PERSONA3 UNDER TEXT

R:unrequited love


※こちらはunrequited love(表)です。unrequited love(裏)とは途中から台詞、展開が異なります。こちら(表)を先に読むことを推奨します。


「荒垣サンって、真田サンに"シンジ"って呼ばれてるんスね」

 俺が再びこの特別課外活動部の仲間になったばかりのことだ。山岸が風邪を引いて、タルタロスに行くのが中止になって、いつも通り俺は寮のカウンターで時間を潰していた。

 その時だ。順平の奴がえらく勢い良くこっちにやって来たと思ったらいきなりこう言われた。


「あ?なんだいきなり」
「…今、ちょっといいっスか?」

 …?様子がいつもと違う。お調子者の雰囲気じゃねえ。一応聞いてはきているが、嫌だと断らせない空気を作ってやがる。

「何だ?」
「ちょっと…外で」

 踵を返して寮を出て行こうとする。連いて来い、っつう事らしい。無視するわけにもいかねぇし、それより何かいつもと打って変わっての雰囲気の不気味さに疑念を持って、仕方なく順平の後を追った。



 もう夜も遅い。さっき寮を出る前に見た時間だと23:30ぐらいだった。影時間までもう少しだ。こんな時間に二人きりで何しに行くんだ、とさらに疑念が深まっていく。

「おい、何処行く気だ」
「……」

 さっきから何度か声をかけてみたりもしているが、少しも反応しねえで、ただ少し速い歩みで進んでいく。

 …やっぱり、変だ。


 実を言うと、俺は結構コイツを気に入っている。馬鹿で、人生経験が足んねぇ感じだが、誰に対しても素直で意外と気遣いがある奴で…犬みてぇだと言ったら怒られそうだが、こんな俺を尻尾振るみてぇに慕ってくれる。

 大切なメンバーであることはもちろんだが、あまり俺の口からは似合わねぇが、可愛い存在、とも言えるだろう。もし俺に後輩がいたら、そんな風によく思う。

 だが、今はそんな雰囲気が欠片も出てねえ。その様子に嫌でも胸騒ぎがする。

「おい…テメェ、いい加減にしろ。何処まで行く気だ」
「…もうすぐっスよ」

 そう言って角を曲がった。その先に見えたのは…無駄に高さがある派手なホテル。誰が見たって分かる、"ヤる目的専門"のホテル。

 そして何食わぬ顔で順平はそのホテルの前で立ち止まって指先をホテルの方へと移動させた。

「ここっス」
「…ここって…テメェ何考えてやがる。訳分かんねぇな…」
「ここ、ラブホっスよ」
「見りゃ分かる…!」

 コイツ、可笑しい。いやさっきから可笑しかったが、何で俺をホテルの前まで連れてくる必要がある?

 どこか不敵な笑みを湛えてやがるコイツが何か癪に障って睨みつけるが、少しも気後れした感じを見せねぇ。アキならともかく、順平ならいち早く不穏な空気を感じるはずなのに。

「ここ…1回来たんスよ。満月の大型シャドウ倒しに」
「あ?こんな所にか?」
「そうっス。大変でしたよー…そのシャドウが精神攻撃する奴で…見事に喰らっちゃって」

 ホテルを見上げながら、気持ち悪いくらいに、ゆっくりと話される。どこか眼が虚ろな気がするのは気のせいだろうか。

「気付いたらベッドの上で…、…ヤってたんスよね…真田サンと」
「!?…ヤ、る?」

 そのままゆっくりとこっちを見ながら少し、口角を上げていやらしく笑われる。

「アキ…と?」

 ヤるってことは…ヤるってことだよな。まさかベッドの上でレスリングでもするわけでもないだろう。普通には考え難いが精神を操るシャドウは自分も知っている、だからありえなくは無い…が。

 そう考えて何だか知らねぇが、驚きよりも、もの凄い不快感が湧き上がった。そんな俺を尻目に順平はまだ虚ろな感じで淡々と異常なことを口走っていく。

「オレ、途中で目が覚めたっつーか、理性が回復したんスよ。けど、真田サンはまだで…何か必死こいてて面白かったから、そのままヤらせてあげてたんス。そしたら真田サン…何度もオレに向かって呼びかけてきた…」
「…、…」

 言葉が出ない。衝撃的な言葉を吐かれて頭の方がついてこない。壊れたように不敵な、自傷的な笑みを湛える順平が酷く不気味だった。

「何て言ったと思います?」
「……」
「…シンジ、って言ったんスよ」
「!」

 名前を告げたときだけ、笑みが引いて、目が鋭く怒ったような顔になった。

 …アキが俺を呼んだ…?理性が無くなったアキは俺とヤってると思い込んだのか…。そうなる経緯は全く想像がつかないがシンジと俺を呼ぶのを知っている時点で、アキが俺の名を出したのは本当なんだろう。

 でもだからといって、どうして今順平は怒りを俺に向けていやがるんだ。この流れが全く理解出来ない。

「そん時はシンジって誰のことか分かんなかったっスけど、荒垣サンだったとはなぁ…、真田サンとヤるときは挿れる方だったんスか?それとも挿れられる方?」
「……」

 コイツ、黙ってりゃ言いたい放題…、何勝手に自分で解釈して関係持たせようとしてんだ。とにかくブン殴りたいとこを我慢して、ただ睨みつけた。まだコイツから本筋を聴いてない。

「っハ…だんまりっスか。まぁ、いいや。オレがここに連れてきた理由…分かるっスよね?」
「…分かるわけねぇだろ。テメェ可笑しくねぇか?」
「別に普通っスよ?」

 しらっと言われて、携帯の画面を覗き込んで俺と目を合わせて、また壊れたように笑われる。

 何か物凄く嫌な予感がした。順平の状態が悪化していくことも、その笑みの理由も。

「もうすぐ影時間…、影時間って考えると便利っスよね?要らねぇ人間は棺桶でお眠り!その間やりたい放題!…、…もちろんここも使いたい放題っスよねぇ…」
「…何が言いてえ」

 聴くことが恐ろしくさえなってきたが、理由を知らないと始まらない。睨みつけて、低音で尋ねれば、順平はそれに反応して少し首を傾げて、無表情のまま唇をゆっくりと動かした。

「オレと、1回セックスして下さいよ」
「ッ…なっ!?」

 とんでもない台詞が返ってきた。実際ラブホテルの前で話し合いをしている時点でありえないこともないが、自分の中の順平像の上ではその口から出るはずもない言葉だった。それも、無表情に、簡単なことのように。

 何言ってんだコイツ?ホントにコイツは順平か?そう自問自答をするが正解なんて分かるわけじゃない。

「1回でイイっスよ。別に寮とかでもイイんスけど、邪魔入ったらたまんねーんで。せっかくだから影時間を有意義に      ッつ!」

 聞きたくない。もうその口から聞きたくない。それ以上のふざけた台詞は聞きたくもねぇ。

 順平の身体を持ち上げてしまいそうなほど、胸倉を掴みあげていた。睨みつけると順平は苦しそうな表情をしつつも、目線を外そうとはしなかった。

「っ…、ちょ…と、落ち着いて、くださいよ…」
「落ち着けだぁ?何考えてんだ…テメェ頭腐ってんじゃねぇのか?」
「っく…、なん、でスか?真田サンとは…出来て、オレとは出来ねぇ…って言うん…スか?」
「ッ      !いい加減にしろよテメェ…ッ!」

 その一言に完全に頭に血が上って思わずガツ、と音が聞こえる程に頬を殴りつけてしまった。順平は勢いに負けて、よろけると膝をついて顔を歪ませていた。

「…ッ、いっ…てぇ…」
「…ちッ、…馬鹿が」

 ショックがでか過ぎるだろ。順平がこんな腐った台詞を急に言い出すなんて…何でなんだよ。意味が分からない、…意味が、あるのか…?

 …分からない、かける言葉も、ない。



 じんわりと痛む殴った手を意味もなく数度握り締めて、ポケットに詰め込んだ。ここに居ても仕方ない、そう思ってそのまま帰ろうとすると、名前を叫ばれて呼び止められた。

 振り返ると、順平は立ち上がって召喚器をこめかみに当てて俺を睨みつけている。その眼はさっきと少し違った。虚ろだったものに、何か意志が込められていた。

「テメェ…ンなモン隠し持ちやがって…」
「…言うコト聞いてくんねーなら力ずくでヤりますよ…いいんスか?」
「もっぺん殴られてぇのか」
「荒垣サン…!オレは本気っスよ…真面目に頼んでんだ…ッ!!」

 声を張り上げながらギュッと召喚器を握り直すのを見たとき、波が流れるように空が緑色に変化して、音をさらっていった。

       影時間…か。



「…話しになんねぇな…」

 影時間なら安全だし、順平ならペルソナが暴れることもないはずだ。そう考え関わるべきじゃないと判断して、また足を進めた、その背中に。

「なんで…ッ、…そんなに真田サンのことが好きなんスかぁっ!?」
「!?」

 悲痛な声が突き刺さって、思わず振り返った。今にも泣きそうで、儚げにすらみえた。

 順平は何か…必死…?そこまで必死になって、何を求めてんだ…?

      ねがい、します…、1回でいい…ヤってくれたら…それだけで、も…いいっスから…」
「順平…、俺とそんなことして…何になる…」
「…っ、…」
「なんで急に言い出した…どうしてぇんだ?」
「…、…」

 突然の変化に問い詰めると、逆に順平は俯いちまって、握り締めている召喚器がカタカタと震えだした。よく見ると肩も同じように震えていた。

「…順平」
「ッ!?」

 俯いている隙を突いて、腕を掴み上げて召喚器を取り上げる。思ったより呆気無さ過ぎて、もう一度しっかりと見直した順平は驚くぐらいに小さく見えた。

 とりあえず奪い取った召喚器をスラックスに挟んで、掴んでいた手を離す。順平はもう、ぜんまいが切れたように大人しかった。

「…おぅ、さっきまでの勢いはどうした?」
「…っ、……ハハ…やっぱ駄目だな、オレ…」

 顔を俯かせたまま乾いた笑いをする。俯かせているから帽子のつばに顔が隠れて表情は読み取れない。

「順平…?」
      っ悔しかった…」
「…あ?」
「悔しかった…ッ。真田サンが荒垣サンのこと…っ、…荒垣サンが寮に来て…真田サンが嬉しそうにシンジって読んで…ッ、2人のこと尊敬してたし…分かってるんスよ…オレなんて間に入れねぇって。オレの知らねぇとこで…2人の時間があって…、だから…」
「……」
「オレ、2人とも…好きだけど、それとは違う感情もごちゃ混ぜになってて…、何も分かってねぇふりして一緒にいるのが辛かった…、今日も考えて考えて…、も…耐えられ、なかった…」

 壊れそう、っていうのはこういうのを言うのかと思った。また見たことのない、悲しいっていう、オーラに包まれた順平。絞り出す声は震えていた。

 俺は…、コイツを追い詰めてたのか…?知らない間に傷つけてたのか?

「…荒垣サンは真田サンのこと好きなんスか?…ま、聞かなくても分かりますけど…、…そうっスよね…昔から、ずっと一緒だったわけだし、お互いあんな信頼しあってるし…」
「何言ってんだテメェ…俺は      
「オレっ…オレ…好きなんスよ…、…好きっス荒垣サン…ッ」
「ッ…!!」

 俺はアキとは何も無いし、親友以上でも以下でもねぇ…そう言おうとしたら、今日何度目かの衝撃的な台詞。

 もう完全に涙声で、震えてて。ずっと俯いてやがったくせにこの時だけ、眼を合わせてきやがった。

 驚きと…、何故か、心が暖かくなるような      嬉しさ。


「オレなんかが、真田サンに勝てると思ってねぇっスから…、気持ち悪いかもしれねぇけど…ッ、…1回してくれたら…諦めつくっスから…」
「…ッ」

 最後は言葉を詰まらせて、また俯いた。手はきつく握り締めていて震えはここまできていた。

「…ちっく、しょ…っ、…こう…普通に言うの格好悪ィから…余裕ぶっこいたふり、してたのに…ッ」
「……」
「…1回ヤって…ンで、オレのこともっと…嫌いになってください…」

 そう言われたとき、俯いていた順平が帽子を滑らせて、つばを上向きにして視線を上げてきた。

 その後は、理解する暇も、瞬きする暇も無かった。

      !」

 唇に少し乾燥したような…それでも柔らけぇ…感触があった。俺から一瞬離れる順平。それが視界に映って徐々に実感が湧いてくる。

       …キスを、された。

「ッ…!?」

 もう一度キスをしようと背を伸ばしてきた順平を今度は肩を掴んで引き離す。自分でも驚く程動揺しているのが分かる。

「ッッ…のッ、…てめっ、いきなり…ッ、俺はいいなんて一言も言ってねぇだろ…ッ」
「駄目、なんスか…?やっぱオレじゃ…駄目っスか…遊びでも駄目っスか…、1回だけでも駄目っスか…ッ」
「ッ…そうは…言ってねぇだろ…」
「じゃあ、いいんスか?」
「ッそうも言ってねぇだろ…!、…分かるかよ…、どうすりゃいいかなんて…」
「…頼んます…そりゃ、オレとはヤりたくねぇの分かりますけど…、大体2人の仲ぶち壊すようなもんっスもんね…、けど…本音言うと…オレ…盗りたいって思ってた、荒垣サンを…無理だって分かってても、心の底でもしかしたらって…、だから…この1回はオレにとって…すげぇ重要なんス…勝てるわけなくても…それでも…」

 言えば、よかった。アキとは何もねぇって。そんな対象にすら思ったこともねぇって。言えば…いいものを…

 …口が、動いてくれなかった。

 …言えねぇ、きっとこんなことは2度とねぇ…でも言えば…順平はもっと俺に必死になるか?…それとも逆か…?

 目の前の順平を見る。嫌いなわけが無い。元から気に入ってた奴だった。大切だと言える。あの時の胸の熱さ、意味は量れねぇが好きだと…言えるはずだ。

 だから、だからこそ、好きだと順平に言えるのか?命がそんなに長くねぇ俺が…順平に向かって好きだと、言えるのか…?

 そんな重てぇもん俺は担げる器じゃねぇだろ。

 1番簡単な…逃げ道は      


「…1回すれば…気が、済むのかよ」

 言いたくねぇよ…こんなこと。だが、これが…1番収まる方法だろ?

 突き放せばコイツはずっと、こんな状態のまま消化できねぇもんを抱えなくちゃいけねぇ…、でも好きだといえば…それでも重いもん抱えなくちゃいけなくなる…

 だからこれが…、…これで、いいんだよな、順平…

「ッ…、荒垣、サン…、あ、ありがと…ございます…」
「時間ねぇだろ…さっさと来い」

 顔を出来るだけ見ないようにして乱暴に腕を掴んで、ホテルの中に引っ張って行った。




 部屋に入るなり上着を脱ぎ捨てると、順平も慌てて服に手をかけた。その順平の手が微かに震えてやがって…見てらんなくなって、ベッドに押し倒して、俺が着てるもんを剥ぎ取った。

「俺が挿れる方でいいな…?」
「その…つもりっスから…」

 小さく頷いて無理やり笑おうとする順平を見るのも、かなりキツかった。何でこんなことをしているのか、ふと我に返りそうになったがやめた。

「やめたきゃ言え…こんなこと、本当はしねぇ方がいいんだからな」
「…や、やめねぇっスから…荒垣サンもやめるなんて、言わないで下さい、ね…?」
「……」

 返事をせずに、首に顔を埋めた。


 この瞬間だけはせめて気持ちが伝わるように…俺の最後の行為。

 抱くうちに感情が流されて、思わず好きだと言いそうになるのを必死に堪えた。代わりに身体で出来る限り表現した。

 優しく…せめて身体は傷付かないように…

「荒垣サ…ッ、…荒垣サン…」

 俺の首に手を回して、まだ挿れてもいないのに涙を流す順平。

 必死に俺の名を呼んで…俺を求めている。


「…ィあ゛っ…!」

 備え付けのクリームを絡ませて性急に指を挿れると、身体が反り上がって苦しそうな声を出される。中もかなりきつく締まっていて、意思とは別に異物を何とか吐き出そうと収縮が凄い。身体もずっと強張ったままで息をするのも苦しそうだった。

 コイツ…アキとシたっつってたが…挿れてはねぇのか…?本当は少し触れ合った程度で、セックスの経験なんかほとんど無いんじゃねぇのか。

「順平…駄目だ…挿れれねぇ…」
「ッ!!嫌、だ…ッ、なんで…!」
「いきなりは無理だ…徐々に慣らさねぇと…無理に挿れたら凄ぇ痛てぇだろうし、切れると思うぜ…?」
「い、いいから…ッ、痛くねぇから…ッ、…煩ぇなら声出さねぇから…ッ」

 枕を噛むようにして声を抑えようとする順平は、愛しくて…可哀想過ぎて。

 やめた方がいいのか、続けた方がいいのか。壊してしまうんじゃねぇか、そう複雑な想いになりながら、それでも求めてくる態度に身体は熱くなった。

「声…出した方が楽だ、堪えなくていい」

 枕を退けて腰とベッドの間に入れて、順平の頭を何度も何度も撫でてやる。涙で潤んだ瞳は揺らめていて、捨て犬が通行人に必死に投げかける目線と似ていた。

「嫌だったら、すぐ言えよ…?」
「…、…大丈夫っスから…」

 少し落ち着きを取り戻した順平の中を、出来る限り痛くならねぇように慣らしてやる。俺も興奮で限界が近かったが、順平の身体を最優先に考えた。

「挿れるぞ…?」

 十分慣らし終えて聞くと、首を縦に激しく振る。それを合図にゆっくりと自身を埋めていく。

 解したとはいえ受け入れることが初めてのその中は、スムーズに進めないほどかなりきつくて、挿れているだけで苦しかった。自分の方がこんな状態だから、順平は…、そう思うのと同時に順平は悲鳴じみた声を上げた。

「ッッあ゛、ぅあ゛ッ      !!ッッ…ぐっ、ッくぅ      !!」
「声、堪えるなっ…出せッ、俺に爪立てても…噛み付いても…ッ、いい、からッ…力、抜けっ…!」

 そのまま動かずに、苦痛から身を捩る順平を撫でたり、性器を刺激したりして、意識を分散させてやる。悲鳴すら色を含んでいるように感じるが、苦痛の中に小さく甘い声を混ぜられると比にならないほど艶があって驚いた。

 順平の中は動かないのに凄い締め付けに加えて、身体を弄る度に壁が波打つように動いて、挿れているだけで果てそうだった。どこかで後ろめたさを感じながらも、これまで味わったことの無い快楽に溺れそうになる。

「っくあ…、んん、ぅ…、あ…ッ、荒が…き、サンっ…ッ」

 まだ大分苦しそうだが、さっきよりはマシになってきたらしい。首を左右に振って痛みを飛ばすのをやめて、今度は喘いでは歯を食い縛り、また喘ぎを漏らすというのを繰り返していた。

「っ…、順平…悪ィが、俺も我慢しきれねぇ…動いても大丈夫か…?」
「…は…い…ッ」

 目を強く閉じ過ぎて、涙も殺している順平の中を攻めるのは罪悪感があるが、仕方ねぇ。こっちだって経験豊富なわけじゃない、今にも巻き込まれてしまいそうで余裕なんて全く無ぇ。

 それでも何とか理性を振り絞って、ゆっくりと中を進める。出来る限り痛めないように、傷つけないように…

「うぐッ…、ひ、ぅ…ッ」
「だ、大丈夫かよ…っ?」

 明らかに苦痛の声。まだ、快楽よりも痛みが全身を襲ってるんだろう。

 動きを止めようとした俺の背中に順平が爪を立てた。女のように細く伸びていない爪だったから、指で必死に押さえようとした、そんな感じだ。

「止まっ…ないで…ッ、動いてくださ…ッ、…荒垣サン…好き、に…ッツ」

 テメェ痛ぇんだろ…苦しいんだろ…、そこまで無理する必要があんのかよ。セックス初めてなんだろ…?ギリギリのとこで強がってたんだろ…ヤること自体本当は怖ェんだろうが…

「…馬鹿野郎…」

 自分の方が辛くなりそうなのを振り払う。順平の身体を更に折って、唇に吸い付きながら、ゆっくりと前後に動く。

 前を強く弄り続けて後ろを突き続けると、悲鳴が徐々に甘さを持って、やっと快楽に辿りつく。

 順平が最高の快楽を味わえるように、優しく、激しく、運動を強めた。



 突く度に甘い喘ぎ声を出し続けていた順平だが、もうそろそろ限界が近いのか、更に俺を強く抱きしめて密着させてきた。

 痛みも快楽も、明かされた気持ちも、全て伝わってくるように、自分とは一回りほど細い腕が首に強く強く絡みつく。

「荒垣サンッ…!!…ごめ…っ…な…さ      ぁぁッ!」
「っ…順平、…ッツ!」

 最後に、ごめんなさいと言われて、順平が吐き出した液が俺の腹にかかって、腕が力なく首から滑り落ちた。

 果てる収縮で中の締めがきつくなって、出そうなのを我慢して、抜き出してから自分の精液を受け止めた。

「はぁ…は…っ、…順平…、…謝るのは      

 謝るのは俺の方だろ…

 辛うじて気絶せずに意識を朦朧とさせている順平を抱きしめた。

 元からだとか、告白されたからとか、繋がったからとか、もう理由は何でもいい。今この瞬間は堪らなく愛しかった。壊れてしまいそうな身体と心で、とにかく俺を求めてくるその様が、泣きそうに顔で嬌声を上げる様が、全てでぶつかってきた様が…可笑しくなりそうなほどに。

 好きだと…伝えれるなら伝えたい。

 だが…

「これで…もう、俺のことは諦めろ…いいな?」

 俺なんかを好きになっちまったら駄目なんだ。




 簡単に順平と自分の身体を拭いて、服を着直すと、順平を担いで急いで外に出た。

 背中に順平の温もりを感じながら薄暗い月の明かりだけの道を歩く。


 暫くすると辺り一面を覆っていた緑色がスゥと闇に溶けていって、街灯が、音が返ってくる。

 ついでに今影時間で起こった事も溶けて無くなってくれれば…そう、思ってしまう。自分のしたことは正しかったのか、間違っていたのか。順平はこれで本当に満足するのか、余計に負担をかけてないか。そう自問自答を繰り返したところで全くの無意味と分かっていながらも、頭から不安が消えてくれない。


      …、…荒、垣サン…」

 後ろから不意に声がした。混濁していた意識が回復してきたんだろう。垂れ下がっていた腕も緩く喉の辺りで交差された。

「オレ…、…やっぱ…負け、ましたよね…?」
「…勝ち負けなんて知らねぇが…、俺はお前を大切には思うが、そういう対象としては見れねぇ」
「…そ…、う…っスよね…」
「今まで通りでいい…分かったな?…そのためにヤったんだ…」
「…、…はい…分かってるっス…」

 掠れた小さな声は震えていて、押し殺したように承諾したように聞こえた。



「あ、荒垣サン…」
「…何だ…」
「あの、あれ…取り消して下さい…、…好きになんなくていいから…嫌いになんないで、下さい…」
「…ああ。言っただろ、今まで通りだ」
「はい…」

 返事と同時に肩に顔を埋められた。その肩がじわりと濡れていく感じがした。

 順平…テメェの勝ちだよ。俺の完全な負けだ。

 それを言わないで良かったと…俺をこれ以上好きにならないで良かったと思える日がきっと来る。だから…

 俺も寮に帰るまでは…、背中の温もりが無くなるまでは、テメェを…好きでいさせてくれ。




fin.

順平⇔荒垣←真田

2006/12/31

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