PERSONA3 UNDER TEXT

愛玩犬D


 馬鹿で単純で性処理にいいと思っていた。まさか愛に飢えていると思わなかった。必要とされていることに喜びを感じ、執着が無いように見えて独占欲が強い。

 でも自分としては淡白な関係でいたかった。そもそもコミュニティの関係を円滑にするために性処理になる犬が欲しかっただけなのだから。だから行為の後、そのまま自分のベッドで寝てしまおうが添い寝なんてしてやらずに叩き起こして部屋に戻らせた。バレる確立が他より圧倒的に低いとはいえ、周りに変に勘繰られたら困るし、何より順平に勘違いされてはいけない。

 そう、"順平に勘違い"されてはいけないんだ。




「っぁ      …」
「う…、っつ…」

 自分が達してすぐ、順平も吐き出したのだろう、腸壁により熱いものをゴム越しに感じた。脱力した身体を前に倒して順平にもたれると強く抱き締められた。腰を支えるとき時とは違い、何と言ったらいいのか…こう、ぐっと感情を込められているような、そんな感じだ。

 何だかむず痒いというか、純真な気持ちに対してどうしていいか分からず、暑い、と絡まる腕を解いて上体を起こそうとしたが、解いた腕が後頭部に回される。髪に指を絡めて唇を近付けてくるのを押し退けたが、それでも無理に引き寄せられる。いい加減鬱陶しくて頭を振って腕を乱暴に跳ね退けた。順平は拒絶されて酷く傷付いた顔をした。

「…ゴム、外さないと」

 順平から離れて、処理を楽にするため自分のものにも付けたゴムを外す。それを見て拒絶じゃないと立ち直ったのか順平も自分に被せたゴムを外して口を結ぶと、尻尾でも振るかのようにまた顔を寄せてきた。

 唇を合わせるキスをしてからというもの、それが気に入ったのか最近はよく順平からキスを強請ってくる。

「無理矢理するな」
「じゃあオマエからしてくれよー」

 猫撫で声を発し、期待の眼差しで見つめてくる。仕方なく唇を合わせてやると、喜んで吸ってきた。もっとと縋り寄ってくるのを突き放そうとすると、肩を強く掴まれて舌を挿し込まれた。幼稚で無遠慮なその舌に歯を立てると痛みに驚いて舌を引っ込め、その後はしょぼくれた。

 あれだけ拒絶していたくせに、少し躾けてやった程度で、愛情に似た何かをやった程度で、犬よろしく尻尾を振ってくるなんて…行為に嵌った、というより、愛情を受けたがっているように見えた。自分からすれば、良く言えば疑似恋愛のつもりの"ごっこ"にこんなに白い気持ちでのめり込んでくるとは思わなかった。





「…あのね、今日家来ない?」

 順平との情事から一週間程経った放課後、部活終わりにマネージャーの女の子が僕の腕に手をやんわりと絡めてきた。

 「家族、今日帰り遅いんだ」と言いながら、いつもはしない甘い香水の匂いを漂わせ、恥らいつつも潤んだ瞳で見上げてくるその様に色事を期待しているとすぐ理解出来た。

 心境としてはリスクが高いことは断りたかった。だけど女の子にここまでさせて断るなんて、それは失礼だろう。頭で考えていると、今度は口に出してどうしてもと誘われた。こう言われては、ついていく他無い。

 久しぶりに周りを警戒しながら彼女の家を訪れ、部屋へと行った。ベッドを椅子代わりに話しているうちに手を重ねられた。手に視線を落とし、それから腕を辿るように顔を上げると彼女は頬を染めて見上げてきた。見つめ返すと名前を誘うように呼ばれた。

 抱き締めると隣に居るときよりも鼻腔に直接甘い香りが広がった。肩は華奢で腕なんか力を込めると折れそうで。布越しでも肌が柔らかいのが分かる。キスをするとグロスのベタついた感触がしたが、唇は柔らかかった。仕草も声も何もかも彼女は女の子ということを実感させ、可愛らしかった。

 そしてそのまま丁寧に丁寧に抱いた。




「あ、おかえりー」

 帰宅するといつもの仲間の声がラウンジに響いた。皆の挨拶に微笑んでから、ラウンジのソファーで寛いでいた順平を見る。そして眼で合図した。

 合図にも慣れて何を要求しているのか分かるようになった順平は、命令に従って少し遅れていつもの緩い調子で部屋に来た。入ってきたのと同時にそのドアに押し付けて唇に噛み付いた。突然のことに驚く順平を無視して唇を貪る。

      っ…どう、し」
「…黙ってろ」

 困惑した雰囲気が伝わってきた。行動が読めないのもあるだろうし、もしかしたら彼女の残り香に気付いたかもしれない。

      っ、オマエさあ      

 言いかけたところで舌を吸うと肩を震わせて代わりに熱い息を漏らした。そのまま咥内を犯していると徐々に静かになっていく。

「…脱いでベッドに」
「おい…」
「早く」

 苛々とした口調に怖気づいたのか、こちらの様子を窺いながら服を脱ぎ始めた。上を脱ぎ、ベルトに手をかけたところで不安げに見つめられ、どうした?と優しく訊かれた。その人の善さが余計に苛々を増幅させた。…どうした?どうもするはずがない。

 薄い身体を突き飛ばしてベッドのスプリングで跳ねたところに覆い被さった。スラックスを無理やり脱がす。急いたことでスラックスと一緒に腿を引っ掻いたり肉を抓んだりしてしまったが、構わず剥いだ。

「おい、痛っいたた…自分で脱ぐって…」

 目を丸くして乱暴な挙動に動揺していた。傍若無人な振る舞いは多々あったものの、傷を残すような乱暴は少ないからだろう。

「っん゛、う゛      

 スラックスを剥ぎ取ると、再び唇を重ね、咥内を弄って逃げる舌を強く吸い上げた。唇も噛み切り血を舐め啜ってその味を舌に絡ませながらまた咥内を探る。いつも口を弄ると痺れたように身体を反応させ、恍惚の表情を浮かべるのだが、呼吸を合わせない、荒い扱いに顔を顰めている。

「落ち、着けよ…なに…怒ってんの?」

 粘着質に食らいついていた唇を離すと、何か気に障ることをしたのではといった様子で少し恐怖の色を滲ませた。苛々はしている。でも順平のせいではもちろんない。

「違う、…いいから好きにさせろ」

 表情に変化がほとんど無いために心情が読み取れないのだろう。でも少し声の質が低く、余裕が無かったかもしれない。自分で僅かに感じるほどの本当に微妙な差だけれど。順平は下からじっと様子を窺うように見上げてきて、暫くして身体の力を抜いた。

「いつも好きにしてんだろー」

 順平が持つ独特の緊張を解くような柔らかい雰囲気で優しく笑って、そう冗談めかしていった。何でも許してくれそうな包容力というか、緩い感じに不本意ながら、少し勢いが落ち着いたものの、それでも身体が治まらなかった。

「痛っ…」
      足りない…」

 肩に首に胸に腕に噛み付いて歯形を残し、腰を強く掴む指を減り込まして鬱血痕を残した。痛いだろうに呻いたり身体をビクつかせたりしたが、シーツを指が白くなるほど握り締めて耐えていた。言葉通り好きにさせるつもりなんだろう。

 足りない足りない。可笑しい。前の鬱血痕と合わせてこんなにも痕を残しても足りない。満たされない。


「…大丈夫か?」

 順平の手がぐっと頬を撫でた。汗に濡れた髪が顔に張り付いて重くなるのを感じた。気遣いが過ぎているのではなく、汗をあまり掻き難い体質だから普段と比べると妙だったんだろう。だけど汗なんてどうでもいい。早く早く      、…何を?モヤモヤとした焦燥感に訳も分からず突き動かされた。

 順平の胸に手を宛がう。薄い胸は適度に締まっていて、柔らかさや豊満な膨らみなんてあるわけがなかった。あの弾力のある胸を包んだ感触が未だ残る掌をぺたんこの胸に重ねた。

 足りない。膨らみが、ではなく。足りなかった、"アレ"では。

「あ…う゛っ…」

 薄い肉を揉み、突起を捏ねて抓りあげた。こんなこと彼女には、彼女達には出来やしない。揉みしだくことも、ましてや噛むこともしない。幻想のように抱く少女たちのイメージを崩すことはせず、快感よりも愛の証明。愛されていることを肌で感じたいから前戯や後戯を大事にする。所詮男と女では脳の構造が違うのだから。

 だからこんな…

「い゛っ…!」

 苦痛の呻き声なんて。聞けない…順平だけだ。


「んっ      !」

 濡れティッシュを乱暴に後孔に挿れて掻き回した。もう今はどうでもいい、とにかく早く      

「今日は…挿れんの?」

 頭を持ち上げた順平は少し眉尻を下げていた。あまり受け入れる側をしないのに、いつも以上に乱暴な扱いで抱かれるのは怖いんだろう。

「いや、ヤんのは…いいんだけど、その      
「お前は男だろ、女みたいには扱わない」

 え?という顔は中を抉ることで歪んだ。優しくも、愛の営みも、うんざりだ。この身体は僕のものでどうしようが勝手。どんなに肉をぶつけ合っても、中を突いても、先に果てようが相手が満足しきろうが身体が音を上げて嫌がられようが、犬なら構わない。

「痛      !待っ…まだ…っ」

 腰を引けさせようとするのを無理に寄せて擦り付ける。先走りを塗りつけるように何度か先を押し付けて何とか侵入を試みる。

「な…生…」

 それがどうしたと言わんばかりに捩じ込んだ。熱が欲しい、ゴム越しなんかじゃなく、血が流れる肉で包まれたい。病気はともかく、妊娠なんてしないんだから、問題ない。

 痛い、きつい。でもこれは十分に慣らしていないから、順平の味。苦痛の悲鳴も然り。

「っう゛…、っ      

 噛み締める唇に気付いて顎に手をかけ圧力をかけた。下の階には皆がいる、それを分かっているのに本能が理性を上回り始めた。

「声、出して」
「バカ…っ!出せっかよ…っ」

 声を耐えるほどの余裕があるなんて気に食わない。自分はこんなにも余裕が無くなっているというのに、がっついて確かめなければいけないほどストレスが溜まっているのに。


 彼女を抱いた。ついさっきだ。

 彼女はお世辞じゃなく可愛らしかった。肌理細やかな柔らかい肌、細く華奢な女体、漏らす高らかな声、快楽に身を捩る様に自分の雄の本能が確かに奮い立った。

 …でも足りなかった。

 本能のまま行為に及べない制御とは別に、何かが決定的に足りないと感じた。よく分からない、分からないが触れれば触れるほど足りない何かは靄となって残った。

 足りない、満たされない。      じゃあ、それは順平なら満たされるとでもいうのだろうか。だからこんなに急いているのだろうか。


 きつい中を突き上げた。ぐにぐにと肉を裂いている感触をダイレクトに感じる。ああ熱い。後ろだからか、身体が締まっているからか、締め付けが他の器とは比にならない。もちろん後ろに挿入するなんてアブノーマルなプレイを女性達に強要出来るわけがないからだけれど。

 腰に爪を立てて、奥まで押し込んでずるずると腰を引くと背が震えたのが周りの肉の痙攣から分かる。

「っ…、んぅ…」

 突き上げにぎゅっと固く閉じていた目を薄く開いた。自分を追いかけるその眼は濡れていた。そして声も。甘い泣き声は嗜虐心を煽る、女でも男でも。だけど差がある。本当に行為に移せるかどうかだ。肉体的な痛みを快楽に繋げることは苦手だろうがそれでもこちらには関係ない。玩具は簡単には壊れないし、体力もある。

 動きを再開するとまた強く目を閉じた。そのうち左右に首を何度も振りやっぱり唇を噛み締めた。その唇をこじ開けようと舌を差し込もうとするが上手くいかない。苛々して喉に食らいつくと痛みと酸素を得るためにやっと口を開けた。濁った音だったが、動きに合わせて喉を引き攣らせるような声を漏らした。もっと漏れる悲鳴が聞きたくて腰を激しく動かすと、急に腕が上がった。

「っちょ…、ちょっと待てっ…待てって!」

 されるがままになっていたが、堪りかねたように順平が動きを止めようと肩を掴んだ。それでも腰のピストンを緩めないでいると、首に腕を巻きつけ体重をかけられ、必死で止められた。

「ホント止まれって…ッ、あ…熱い…」
「どこが」

 意地悪に問うと羞恥に顔を歪めた。もごもごと何か小さな声で呟いているが、聞こえないからまた動きを再開させると、慌ててしがみ付かれた。

「お前がゴムなしで…大して濡らしてもねぇのに、ガンガン突いてくるからだろっ…!」

 答えになっていない叫びを苦しそうに絞り出された。つまりこういうわけだから接合部が摩擦で、あと僕自身であまりにも熱くて我慢出来なくなったということだろう。睨まれたが、眉尻が垂れていて迫力も何もない。

「好きにさせろって言ってるだろ」
「す、好きにして良いから、ゴムつけろって…!コレ、無理っ…おかしくっ」
「…なればいい」

 吐き捨てるように呟くと、痛い程になった自分の欲を解放するために腰を掴み速度を速めた。

 順平の達するタイミングも自分に合わせようと、前立腺を突きながら性器を掴んで荒く擦り上げた。

「っ      、あ、っ順平、も…!」
「あ、あ、待      

 自分が達してから、さらに強く手の中のものを擦ると、待てとか声を上げながら吐き出した。同じくゴムを被せていなかった為、そのまま自分自身で腹を白く汚した。

 達したのは今日、これが初めてだった。


 彼女との性交の時…といってもつい一時間ほど前だけど。僕はゴムを持っていなかった。彼女が一つ差し出してくれたけど、薄過ぎて、途中で破れてしまった。だけど気持ちがすでに傾いていて望む眼差しが拒むことを許さなかった。だから最後は外で射精しようと思ったが、自分が盛り上がる前に彼女は絶頂をむかえ、満足そうに抱きついてきた。絶頂に夢中で、僕が達したかどうかなど気にかける余裕はなかったんだろう。ゴムをしていると彼女は思っていたから中に出される感覚もないわけだし。当然その身体には力が入っていなくて、二度目はないと悟り同時に萎えてしまった。

 抱きついてくる彼女はこんなにも折れそうで、体力がなくて…絶頂のタイミングも当然自分と一緒であると思い込んでいるお姫様だった。


「あーあ…ベタベタじゃねぇか…、…うわっ」

 順平は乱れた呼吸を整えながら腹の残滓を拭おうとしていたが、自身が嵌めた中で再び元気を取り戻し始めているのを確認して、構わずにまた腰を動かした。

「あ、おい…、っそんな…くっ付いたら汚れ…っ」

 身体を倒して密着すると、ファスナーを下げただけの身ではシャツに残滓が擦れる。今はそんなこと、どうでもよかった。荒い息を順平の肩に吐き出しながら自身の動きを再開させると、先程中に吐き出した自分の熱い液体が絡みつく。

「うう…もっと熱くなったぁ…」

 再度の激しい前後運動に加え、それに絡みつく液体で体感の熱さがもっと上がったのだろう。順平はか細い泣き声で嫌がった。片手を抱きしめるように肩に回し、何度も何度も自身を沈める。順平は突く度に反応し、僕にしがみ付く。自分自身こんなに夢中で誰か喰いついたことがあっただろうか。

「順平…」

 漏らした声に皮膚の中も外も反応し、更にきつく抱きついてこられた。それはやはり指がしっかりとした、大きい男の手だった。キスしてくれと頬を啄まれたが、応えなかった。




 何度吐き出したか何度吐き出させたか。自分は絶倫ではないし、体力馬鹿でもない。けれど何か衝動に突き動かされていた。性的魅力なんて今日抱いた彼女に比べれば勝るはずないのに、貪り尽くしたい、そんな風に。

 もちろん自分の体力も限界だった。それでもやめてしまうと、"繋がり"が切れてしまう気がして、肩に顔を埋め、腰を動かし続けた。

 何だか、今日のことで倒錯した考えが決定的に崩れてしまいそうな気がした。抱くのに都合がいいから、都合じゃなく抱きたいから、…可笑しいじゃないか。

 愛されたいと強請る犬が鬱陶しかった。それなのに、犬が違うところに尻尾を振るのは許せなかった。それはただの独占欲だと、支配欲だと思っていた。それなのにこの様は何だ。

 ただの愛玩犬。自分にとってお気に入りの都合のいい犬。女性には出来ない鬱憤をぶつけられる犬。そう、ペットだって三日飼えば情がわく。きっと、それだ。勘違いされたらいけない。…勘違いしてはいけない。

 揺さぶられるままの順平は反応しなかった。もう嫌だと泣きじゃくることもせず、抱きしめた手を緩めることもせず。動く度に小さく音を漏らすだけ。

 ただ、それだけ。でも、それだけでよかった。

 ああ、手放したくないなんて、離れたくないなんて、それじゃあ…それじゃあまるで僕が、僕の方が      


「…順平、好きだよ」
「…嘘吐けよ…」

 強く抱いて掠れた声で告げた。抱きしめ返してきた順平も掠れた声で答えた。柔らかい声だった。

 前に同じやりとりをした。その時とは違った。もちろん好きだ。好きでないのに男を玩具になんてしない。それでも今はもっと違う好きだと思えた。順平の声も、信用していないあの時の声とは違うと思いたかった。

「…ずっと、そのままでいて      
「…ンだよそれ…、"躾"すんなら餌くれねーと」

 いつもの緩い声だった。髪の毛に指が絡まる。優しく撫でられていた。今回は払い除けなかった。

「ご褒美ねぇと芸、覚えられねぇから」

 思い出したかのように、またいつものじゃれついた様子で犬を"演じる"順平に顔を寄せられる。

「…犬のくせに生意気」

 首のシルバーチェーンを引っ張って強請る唇に優しく触れ合わせると、はにかんだように笑うから、僕はそれで満たされた。主人でいられた。

 愛玩…の対象にされているのは、自分なんじゃないか、そう思うとこいつには適わないんじゃないかと思った。




fin.

2015/04/21

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