種はひA
前を肌蹴させられた順平の薄い胸板に真田が手を伸ばす。肩を竦めるが、荒垣に羽交い締めをされている身では全く意味をなさなかった。
体を丸めて何とか縮めようとする順平の首筋が見えた。うなじに現れた羽のように黒く伸びる線が、心なしか長くなっていることに荒垣は気付いた。種の浸食が進んでいる そう考える他ない。
「…時間なさそうだな、アキ、下 」
浸食が進むことは寿命が削られていることと同じだ。ただでさえ怯えている順平に事を早めるのは得策ではないが、仕方がない。真田に指示しようと口を開いたが、どうも必要なかったようだ。
「順平、腰を上げろ」
「っ!…あ、待っ…」
真田に余裕はもうほとんどないらしい。荒垣が言うまでもなく、真田は急くように下を脱がせにかかり、下半身に手を伸ばした。
「やめ、っ…、ううっ…!」
鬼気迫る理由があるからだというのに、行為を進める滑る手に異常なほどビクついて、悲痛な声を上げる順平に、真田が顔を顰める。
「何度も言うが…お前のためにやっているんだぞ、ちょっとは我慢しろ」
「わ、分かってるっスけど…!だ、だってしょうがないっしょ!?考えるより先に反射的に出ちゃうんスから!」
「逆切れするな!嫌ならこのままでも 」
小さく丸まって、まるで虐待を受けているかのような態度に真田の苛立ちも募る。その姿に荒垣が大袈裟に溜息を吐く。
「落ち着けアキ、…順平も嫌なら猿轡でもしとくか?まぁ出来るだけ穏便にっつーか、こっちがまるで強姦してるみてぇだからあんまり勧めねぇが…」
「…っ、な、なるべく我慢、します、…」
双方にうんざりして荒垣がきつい言い方をすれば唇を噛みしめて従った。仲間の悲痛な声ももちろん聞きたいわけではないし、かといってあまり抵抗を激しくされると凌辱になってしまう。
恐らく、飛び火した真田にこれだけの精力増進効果や、催淫効果があるのだから、種を取り込んだ順平もその効果は相当なもののはず、だった。だが、頭と体が上手く繋がっていないような状態なのだろうか。一度快感を知り得ればすぐに体が順応するのだろうが、未知な行為はただ妙と不快を行き来するだけのようだった。
先程から、リーダー役である少年が用意してくれていた潤滑油を使って、ゆっくりと後ろを解してはいるが、少なくとも快感を得ているようではなく、何かに耐えるようにグッと噛みしめて我慢している。それぞれ作業的に体を動かし顔も険しい、ムードも何もない状態なので、仕方ないとも言えるが。
カップルならば首に顔を埋めるのも、優しく舌を伸ばすのも、緊張を解す愛情なり快感なりを感じられるだろうが、そういうわけじゃない。荒垣も真田も後輩として順平を可愛がってはいるし、順平も先輩二人を慕っている。しかし、性行為は別物だ。男の体温が"そういう意味"を持って触れるのは不快でしかない。
荒垣にもそれが分かっていた。だからそういう気持ちにしなければならないが、少しでも気を紛らわせたいと思ったその行為はより嫌悪感を増幅させてしまうだろう。
どうしたものかと考え、とりあえず緊張を解そうと羽交い締めを解いて、後ろから軽く抱き締める程度にする。片手で抱き締め、片手で頭を撫でてやる。
「っ!…荒垣サン?」
「あー…もっとこっちに体重かけろ」
一瞬拘束方法を変えられた順平はピクン、と反応したが、出来るだけ優しく撫でてやると次第に荒垣の方へ体重を預けた。そして何かに耐えるときは抱き締める腕を遠慮がちに掴むようになった。
暫く坊主頭を撫でていたが、俯いたときに見えるうなじが気になった。張りのある肌に浮かび上がっている黒の模様、刺青や作り物のような質感が不自然で、頭を撫でる手を首のあたりまで滑らせてみる。指で探るように黒の模様部分を触ると、ふるふるっと小さく震えて、首を竦めながらもう片方の抱き締める腕を更に強く掴む。
荒垣は、何だか飼い始めたペットが懐いたような感覚がして、少し愛らしく思えた。
「随分大人しくなったじゃねぇか、順平」
「…っ、ちょっ…、荒垣サン、くすぐった…っ」
「耳まで真っ赤じゃねぇえか…触れた程度でこの反応かよ」
親指の腹を耳の付け根に押し付け、ツーっと鎖骨あたりまで滑らせると、また大袈裟なほど震えて体を縮こめるように丸める。やはりかなり敏感になっているあたり、自覚症状がないだけで種の効果は抜群にあるらしい。後は気持ちの問題か。
荒垣は手のひらを順平の首にあてる。手のひらで半分以上包み込める細い首。その首の筋をチロチロと指で引っ掻くのを続けると、同じようにヒクヒクと震え続ける。逃げるように首を動かすが、体を押さえているため意味がない。
順平の反応に気を取られていると、突然その体が今までに比べて一層大きく跳ねた。
「っあ…!ん、うう…」
耐えるように唇を噛んでいた順平が声を上げる。荒垣の腕に一層指を絡ませ、体を強張らせている。
「…真田…サン…!」
苦しそうに真田を呼ぶので、荒垣が順平越しに真田を見た。順平ばかりに気をとられていたが、真田の種の効果はより顕著だった。眉間にシワを寄せて、随分と上気した顔を順平へと近付けていた。
指を更に増やして、激しく手首を回転させる動きに順平の体が引き攣る。
「…もういいんじゃないか?」
「おい、無茶するなよ」
指を挿しこんだ箇所を己の大きさに収まるようグッと広げようとするのを荒垣が制す。嫌がるように順平が仰け反って荒垣に密着した。
真田自身、シャドウの種、正確には飛び火の影響を受けている。常人なら無差別に襲いかからない程の効力だが、高い精神力と同性の後輩との性交への躊躇いが途切れそうな理性を何とか保っていた。順平が怪我をしないよう、腸壁を解していたがそれでも高まった性欲には逆らえない。病院で浣腸もして既に大分中は解れていたし、そろそろ己の下半身の方が辛い。だが、荒垣はまだ挿れるなと制してくるのだ。真田の手が多少乱暴になるのも仕方がない、と言える。
下半身に血液が集中して痛い、それでも荒垣の制止と順平の苦しげな表情に、真田は渋々後孔の拡張を再開した。
「っ…っ…、…」
「唇切れるぞ、力抜け」
「っあ、無理…!無茶、言わないで、くださいよ…ッ」
声を殺しているのか、この苦行に耐え忍んでいるのか、再度唇を強く噛みしめている。歯で圧迫された唇は今にも血が吹き出しそうなぐらいに真っ赤になっていて、それはそれで、普段意識もしない唇に何やら誘われる感覚に陥った。
「 ッ!?んん…」
「っつ…噛むな、我慢しろ」
荒垣は無理やり唇を抉じ開け咥内に指を乱暴に突っ込んだ。舌に絡まる指に苦しげに呼吸している。反射的に歯を立ててしまうこともあるが、荒垣の指だと思うと躊躇われてか、何とか指に吸いついて声を堪えた。
必死に自分の指をしゃぶる順平を見て、荒垣は妙な気分になった。いや、その"妙"なものの正体を理解していたが、納得したくはなかった。
ああ、何か不味いな、こりゃ…
指が濡れて生温かい舌が絡まる。切羽詰まった、くしゃくしゃの顔をして、細いが骨格のしっかりした男の体を抱く。普通なら不快に思うだろう。というかこの行為をするまではそう思っていた。穴だけあるならともかく、野郎相手だ。しかも順平は顔に幼さを残しているとはいえ、中性的の部類ですらない。どこを見たって抱くには萎える要素しかない そう思っていたのだが、反対に興奮を覚えた。
女とは違う、柔らかみのない男の体。それでも荒垣や真田に挟まれると一回り小さく細い。お互いの為と和姦であるにもかかわらず、本人が嫌がっているために、押さえられている様が背徳感をそして征服欲を刺激する。しかも同性であるが故に、多少の乱暴にも耐えられてしまう。だがその体が今は異常に敏感になって、触れるだけでその身を震わせることが出来る。この状態が、荒垣の中の妙なザワザワ感を更に増していく。
「んん、ん ん !」
「…犬かよ、オメェは…」
呆れとも頬笑みともとれる表情で、顔を真っ赤にして指に舌を伸ばす順平を眺めた。
順平にしてみれば、中と咥内を弄られて、しかも歯を立てられないために食いしばりも出来ない状態にされて、力も入れられないし、何もかも一杯にされてもうよく分からない。思考を停止せざるを得なかった。
「ふ、ん 」
「口ん中も随分良さそうじゃねぇか。大分種ってやつの効果が出てきたか?」
指で掻き回されると、頭の中もぐちゃぐちゃと混ざる。咥内すら、今まで感じたことのない感覚を覚える。荒垣の声にも反応を返す余裕もなく、体を熱くさせる動きに必死についていくだけだった。
自覚すらなかったが、種は確実に順平の体を侵していた。雰囲気に酔ったレベルではない、神経一本一本が剥き出しているかのように刺激を過剰に拾い上げる。舌の表面を指で引っ掻かれると肩を震わせるほどだった。
けれど、やはり順平には刺激が強すぎて、頭に血が上りそれが何か考えつく余裕などなく、つまり快感だとも意識出来ない。快感だと感じる前に、体が異常反応を起こして心が置いて行かれる。
そうなってしまえば、もはや実験動物や、感情をコントロール出来ない幼い子供と同じである。許容を遥かにオーバーする初めての刺激にされるがまま、泣くしかなかった。
「う、う…ん …!」
「…、…っ」
その惚けた顔と、いつもと真逆の弱々しい声に、"妙"を覚えたのは荒垣だけではなかった。
「 っは、わ!?あ、真田サン…!」
真田は耐えかねたように、小刻みに震える順平の足を掴んで、乱暴に開いた。順平は突然のことに咥えていた指を吐き出し、嫌がるように足をバタつかせたが、真田が腕力で負けるはずもなく、そのまま両足の間に体を割り込ませ、太腿を強く押さえつけた。
「おい、アキ」
「もういいだろう、十分慣らした」
切羽詰まった声で訴える真田に余裕はもうなさそうだった。荒垣は限界だろうことを読み取り、順平を抱き締める腕に力を込め、再度拘束した。
「っ…!?あ、荒垣サン…っ」
「我慢しろ順平、力抜け」
助けを求めるかのような怯えた声を出す順平に、荒垣は出来るだけ優しい声で返した。真田は掴む足に力を込め、自身を順平の後孔にあてがった。あてがったもの自体に刺激は加えていなかったが、既に張り詰めていて真田の余裕のなさが窺えた。その立派なものを本当に挿入出来るのか心配になるほど受け入れる箇所は小さかったが、押し込めると潤滑油の助けもあり、意外にもすんなりと先を飲み込んだ。
「 !!」
「う…ぐ…」
「ゆっくりだアキ、そう、ゆっくり…順平も食いしばるな、息吐け」
押さえつけられ、呑込みきれないほどの物量を挿入される順平が冷静にいられるわけがなく、真田も女性を含めてこういった経験がない。素人の集まりで、行為がスムーズに進むわけがなかった。何をどうしたらいいのかなんて二人に分かるはずもない。
「ぐ、…っ、ま…って…!苦し…って…!」
「っ…待て、るか…全部挿れるぞ」
「ぐ 、っうう、っやだ、嫌だ…!」
順平は耐えきれず暴れ出し、真田はようやくの快感に夢中になりだした。荒垣の心情的には順平を助けてやりたいが、実際本当の意味で助けるには早く行為を終わらせなければならない。もがく順平の体を全身で強く抱くことかしか出来ないのだ。
受け入れる側の順平はもちろんのこと、真田にも思い遣る余裕が、理性がなくなる。何せ初めての感覚、初めての快感なのだ。精神論では何ともならない本能的な欲望だった。
最初は、男を…それもよりにもよって順平を抱くだなんて、命がかかっていると言われなければ首を縦に振ることなど決してなかった。性行為すら経験がないのに、初めてが男だなんてそんな悲劇があるだろうか。しかしそれ以上に、例の飛び火のせいか、体が抑えきれなかった。普段トレーニングや討伐で発散している分、これ程の性欲の昂りは感じたことがなかった。それが更に頭と体のコントロールを可笑しくさせた。
いざ、順平を裸に剥けばさすがに萎えるのではないかと思ったが、飛び火の効力は凄まじい。順平の頑なに受け入れない姿勢は許し難いが、それでも体は別物で、手が、行為が進むごとにビクンと体を跳ねさせるのは心を躍らせた。それが男の体だということが尚更支配欲を満たした。羽交い締めにされ、小さくなって震えている様は、いつもの喧しい順平を和姦とはいえ犯しているような背徳感があり、萎えるどころか、ますます血液が下半身に集まるようだった。
視覚だけでも興奮出来るというのに、直接の刺激にはもう目が眩んだ。自分の飛び火の効果のせいか、順平の中の種のせいか、中は今までで一番と言える程本当に気持ちが良い。十分に解したトロトロの肉壁は温かく自身に絡みついて脈打ち、擦ると神経を擦り合わせているかのように、刺激が脳を打つ。味わったことがないほどの快感だった。
順平の様子を窺う意識はなくなりつつあった。腰を進めて刺激を味わい、この感覚を楽しみたくもあり、早く達したくもある。耳が拾う喘ぎ声も腰を速める要素でしかなかった。
「いい、ぞ…順平」
「ん 、っく 」
潤滑油に加えて、真田自身から溢れ出るものや、順平の腸液も合わさって、大きな水音が立つ。更に動きがスムーズになるため真田のピストン運動も激しくなった。
真田は目を閉じ、一心不乱に突きはじめ、順平はその衝撃に荒垣の腕の中にいるにも関わらず、ガクンガクンと揺れている。見ている方が心配になるぐらい激しいものだった。
荒垣からすれば、とにかく真田が一度吐き出せば事が済む。順平は熱い、苦しいと呻きながら拘束から逃れようとするが、我慢させるしかない。
「順平、力んでっから苦しくなるんだよ」
「だ、から 」
順平は頭を左右に何度も振った。
…だから無理なんだって!!こんなモン挿し込まれて力抜けるわけねーだろっ!!
そう順平は叫びたかったが、精神的にも物理的にも無理だったので、うーうーと唸るだけに終わる。
「っふ、う…」
「っ んあ、っあ…!」
根元まで押し込まれて、順平の体が跳ねた。力を入れれば入れる程、体内の異物を認識してしまって、逃げようとしても荒垣が押さえていてそれは叶わない。自分の後孔が呼吸するように咥えているのが分かって、恥ずかしさと異物感に嫌でも興奮してしまう。
「ふ、ああ…っ」
奥にあるものが引き抜かれる感覚は、押し込められる時の苦痛が伴う圧迫感とは違って、排出感と壁を擦る刺激は苦痛だけではなかった。よく分からない感覚に戸惑っていると、荒垣の手が僅かに勃ち上がりかけている順平自身を掴んだ。
「っ!え、あ、や、やめ…!」
「仕方ねぇだろ…嫌だとは思うが、ちょっとはマシになっから我慢しろ」
「っ、っ、…ちょ、ちょっと、待っ、…っ」
頭を胸に擦りつけ、恥ずかしがられても荒垣としては今更感がある。とにかく、先程と比べれば反応しているし、愛撫への嫌悪感が薄れているはずだ。触られて萎えることはないだろうと、一番快感を得やすい箇所を刺激してやる。
「んん…、あ、あ 」
擦れば同じように腹筋あたりがビクビクと震える。されるがまま、触れば面白いほど反応を返す順平に荒垣の動きにも熱がこもる。漏れる声も鼻にかかったような甘い音で、男の裏声だというのに自分が出させていると思うと気分のいいものだった。
自身を擦られるのは順平にとって素直に気持ちがよかった。その刺激にふわふわとした感覚だった腸内への刺激もいいものに思えてくる。初めて腸内で快感を得たのだ。いや、初めて男に与えられる刺激が、ずっと与えられ続けていた違和感だらけの刺激が快感だとついに気付いたのだ。
「っは、ああ !」
一瞬でもそう思ったら、その波に飲まれていく。ようやく種の効力と精神がリンクした、そうなると媚薬のような効果が徐々に出始め刺激が快楽だと理解し始める。
反る真田の硬い肉棒が前立腺を擦る度に順平は下腹を痙攣させた。経験したことのない体内の反応に恐怖すら覚えた。
「っうぅ…あ…あ…っ」
寒気のときと同じような、違うような、足から肩までゾクゾクと震えが走るのに、どうしていいか分からず、締める腕に必死にしがみつく。無我夢中で加減なんて出来ず力を込めるが、荒垣はそのままにさせていた。
「随分と順平に好かれてるじゃないか」
「妬くなよ」
「…俺が?馬鹿をいうな」
「ッぐ、う…!」
真田は鼻を鳴らすと同時に中を強く突いた。内臓が圧迫されて順平が苦しげに呻く。真田は更に強く深く連続して抉ろうとするので、順平の方も逃げるように上半身を捩じって荒垣の胴回りに抱きつくようにしがみつく。
「…荒、垣サン…、荒垣サン…!」
「…泣くな、大丈夫だから、そのままでいろ」
啜り泣きながらしがみつく順平の頭を荒垣は撫でてやった。子供返りしたかのような弱々しく漏れる嬌声が、また胸をザワつかせた。
多分メンバーの中でこういう性的なものと一番対極だからだろうか、酷く禁忌を犯しているような気持ちになる。同じ状況で女性陣や小学生の天田相手ならそれこそ犯罪臭くて逆に胸を痛めるところだろうが、順平相手だと嗜虐的な高揚感を得る方が強い。ある程度無茶をしても壊してしまう心配がないのも大きいだろう。普段と真逆の様子に、喧しかった声が段々弱々しくなっていく様は、その声に甘さが混じる様は、何とも言えず、荒垣の心を掻き立てた。
「う、あ…や、やばい…何か、ヘン…っ」
「何が?」
「わか、っな…、ううっ…!」
何度か達してるんじゃないかと思うほど、刺激に反応して体を跳ねさせている。恐らく自分の体の中で何が起こっているのか、この感覚が何なのか、自分自身でも分からないのだろう。恐怖して、縋りつくかのように荒垣の体を必死で抱き締めている。
「あ、ああ…荒垣サン…いや…、っや…」
「っ…!」
「っう、な、何 !」
突然、真田が苛立った様子で荒垣に抱きつく順平の腕を掴み、乱暴に引き寄せた。もたれる体が離れてそのままシーツに頭を落とす順平を押さえつけ、その体を折り畳むように覆い被さり、深く貫いた。順平の悲鳴が上がって、流石に荒垣が止めに入る。
「っおい馬鹿!加減しろ、いきなり無茶だ」
「うるさいっ、十分加減してるだろっ!」
この状況、真田にしては面白くない。自分の性欲が昂っていることの解消もあるとはいえ、それを必死で抑えて、順平が危機的状況だというからこうして一肌脱いでいるのである。その自分よりもただ支えているだけの荒垣にしがみ付き、助けを求めるだなんて、納得がいかない。荒垣が自分を悪者かのように止めるのも解せない。ただ順平を押えて軽く触るだけで、やる度胸もないくせに。
「暴れるな…!俺に任せておけば…!」「苦し
「っいい加減にしろ!」
押さえこまれた腕の隙間から助けを求めて荒垣へと手を伸ばそうとするのに、真田の怒りは更に燃え上がった。
興奮と苛立ちで何とか保っていた順平への気遣いが薄れていく。暴れる順平を腕力で押さえつけると更にそちらに気が向いて、考えられなくなる。奥を擦ると、自身に肉が絡みついてとんでもない快楽を得られた。頭の中は次第にそれだけになる。
「っ、ぐ、う、うう…!」
「おい、アキ!」
さすがに乱暴が過ぎると荒垣が引き剥がそうとするが、真田が順平を抱え込んでいるため、中々離れない。それどころか、真田に力をかけると繋がっている順平にも衝撃がいってしまい、更に苦痛に顔を歪めている。また食いしばってしまって悲鳴も上げれない程になっていて、涙を殺す勢いでギュッと目を閉じているが、それでも溢れ出てくる抑えきれない涙がポロポロと流れ落ちている。
「アキ、ホントに…一旦離れろ!」
「…っ」
「アキ 」
荒垣は真田の肩に手をかけたところで困惑して固まってしまった。真田は欲を解き放とうともう聞こえていないようで、順平も耐え忍んでいる。我慢しろ、加減しろ、と言っても聞く気配がない。むしろ、どちらにも鬼気迫るものを感じて声もかけられなくなってしまった。
…いや、こうなる事態を止めるためにわざわざ加わったんだろうが。
ようやく快楽を拾い始めた順平が、苦痛を感じるということは、相当な負荷がかかっているはずだ。突き刺さっている後孔も激しいピストン運動に皮膚が引き攣れ、赤く腫れてしまっている。
何とか気を逸らさねぇといけねぇ。…ああ、もう、最悪だ。
真田が覆い被さっているせいで順平に触れることが出来ない。ならば真田に行動を起こすしかない。嫌だとかやりたくないだとか、もう言っていられない。順平の様子を見ていると、躊躇うことも忘れた。子猫が狼に押し潰されているようなものだ、とても放ってなんかおけない。
「っ !?」
あれほど我を失って快感を貪っていた真田が、ビクンと体を震わせ、驚愕に目を見開いて後ろを振り返る。
「シンジ…!?何、するんだ…!何で俺を 」
「オメェが順平抱えてっからだろ」
「やめ…よ、せ…!」
荒垣は潤滑油をつけた指を真田の後孔に挿入し、前立腺を探る。順平どころか、快楽に夢中になっていた真田はまさか荒垣が手を出してくるなど考えもつかなかった。それ以上に飛び火の効果で初めての前立腺刺激も快感を拾い、前後の刺激に一気に昂った。
屈んでいた真田の背が反る。腰はもはや本能だろうが激しく動かしたままだが、順平への圧が多少軽くなる。苦痛に歪んでいた顔が、切なげなものになる。
「早く出しちまえ…さっさと終わらせろ」
「っく 」
「あ、あっ」
荒垣が指の動きを速めると、真田の閉じる目の先で白い睫毛が震え、白い肌がどんどんと桜色に染まっていく。それに比例して、腰の動きも激しくなる。下にいる順平も嬌声を一層大きくして、動きに合わせてガクガクと体を揺らせていた。
「あ、あ、…順平 」
「っは…っは…、ん、ん !」
動きはそのままに、真田がゆっくりと順平に顔を寄せ、唇を合わせた。固く目を閉じていた順平は、いきなり唇を押し当てられて、押さえられた体を小さく震わせた。
唇をついばむ程度だったものが、次第に舌が入り込んできて、咥内を犯していく。舌が絡まり混ざりあう、普通なら不快なものが、先程荒垣に弄られたせいなのだろうか、混ざりあってとけていくその感覚が脳まで蕩けさせていく。順平の涙に濡れて瞳が揺れる薄く開いた眼が体に合わせて小刻みに震える。
もはや二人とも無意識に近い、本能的ともいえる動きだった。それでも、真田は満たされた。下半身の刺激はもちろん堪らない、しかしそれよりも、今まで荒垣にばかり意識がいっていた順平が自分のキスを受け入れた、応えた、それが堪らなく熱くさせた。
実際順平にとってはどちらがどうなんてことは全くなかった。ただ荒垣がセーブする役で、自分を抱き締めていたために縋っていただけだ。このキスも言ってしまえば荒垣の指が散々暴れたから抵抗が薄いだけということもある が、そんなこと、お互い理解出来るはずもなかった。
「…は、順平、っ…出すぞ」
「あ…、ん、っく…」
その声を聞いて、荒垣は真田から手を離した。真田は順平の手首を押さえつけていた手を、ようやく抱き締めるために肩と胴に回した。
この行為は種を取り除くためのもの、その為の射精だ。それを理解していて合図として言ったのか、それすら分からない。順平も頷くでもなく、嫌がるでもなく、聞こえているのかいないのか、強く押さえられたせいで痺れる腕を真田と同じく、覆い被さるその身に回した。
「っ、っう !」
「 、 !」
真田が昇りつめ、順平を抱く手に力を込めると、その体の中に精液を注ぎ込んだ。その白い液体が深く、奥まで挿入された真田から腸内に滲み渡っていく。
「あ !」
途端、今までで一番順平の体が大きく震えた。
「順平!大丈夫か!?」
「っ…、…順平…?」
喉仏が突き出る程、首を反らせ、声も出ないほど引き攣り、瞳孔を開いている様を見て、荒垣が、そして少し遅れて呼吸を整えた真田が順平を抱き起こす。
「…っ、あ、あ…」
順平の体がしなる。そのままガクガクと何度か震えると、順平も勢いよく吐き出した。通常よりも濃く、多量の白濁液がドクドクと流れ出てくる。
その竿を伝う白い液体に蠢くような黒色が混じっており、その液体は流れ出ると沸々と泡立ち、湯気のように立ち昇り散って消えた。
「あ…ハァ、…ハァ…、 っ」
「おい、順平!」
緊張して突っ張り反っていた体が今度は糸が切れた人形のようにグッタリと弛緩する。異様な動きをして気絶した順平を二人が恐る恐る覗きこみ、揺さ振ってみるが反応がない。
暫く諦めずに順平の頬を荒垣が軽く叩いて意識を確認する。肝を冷やした二人にとっては長い時間のように感じられたが、実際は二十秒程度の気絶だった。閉じた瞼が微かに動いた後、ゆっくりと目を開いた。
「…あ…」
「…!順平、分かるか?」
惚けた顔で頬を叩く荒垣を見つめていたかと思うと、徐々に目に光を取り戻した。シャドウに襲われたときと同じ反応だ。
「…荒垣サン…?」
目の焦点が定まる。やはり疲労はしているのか息が多少乱れてはいるが、見た目には正常に戻ったように感じる。
「平気か?体は?」
「ん…あ…えっと…」
意識を飛ばした分完全に覚醒していないのだろう、多少動作が鈍くなっているが、それでも自分の様子を探ろうと順平はキョロキョロと体を眺めた。手を握ったり、腕を回したりして浸食の具合を確認をする。
「あ…!」
「どうだ、大丈夫か?」
「…軽い…!軽いっス!重い感じがねぇ…!」
確認して気付いた順平がパッと顔を明るくする。その顔を見て少し安堵した荒垣が順平の肩を掴む。
「ちょっと後ろ向け」
荒垣は順平のうなじを確認する。…ない、あの黒い羽のような模様が消えている。指の腹で擦ってみても黒の点すら見つからない。
「消えてんな…これでもう大丈夫だろ、多分」
こんなこと初めての体験な上、又聞きの知識なのだから多分としか言いようがない。それでも攻撃を受けた直後に出来た模様も、流れ出た黒も、動作が軽くなったということも、種の脅威が取り除かれたことを示していた。
「よし…よく頑張ったな、順平」
「っ…た、助かったぁ…」
順平はずっとあった胸のザワザワとした靄のようなものが晴れたような、体の奥の芯が軽くなったような、それでも行為で重くなった腰を支えながら、一安心してシーツに身を投げ出した。
荒垣もやれやれと、ようやく人心地がつき、息を吐いた。上体を起して乱れた衣服を直す。
「はぁ〜…っ、おわっ!?」
一息ついた荒垣の横で素っ頓狂な声が上がる。驚いて振り返ると、真田がまた順平の上に覆い被さっていた。
「っおい!アキ、何してる!」
「何って…、…言うまでもないだろ」
「…馬鹿かオメェ、もういいんだよ」
「俺はよくない」
「だったら一人で処理してろ…順平も種とやらがなくなってもう 」
なぁ、と順平に声をかけると、順平は真田の下でモゾモゾとして顔を赤らめている。更によく見ると濡れた自身がまた頭をもたげていた。
「お…オメェ…」
「え!い、いや…っかしーな…なんか、治まらなくって…」
「…つーか、まだそんな性欲あるって、種が残ってんじゃねぇのか?」
「いや、恐らく俺の飛び火の効果と同じなんだろう、あんな強い効力があって、一度で済むわけがない」
…俺も含めてな。と未だ肌を火照らせた真田は不敵な笑みを浮かべながら荒垣を見て、また順平に向き直った。
「そんなに種が心配なら、安心できるまで何度でも注いでやればいい話だろ…なぁ、順平」
「っ…あ、えと…」
迫られている順平は、困惑したような素振りをして、その実、真田の言葉に顔を赤らめて下半身を反応させている。当初のような嫌悪感も畏怖して逃げる素振りも全くない…慣れやがって、やる気満々じゃねぇか。
「…、…勝手にやってろ」
心底呆れたという声色で言うと、荒垣はベッドから立ち上がろうとした…が、グっと後ろからの力が働いて立ち上がれなかった。振り返ると順平が服の裾を掴んでいる。
「ンだよ…まだセーブ役でいて欲しいのか?」
「あ、えっと…それもあるんスけど…その、荒垣サンも一緒に…」
「あァ!?」
恥ずかしそうにして何を言うかと思えば、自分も混ざれとのたまう順平に荒垣は声を荒げた。真田も横から不服そうに口を出す。
「なんだ、俺じゃ物足りないのか?」
「違うっスよ!…いや、荒垣サンも…さっき、その…勃ってたから…」
「っ!」
「ちょっとまだ抵抗はあるっスけど…でも、オレのために手伝ってくれたワケっスから…」
何の使命感だと言いたいぐらいに少女のように頬を染めながら上目遣いでお誘いを受けて、荒垣は呆れた。全く似合わない可愛らしいお誘いにも、そして自分自身本当に下半身が反応していることにも。
…拘束してるときに密着していたから、気付かれていたのか。
「へぇ…シンジ、お前種の効力もないくせに、"発情"か?」
病院で言ったことの仕返しとばかりに、小馬鹿にした口調で発情を強調して言い返された。確かに順平と真田はこんな状況に溺れても種の効果という免罪符がある。しかし荒垣は単純に興奮したとしかいえない。
「…、…」
「まぁ好きにすればいいさ…ほら順平うつ伏せになれ」
「っわ、ちょ…痛たた…!」
荒垣の服の裾を掴む手を真田が引き離す。手を掴んだまま反転させられ、順平はうつ伏せにシーツに押さえつけられて、腰を真田の方へと引き寄せられた。
「だ、からっ…乱暴…う っ」
労りという言葉を知らないのだろうかと思う程、力任せの行動に文句を言おうとした順平の首に突然強い力がかかる。シルバーネックレスを引き上げられているのだろう、チェーンが喉に軽く食い込み、強制的に頭を持ち上げさせられる。その前方には、腰があった。
「オメェのせい、ってことでいいんだろ…?」
荒垣が相変わらず仏頂面で、それでも少しだけ上気した顔で、順平の目の前で膝立ちをしていた。丁度目線には布を押し上げている股間があって、嫌でもその先を理解した。 と、同時に順平の喉が上下した。
…種の効果のせい、順平はそう自分に言い聞かせて、目の前のスラックスのファスナーに手をかけた。
「あ 」
扉が開く音がして、リーダー役である少年は顔を上げた。寮のメンバーを下で待機するよう説き伏せ、二階の共有スペースで携帯と缶コーヒーを頼りに時間を潰していた。三時間程経ち、さすがに長いのでそろそろ様子を窺おうかと迷っていた頃だった。
荒垣の部屋から出てきたのは真田一人だった。真田は満足しきったというか、肌艶がいいというか、随分とすっきりとした顔で伸びなどしている。
「真田先輩…!」
「ああ、リーダーか」
「あの、二人は?順平は 」
「もう大丈夫だろう。あの黒の模様も、種の効果もなくなったようだしな。俺もすっかり治まった。一応念の為病院で再検査は受けさせた方がいいかもしれんが」
「…そうですか、よかった」
少年の安堵した表情を見て、気分爽快といった風だった真田が少し口ごもった。
「ただ 少し、俺もシンジも張り切り過ぎたというか…まぁ、病院に行くのはもう少ししてからにしてやれ」
「は…?」
「シンジの奴、セーブ役なんて言っていたくせに、あの暴れようだからな。順平に種の効果があったのが幸か不幸か…」
真田の言葉の途中で少年はもう駆け出していた。暴れよう、なんて不安しかない発言を聞いてじっとなんてしていられない。荒垣の部屋にノックもなしに飛び込む。そこには、屍のようにベッドに横たわる二人がいた。
荒垣が気怠そうにちらっとドアのあたりに立っている少年に目を向け、また気怠そうに口を開いた。
「あー…、悪ィ…アキから聞いたろ?…もう少し寝かせてくれ」
艶を残した掠れた声はつい先程まで行われていたであろう情事を連想させて、少年は珍しく表情を歪ませた。
「いや、順平は…」「大丈夫だ、足腰は…立たなくなってるみたいだが」
いや、何が大丈夫なのか。横でうつ伏せのまま動かない順平の太腿、小さく痙攣してないか?それ以外はまるで死んでいるかのように動かないし。命は助かったのかもしれないが、精気を根こそぎ持っていかれているじゃないか。
というか、セーブ役とは何だったのか。何で同じように疲労しているんだ、セーブ役が思いっきり参加してるじゃないか。
「…セーブ役、随分と大変だったみたいですね」
「…だから悪かったって言ってるだろ…」
皮肉をたっぷり込めて、恨みがましい目で睨むと、荒垣はそっぽを向いてバツが悪そうに呟いた。
「コイツが煽ってくるから…」「…もう少し理性的だと思って任せたんですけど」
こんなことなら僕がやればよかった、と小さく呟いたのを荒垣は聞かなかったことにした。二重の意味でとれそうな気がして、それをそう思う自分に、そしてその境界が曖昧になっていることに眩暈がした。
…とんだ災難、こんな狂気染みたこと…、意味合いがあの時とは違うが、本当に何でこんなことになったのか、事の経緯をそして自分の理性を呪う。
だって、そうだろ。順平にはもう種の浸食の脅威がない。もちろん自分にはそもそも種の飛び火もない。それなのに、"欲情"した挙句、まだ順平に対して"妙"な感情が沸き起こるなんて。本当に災難、だ。
「…コイツが煽ってきやがるからだ…」
黒の模様があったはずの順平のうなじを撫でた。気を失っているはずだが、指に反応して、ほんの小さく震えたような、そんな気がした。
そのまま撫でながら、視線を下に移すと誰のものか分からない液体が太腿を伝っていた。シーツはもうベトベトで、乾き始めた一部はパリパリになっていた。
…この"種"は早く洗ってやった方がいいよな、と下種な考えが浮かんだ己の頭の方が浸食されているんじゃないかと、何も見ないように腕で目を覆った。
fin. 2015/04/21