう栄吉がおぼろげに思った瞬間、快楽も苦痛も倦怠感も吹き飛び、今まで以上の物凄い恐怖を覚えた。

      た、…タッちゃん…タッちゃん…!!」

 もう栄吉は前後不覚に陥った。助けを求めて達哉の名をひたすら呼んで、見苦しくバタバタとのたうち回った。

「ここにいるだろ…」
「違う…違う…」

 シャドウ達哉が応えて身を進めても、栄吉は首を横に振った。そうすればそうするほど、恐怖の中で何か違うという先程の違和感が徐々に鮮明になっていく。

「俺を受け入れないということは、周防達哉そのものを受け入れないってことだな…?」
「…違う、…そうじゃ…ない…」
「忘れるなよ。俺達は確かにお前達の一部だ」

 背後でシャドウ達哉が囁いた。

       分かってる。受け止められないわけじゃない。寧ろ気持ちを抑え過ぎた結果というならどんなことも耐えてやると胸を張って断言できる。

 けれど、違うのだ。

 シャドウ達は確かに自分達の欲や想いの欠片だ。でも、だからこそ違うのだ。

 元々は自分達から派生した意思がペルソナ同様、意識の狭間で棲んでいたのだろう。ただ、そこからはその単体のみしかない。つまり、その欠片は元よりもただ異常に膨らんでいくしかない。欠片だけじゃ、肉をつけるまでには元の意思だけをただ大きくしていって深みに嵌っていくだろう。

 それは、自分から派生したものではあるけど、元々の自分そのものではもう無いんじゃないか。

 だから、違うのだ。…これは、本来の達哉じゃない。



「お前ェは、お前ェ等は…違う」
「だからお前達から生まれたと      
「…ああ、生まれただけだ。そこから成長して肉付けたのはお前ェらで、俺達じゃねェ…」
      !」

 栄吉は急激に自分の脳が冷えていく気がした。途端にパニックから冷静さを取り戻していく。違和感がほろほろと解けていくのと合わせて。

 腰を持つシャドウ達哉も全身を預けているシャドウ栄吉も、今の体勢では顔を窺うことは出来ない。ただ、微かに声を震わせて押し黙った。

 今なら…生まれた欠片が必死に姿を見せたことを可哀想で、少し愛おしく思える。

 シャドウ達は動きもしないで黙り込んだが、やがてシャドウ達哉が突き挿れている肉棒をズルズルと静かに抜いた。

 ただ、何も言わずに引き下がるのは癪だったのか、ただ見当違いに腹を立てたのか、背後から首筋に噛み付かれた。凄く痛い。可笑しくなりかけた身体ではそれすらも微かに甘さに変わりかけたけど、やっぱり痛い。それでも暴れることなくただシャドウ達にこう告げた。

「この身体が壊れちまったら…タッちゃんが悲しむ…。きっと物凄く自分を責めるだろ…すげェ優しいからさ…」

 自分の知らないところで自分のシャドウが暴力を振るっていたことをもし知ってしまえば。

 シャドウ達哉は一度グッと力を込めてから首筋から離れた。腰がガタガタで動けないが、首だけ少し向けると、俯いて傷付いたような、どこか悔しそうというような顔付きをしていた。

「…そうやって、耐えていたから俺は      
「タッちゃん」

 シャドウ達にとっても、永遠とも思えるような時間の中、恐怖を抱きながら欲を抑えていたのだろうか。何か堪えるようにして辛そうに呟いたシャドウ達哉だったが、シャドウ栄吉の声がピシャリと阻んだ。

 また首を捻って何とかシャドウ栄吉の顔を覗いてみたが、こっちは表情があまり読み取れなかった。始めから気付いていたのか、そもそも達哉の存在が自分に向きさえすればそれでいいのか分からないが、はっきりと留めさせるだけの声色だった。

「お前ェ等は…違ェんだ…」
「!…、      

 もう一度はっきり言うと、今度はシャドウと戦闘した時のように、予兆も何もなくスゥ…と消えた。シャドウ達哉もシャドウ栄吉も、本当に綺麗に消えた。

 覆い被さっていた栄吉は薄い身体の分ベッドに沈み、気付けば薄明かりが射していた。

 あれだけ人を嬲っておいて、壊したいと願っておいて、存在を受け入れながらもそのことを否定すれば、驚く程あっけなく簡単に消えてしまった。欠片はやはり闇の部分と比べると脆かったのだろうか。

 ただしっかりと身体に暴行の痕やら精液やらは残していて、あっけなさに驚けばいいのか、気怠るさに萎えればいいのか、最後まで理解出来なかった。

 夢のようで、夢じゃない。シャドウはただ存在を認めて欲しかっただけなのかもしれない。達哉の気遣いも、自分の想いも、気付いて欲しかっただけなのかもしれない。まぁやり方には問題があったとは思うが、達哉が抑えていたことだけでも知ることが出来たのだから、それは大きな収穫であり、これから改善していかなければならないと痛感する。

 …今はタッちゃんに身体の痕は      、そう思って見せるべきなのか見せないでおくのかで迷った。ショックを受けさせたくないが、求められれば拒否することが出来ないなんて分かりきっている。とりあえず脳髄が溶けるほどのキスからしてみようか。それなら何とか頑張って出来るかもしれない。シャドウのような積極性がないわけではないんだから。

 身体が痛い。でもこの痛みはシャドウ達の痛みだと思うと嫌悪するものではない。



 シーツに目をやると血や精液が所々付着していた。そこに身を屈めて舌を伸ばして舐め取った。苦い。

 狂気はある。達哉にも自分にも、誰にでも。でなかったら、壊されていないのに犬のようにシーツを舐める自分は何だというのか。




fin.

2008/12/27

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