PERSONA3 UNDER TEXT

ミステリーフード


 タルタロス攻略中のことだった。お宝を漁りに精を出していた面々は、何個目かのミステリーフードを発見した。

 いつにも増して大量と言える程の量になってしまった。このミステリーフード、処理が大変面倒なのである。今まで口にしなかったのはもちろん、捨てるにしてもグミ状の球体でかさ張るし、燃やすと物凄い異臭がするのだ。

 一番賢い方法は"最初から拾わなければいい"ことなのだが、グルメキングに渡すとかでリーダーと呼ばれる彼が見つける度に拾ってしまったのだ。結果大量になってしまい見なかったふり、という行為では済まなくなってきたのであった。単純にこの機会に究明をということもあったかもしれない。




「つーかさぁ…いい加減ほったらかすのもどーなの?」

 寮に帰った後、全員で集まってついにこのゴロゴログチャグチャした恐ろしい食べ物について会議をすることになった。テーブルの上に丁寧に皿に盛り付けられた黒の物体。それを皆で囲む。

「…成分が何か分からないからな…タルタロスにある時点でアレだしな…まぁ、元が学校ということなら、誰かの食べ置き、ということも考えられなくは無い」
「桐条家の研究チームをもってしても詳しくは判明しなかったんだ。成分的に食べられないことはないはずなんだが…」
「形状、感触から、私の記憶されたデータでは、コーヒーゼリーが一番近いような気がするであります」
「風花、分かったりしないの?」
「さすがに物は…何も感じれないの」
「君は、リーダーとしてどう思う?普段は使用していないみたいだが…」
「…回復するならペルソナ使った方が効率がいいというか…正直どうでもよくて」
「どうでもいいって…」
「はいはい、君はそうでしょうねぇ〜」
「話がまとまりませんよ…どうするんですか?」

 ……

 皆が目を合わせあう。そこには様々な意思が交錯していただろう。

 そして暫くした後、順平の手が勢いよく持ち上げられた。

「…、…はい〜〜っっ…皆様大変お待たせいたしましたぁ〜〜ではーー第一回ミステリーフード毒味会開催で〜〜す…!ルールはぁ      
「言わなくていいわよっジャンケンでしょ!?」
「えっ…ジャンケンって…」
「…まぁ、一番平等、かつ効率的ではあるな…」
「じゃあ、コロマルは不戦勝か…羨ましいな…」
「っはっはっは…わんっ」
「よかったですね、コロマルさん」
「ちょっと…!僕は参加しませんよ!?子供の僕にそんな毒っ気のあるもの口にしろって言うんですか!?」
「こーいうときだけガキぶるのは許しませーん。はい、じゃー出っさなっきゃ負っけよぉ〜ジャーンケーン…」




「……本当に食べなきゃ…駄目なの?」
「…なんか風花だと気の毒で仕方ねぇな…」

 斯くして公平なジャンケンにより、第一回のミステリーフードの犠牲者が風花に決定したのだが、清純なイメージの彼女におどろおどろしい黒の物体は不釣合い以外何物でもなく、周りは同情の目で見るしかなかった。しかし率先して自分が食べるほどの勇者はおらず、この件に関しては、やはり自分の身が一番可愛いのであった。

「ダメダメっ一口食べるだけでいいから。風花だったら大丈夫だって!」
「どういう意味…?」
「あー…とにかく、なんかあったら最善は尽くすからっはいっ頑張って!」

 尻込みしながら今にも泣きそうになっている風花に、ゆかりが笑顔でとんでもないことをサラっと言ってのけた。

 風花は愛らしい顔を歪ませたが、ここで退いてはまた寮の皆を困らせてしまう、と妙なネガティブ、いやこの場合ポジティブだろうか、それを抱いて、黒の物体に手を伸ばした。

「う゛ぅ゛……、っう…!」

 ビー玉程の大きさに千切った物体を意外にも男らしく小さな口に放り込むと、きつく目を閉じながら歯でその物体をプレスした。

「どっどう!?どう!?風花?」

 全員が興味津々に風花の顔を覗き込む。数回顎を動かすと、ごくり、と喉を通過した。

「…      ッ、…」

 それから暫くし、急に口に手を当て、今にも吐きそうといった風になった。華奢な身体は小刻みに震え、顔面蒼白になってしまった額からは嫌な汗が止めどなく流れ続けている。

 囲む面々は、大丈夫かとおろおろとするが、大丈夫かと言われて治るのなら医者はいらない。つまりはただ、突然の恐ろしい惨劇に全員が情けなくおろおろとしているだけだった。

「ぅ      
「ふっ風花ぁ!?」
「山岸…ッ!!」

 次に大きくビクンと身体を震わせた風花は、白目を剥かんばかりに後ろに倒れた。


 そこからの一同の判断は早く、すぐ介抱して医者に診せたのだが、意識を失ったままで、匙を投げてしまう程原因は不明だった。身体に異常はどこにも無いらしいのに、意識が回復しないのだ。これには影時間を経験している彼等も慌てふためいた。しかし、そうしたところでどうすることも出来ないのが現状である。

 もの凄い罪悪感を抱く、だからと言って、自分が食べていたらああなっていたのだが…

 もう後は医者と神頼みである。とりあえず全員で交代しながら毎日見舞いをするということが決定した。




「風〜花ぁ〜…?」

 意識を失ってから三日目、今日は順平の当番ということで個室になっている風花の病室を覗き込むがやはり目を閉じたまま。寝息だけを静かにたてている。眠り姫のよう、と言えば聞こえがいいが、原因は錘が刺さったわけでもなく、林檎を口にしたわけでもなく、ジャンケンで負けて奇妙な黒の物体を食べたせいなのである。

「風花…大丈夫なのかよ…」

 心配から溜息をひとつ吐くと、ベッドの隣に用意されていた椅子に腰を下ろした。

 見守ることしか出来ないが、とりあえず汗を掻いてはいないだろうかと様子を見た、その時である。…風花の瞼が微かに震えた気がした。

「え…っ!?」

 立ち上がった弾みで椅子を引き倒しながら、思いきり至近距離で風花の顔を覗き込む。

「…、…ぅ…ん…」
「風花ッ!?ちょっちょっ…ナ、ナースコール!!…ッ      !?」

 やはり、意識が戻っている。慌ててベッドの端にかけてあるナースコールに手を伸ばそうとした瞬間、凄い力で伸ばした腕を掴まれた。

「え…風花…?」
「…じゅ…、順…平…く、ん…?」
「あっ…そ、そうっオレ!今、医者呼ぶからな…っ、良かったぁ…目ぇ覚めて」
「…いや…」
「へ?」
「誰も…呼ばないで…呼ばないでッ!!」
「な…、…っぅおわッッ!?」

 いきなり叫んだと思ったら、掴んでいた腕を思いきり引っ張られて、その勢いで順平はベッドに倒れこんだ。

 風花が自分を引き倒す程の力があるわけないとか、医者を呼ぶことを拒否する意味が分からないとか、そういうことを考える暇もなかった。ただ、突然ぐるりと視界が反転したときには背にシーツの感触があって、目の前には風花がいたのだ。

「なっ何…、えぇっ…!?」
「……」

 倒れた身体の上には柔らかな人肌が乗っていた。何度も何度も瞬きをし、辺りを見回して、ようやく順平は風花が自分の上に馬乗りになっていることを理解した。

「え、え…?おかし…っ、…!…なんか、目ぇヤベェぞ、風花…」
「……」

 さっきまで昏睡状態だった人間とは思えないほど、目の前の大きな瞳は禍々しくギラついていて、睨みつけるように上から見下ろされている。突然の事に慌てて、軽く押し退けようとすれば、身体全体で押さえこまれてしまう。まさか突き飛ばすわけにもいかず、捕らえられた虫のようにモゾモゾと身体をくねらすしか順平には出来なかった。

「おち…落ち着けっ、落ち着けって…、な?大丈夫だから、とりあえず退いてくんねぇ?…っつ!?」

 何か錯乱状態にでも陥っているのかと、優しく諭してみるが、風花は首を横に振る。そしてほぼ全身密着と言える程に更に身体を寄せた。当然順平は男として赤面し激しく動揺した。

 むむむっ胸っ胸当たってるって!!いや、嬉しいんだけどっ、凄ぇ嬉しいんだけどっ、何か可笑しいだろ!?風花がこんな…っ

 突然の物凄い展開に頭が追いつかない順平とは対照的に、風花は不気味なほど冷静に順平を見つめていた。


 言い表せない焦りを感じて、順平が風花の名を呼んだ。すると、風花の肩がヒクリと跳ね、肩を押さえていた手をシャツに移動させた。そして、

 ビリィッ、と個室に高い音が上がった。

「ッ、なっ…ぁ…!?」

 ドレスシャツをその細くか弱い手に全身の力を込め、乱暴に引き裂かれる。ブツブツとボタンが千切れる音がして、見る見る肌が曝されていく。

 今度こそ訳が分からず、順平が声を詰まらせて目を白黒させてると、首だか鎖骨だか、その辺りに風花の柔らかな唇が触れる。

「ン…ッ!?ちょ…っ、風、花ぁ…!」

 吸われたのだろう、肌が引き攣れるピリ、とした刺激に我に返り慌てて無理に引き剥がすと、風花は気分を害したように眉を寄せ、まるで怒り狂い毛を逆立てる猫のように身体を震わせた。それどころか、薄っすらと風花のまわりに何か…いや、何かどころじゃなく、明らかにペルソナを召喚していた。

 確か、召喚器はただの補助的な役割で、確実に召喚するためのものであって、理論的には召喚器無しでもペルソナを出すことは可能…なはずだが。だからといってこれから良いことが起こる可能性はゼロに等しい。

「…お、オイ…、待っ…ふ、風花…ッ?」

 嫌な冷たい汗が滝のように流れると同時に、風花のペルソナが発光した。何だと思う間もなく、とんでもない重力に押し潰され、額を強打されるような、内臓を破損させるような衝撃が身を襲った。ベッドがギシギシと悲鳴を上げる。

 風花のペルソナは探索や感知に長けていて、全く攻撃型ではなかった。ただひとつ、彼女自身ですら効果が読めない『オラクル』を除いては。




「……、…っ…、ィ゛…」

 ズキズキと鈍痛が襲う頭に堪えて、瞼を薄く開けると、爽やかなブルーグリーンの髪の女性…風花の顔が見えた。

 ぼんやりと見つめていると、一瞬こちらにちらりと視線を走らせたが、またすぐ目を伏せて、長い睫毛を煌めかせた。

「…ゥ、…ど、なって…風花…っつ?!」

 起き上がろうとするとグンッと手が締まる感じがした。驚いて見ると、破られたシーツらしいもので両手が荒くベッドの柵に縛りつけられていた。

 なんっっか…襲われてる気が凄いするんだけど、いや、てかどう見たってこれ襲われてんだろ!?

 意識がクリアになって、とんでもない状況に自分が曝されていることを理解すると、順平は動かない身体を捩じらせて、必死に風花を呼んだ。しかし、当の風花は声をかけても全く聞く耳持たず、というか聞こえてすらないようで、赤く色付いた可愛らしい舌を突き出して、胸を舐め始めた。

「ッ…、ちょ…と、風花…、ン…!」

 全く未知の箇所を唾液を絡ませた舌がべったりと濡らしていき、子犬のようにしつこく吸われて歯を立てられると、擽ったい以上に鋭い痛みに似た痺れが血管を伝わっていくようにじわじわと突起から拡がっていく。一方的に絶え間なく与えられる刺激に、どんどん息を荒くして、それを耐えるように歯を食い縛る。

 風花の舌は休むことなく這い回り、そのうち胸から、つつ、と下腹部へ滑らされていく。胸から離れたことに息をつくが、すぐその違う箇所が熱を拾ってしまい、鼻から抜けるような甘い声が漏れてしまう。溢れてしまうほどの味わったことのない刺激に引き摺り込まれるように感じたとき、舌の滑る感触が止んだ。ようやく気を抜けると思うと、金属の音が煩い程に鳴った。

 風花は跨ったまま、慣れない手つきでベルトを外そうとしていた。さすがにこれ以上は溺れるわけにいかないと、必死になりすぎて裏声になりながらも制止した。

「えぇ!?ちょっと!!それ…は…ッッ、嬉しくないって言えば嘘になっけど…、ああいやっ、でも、その…や、やっぱダメだって風花!!」

 順平の抗議も空しく、風花は腿辺りまで僅かにスラックスを下げ、少し勃ち上がってほんのり液体を浮き上がらせている性器を取り出し、しっかりと掴まれた。

「ッ…!!」

 ビクンと身体が同じように跳ねる。嫌でも身体が反応する箇所を、清楚で可愛らしい女の子に掴まれれば一溜まりも無い。それでも思ったより結び目がしっかりとしていて余計に強くなっていく拘束ではどうすることも出来ない。

「風…花…っ、…」

 風花は虚ろな瞳でじっと、掴んだモノを見つめると、何の躊躇もしないでそのまま、口に運んだ。

「ぁ゛っ…!!ま…ッ、くっ…」

 ぬるぬるとした感触に身体がゾクゾクと震える。下腹にジンとした疼きが起こって、それはそのまま口に入れられた性器に伝わってビクンと痙攣する。

 風花が舌を絡めて唇を動かせば、独特の水音が鳴る。

 抵抗出来ない手を動かして、熱く疼く身体を何とかしようとするが、やはり無駄に終わる。無駄な抵抗と、呼吸に合わせてもらえない刺激とを食い縛って耐えるのは、異常に体力を持っていかれて、もう既に順平の息は絶え絶えになっていた。



「…ン、ふぅ、む…」

 風花は無理やり順平のものを勃起させると、そのまま真上に跨り直した。スカート状になっている病院着の裾に手を入れ、ずるずると布を足の間から、取り出した。

 布…、何、淡い…水色…?

 ってオイオイオイオイ!!?そっそれっそれはッ!!

 下着を脱いでいることを認識した順平は、風花がまさに本格的な行為を始めようとしていることに気付いて、軽くパニック症状を起こす。

「さっさすがにダメだって!!生なんかでやったら大変なことに…ッ!!」
「……っ、…      !、……ぅ゛…」

 下着を投げ捨て、腰を下ろしかけたとき、ピクっと震えて風花の顔が苦しそうに歪み、順平の顔の横に手をついて突如噎せ返りだした。

「っは、うぇ…、…ゴホっ…うぅ゛…っ」
「…え、…何…ふ、風花…?大丈夫か!?」
「けほっ…、…ぁ…、……え、……えぇっ!??」

 呼吸が正常になっていき、ハッとして顔を上げた風花は眼に光を取り戻していった。それと同時に現状に驚愕して、順平の上から飛び退いて真っ赤になって湯気まで出そうな顔を手で覆った。

 正気に、戻った…?そう順平が覚束ない頭で何とか判断し、恐る恐る声をかけてみる。


「ふ…風花…?元に戻ったの、か…?」
「な、何…ッ、い…ッいやぁぁぁあああぁぁ!!!」
「ええぇ゛ッ!?」

 この状況を理解したのか突然の劈くような悲鳴に、順平も目を丸くする。



「…      風花!?」

 風花が叫んで数秒後、慌てたような足音がし、バシンっと勢いよくドアが開かれた。

「ッ!!い…いやぁぁぁあああぁぁ!!!」
「ゆ、ゆかりッチ!?」
「ななな何してんのよ!!この性犯罪者!!」
「はぁッ!?」
「うぅ゛…、っひ…」
「風花泣いてんじゃない!!サイッテー…意識なくした風花を襲うなんて…っ」
「ちがっ…!み、見ろよコレ!!オレ縛られて…!!」
「アンタの好きなプレイなんて知んないわよ!!」
「プ、プレイって…ッ、どこのドMだよ!?だから違うって!!」
「き、桐条センパイーー!!ちょっと!!早く来て下さいッ!!」
「わ、馬鹿っ呼ぶなって!殺されるっっ!!勘違いで処刑されるーーッッ」
「…どうした岳羽?」
「うわぁぁぁああああああああ」




「…そーいうわけでぇ、今後絶対にこのクソフードは食べないことを提案します」
「賛成だ」
「私も、であります」
「うう…ぐすっ」
「…すごい効果なんだな…」
「へぇ…良かったです。僕食べなくて」
「…、…コミュランクを上げるためには、使い方によっては便利かも…、あ…グルメがどうとか言ってた奴に一度あげたけど…大丈夫だったのか…?」

 リーダーは女性陣が激怒しながら捨てている大量の、今回の騒動の発端ミステリーフードを少しバレないように頂戴した。

 そこでふと気付く、順平の姿が見当たらない。

「……で順平は?」
「冷凍状態のままです」
「…誤解は解けたんじゃないのか?」
「氷が溶けないんです」
「…死なないか?」
「著しい体温低下が見受けられますが、氷が解ける時間を予測した結果、僅差で命に別状はないと思われます。あと美鶴さん達が解凍を拒否しているであります」
「……使わないことがいいってことは…よく、分かった」

 この事件以降、ミステリーフードは見た目も効果もミステリーということで、タルタロス攻略中は取得すること自体禁止された。

 ついでに順平が解凍されたのは、この決定時から五時間後だったとされ、身体と心の傷を負った順平は一週間枕を濡らし続けたという。




fin.

2007/08/10以前(詳細アップ時失念)
2008/06/08 文章修正

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