R:unrequited love
※こちらはunrequited love(裏)です。unrequited love(表)とは途中から台詞、展開が違うver.です。途中までは(表)と同じなので、省略しています。その為(表)を先に読むことを推奨します。
『オレと、1回セックスしてくださいよ』
そう言って召喚器を握り締めながら俺を睨みつけてくる順平。
その後ろで、緑が黒を塗り替えていく。街灯は灯りを失っていくのにも関わらず、より明るさを増した濃い黄色の月が一面をはっきりと映し出す。
影時間到来だ。
「…話しになんねぇな…」
放たれた言葉は衝撃的なものだったが、睨もうが怒鳴ろうが、思わず手まで出してしまたったのに怯まない順平に、次第に呆れに近い現実逃避をした。
影時間なら安全だし、順平ならペルソナが暴れることもないはずだ。
そう考え関わるべきじゃないと判断して、また足を進めた、その背中に。
「なんで…ッ、…そんなに真田サンのことが好きなんスかぁっ!?」
「!?」
悲痛な声が突き刺さって、思わず振り返った。今にも泣きそうで、儚げにすらみえた。
順平は何か…必死…?そこまで必死になって、何を求めてんだ…?
「 ねがい、します…、1回でいい…ヤってくれたら…それだけで、も…いいっスから…」
「順平…、俺とそんなことして…何になる…」
「…っ、…」
「なんで急に言い出した…どうしてぇんだ?」
「…、…」
突然の変化に問い詰めると、逆に順平は俯いちまって、握り締めている召喚器がカタカタと震えだした。よく見ると肩も同じように震えていた。
「…順平」
「ッ!?」
俯いている隙を突いて、腕を掴み上げて召喚器を取り上げる。思ったより呆気無さ過ぎて、もう一度しっかりと見直した順平は驚くぐらいに小さく見えた。
とりあえず奪い取った召喚器をスラックスに挟んで、掴んでいた手を離す。順平はもう、ぜんまいが切れたように大人しかった。
「…おぅ、さっきまでの勢いはどうした?」
「…っ、……ハハ…やっぱ駄目だな、オレ…」
顔を俯かせたまま乾いた笑いをする。俯かせているから帽子のつばに顔が隠れて表情は読み取れない。
「順平…?」
「 っ悔しかった…」
「…あ?」
「悔しかった…!真田サンが荒垣サンのこと…っ、…荒垣サンが寮に来て、真田サンが嬉しそうにシンジって読んで…、2人のこと尊敬してたし…分かってるんスよ…オレなんて間に入れねぇって。オレの知らねぇとこで…2人の時間があって…、だから…」
「……」
「オレ、2人とも…好きだけど、それとは違う感情もごちゃ混ぜになってて…、何も分かってねぇふりして一緒にいるのが辛かった…、今日も考えて考えて…、も…耐えられ、なかった…」
壊れそう、っていうのはこういうのを言うのかと思った。また見たことのない、悲しいっていう、オーラに包まれた順平。絞り出す声は震えていた。
俺は…、コイツを追い詰めてたのか…?知らない間に傷つけてたのか?
「…荒垣サンは真田サンのこと好きなんスか?…ま、聞かなくても分かりますけど…、…そうっスよね…昔から、ずっと一緒だったわけだし、お互いあんな信頼しあってるし…」
「何言ってんだテメェ…俺は 」
「オレっ…オレ…、好きなんスよ…、……さ、…真田サンが…」
「ッ…!!」
俺はアキとは何も無いし、親友以上でも以下でもねぇ…そう言おうとしたら、今日何度目かの衝撃的な台詞。
何かを殺したような声。ずっと俯いてやがったくせにこの時だけ、眼を合わせてきやがった。
「…、…引いてくださいよ…荒垣サンなら、引いてくれますよね?」
「 …、…」
アキが、好き
順平の口から言われたことに、俺は今確実に、ショックを受けている。同性での恋愛感情にか?身内同士の関係にか?アキから手を引けと言われていることにか?
…違う、これは嫌悪じゃねぇ。アキに対する気持ちでもねぇ。
順平…なの、か。順平がアキに過ぎた好意を持っていることが悲しいのか。
悲しい…?何でだよ…お気に入りを盗られるのがか?大切なものを盗られるのがか?
…、…まさか…か?
誰かのものになってからとか、離れてから気付くってよく言うが…俺が今、コイツにそんな想いを抱かされてるってのかよ…、そんな簡単なもんなのか?本当にそんなふざけたこと思ってんのか?
…ただ、少なくとも気分が悪ィのは確かだ。気に食わねぇ。
「…荒垣サン」
「…、…好きにしろよ。俺には関係ねぇ」
「っ!…そ…スか…、…あ、荒垣サンならそう、言うと思ってましたよ」
一瞬、何とも言えない顔をされて、また俯いた。望んだ答えじゃなかったのか、俯かせた顔から僅かに見えた顔は酷く悲しそうに見えた。何か言いたそうに唇を震わせては、堪えるように唇を真一文字にしている。
「何だ…他に言いてぇことがあんのか」
「…、…」
「……なぁ、なんでテメェは、俺とヤりたかったんだ…アキ誘えばいいだろうが」
「…え…」
「召喚器まで持ち出したんだ…そんなにアキが好きなら無理矢理ヤりゃ良かっただろ」
「…っ」
流れから言って、俺は当然の質問を順平に投げる。だが、順平は眉を寄せて唇を薄く噛んだ。…分からない。コイツの考えがさっきから全く分からない。
暫く黙っていた順平は、大きく息を吐き出して、帽子のつばで顔が隠れるほど俯かせると、小さく呟いた。
「…、っ…ムカつくんスよ…荒垣サン」
「…あ?」
飛び出してきたのは俺がムカつくという単語。小さい声でも何故か責められているように重い。
「…真田サンの性格じゃあ勢いでヤったって、何もなんねぇだろうし…気持ち動かせれるとは思わねぇ。つか、無理やりとか多分無理だし…、だから…荒垣サンとヤったら、2人とも傷付くっしょ?…2人の間に絶対溝が出来る…絶対…荒垣サンは引きずるって…そう、思ったんスよ」
的確なようで的確じゃないというか、勝手な理由付けにも一応は頭を働かせたんだろう。考えた結果が俺の方が効率がいいってことらしい。簡単に納得出来る話じゃねぇが。
「……で?もういいのか?」
「まさか。…引いてくれるって言葉は信じるっスよ。だって荒垣サンは絶対ェ…誰かを裏切れねぇ人だから。だけど…それだけじゃ足んねぇから、此処に来たんスよ…」
そう言うと俯いていた順平は帽子を滑らせて、つばを上向きにして視線を上げてきた。その時は不敵な面に戻ってやがった。
その後は、理解する暇も、瞬きする暇も無かった。
「 !」
唇に少し乾燥したような…それでも柔らけぇ…感触。
俺から一瞬離れる順平。それが視界に映って徐々に実感が湧いてくる。
キスを、された。
「ッツ…!!?」
また、俺にキスをしようと背を伸ばしてきた順平を今度は肩を掴んで引き離す。自分でも驚く程動揺しているのが分かる。
「…ッ、てめっ…!!何考えてんだッ…、アキにすりゃいいだろッ…間違ってんだよテメェはッ!!」
「間違ってねぇっスよ…オレ、それ目的で来たんだし…、言ったっしょ、足んねぇって…」
「ッ…、俺が…ムカつくんだろ…、大体したって何も変わりゃしねぇ…」
「変わりますよ…!少なくとも、オレん中では…」
「……」
順平が聞きたくも無い言葉を発していく度に、俺の中の抑えられねぇ何かが溢れそうな感じになる。掴んだままの肩に無意識に力が入ってしまう。
何だこれは…苛々する。とにかく抑えねぇと不味いのは分かる。
「早くしねぇと…影時間明けるっスよ…」
「…ッ」
俺が嫌いだからヤるって、アキとの仲を壊すためにヤるって…コイツ本気で思ってんのか。その顔…本気で思ってる顔なのか…?
その顔…
…やめろ。
見上げてくるテメェの顔は…犯されることを望んでんのか?それとも…逆、か…?無意識とは…思えねぇな。
だが…堪えろ。コイツは今、理性ブっ飛ばしてやがる…俺が堪えなきゃいけねぇ。順平は勘違いしてやがるんだ。アキがシャドウの攻撃で俺の名を呼んだから、俺と関係あると思いやがったんだ。俺はそんなこと一度もしたことねぇし、そんな対象にアキを思ったこともねぇ。
「最悪な男っしょ…オレ」
「……」
「真田サンはきっと、オレのこと好きになんねぇから…せめて荒垣サンを盗りたいんスよ。オレが引っ付けねぇなら…2人をくっ付けなきゃ気持ちは大分マシになるんス…」
「…こんなこと、傷つくだけだ。誰も、何の得にもなりゃしねぇ…」
「オレはオレの為にヤりてぇんスよ…ッ」
「自分勝手だな…テメェ」
「分かってるっス…最初で最後のお願いにしますから…」
「…、…順平」
そんな真似しちゃいけねぇだろ…、お前はそんな風に壊れて、そんな風に汚れたら駄目だろ。出来ねぇだろ。
もう…入ってこねぇでくれ…
「…荒垣サン、逃げんのやめてくれますか?」
「あ゛…?逃げる?」
「完璧に断らないで、オレを哀れんで見て…去って行かねぇで…でも、やっぱりオレなんかとヤりたくないんでしょ?」
「…俺は」
「そういう変な優しさ…要らねぇ、…嫌いなんスよね。人のことばっか考えてっけど…それが全部人のためになってるわけじゃないんスよ…ッ」
「…、…」
「オレのこと思って…じゃあ、俺は引くって簡単に言って…、そしたら真田サンはどうなんスか?それでオレの気持ちの整理にも答えてくんねぇって…何を1番に考えてんスか、荒垣サン?」
「っ…煩ぇな…、テメェの言い分自体可笑しいのを棚に上げてんじゃねぇよ…ッ」
「怖ぇだけなんでしょ…自分が関わんのが…!オレと1回ヤるぐらい、そんなことぐらいも出来ねぇ、チキンっスか!?」
「ッ!」
煽られている、そう分かっていながら耐えられなかった。
「 っぐ…!」
考えるよりも先に手が出た。順平の胸倉を掴み上げて、壁に力任せに叩きつけていた。落ち着こうと思っても力がどうしても抜けず、壁に押し付け続けるのをやめられない。
不味い…、もう俺…キレちまってる…
ああなんでだろうな、怒りに…?想いに…?よく分からない、分からない方が良い気もする。
「っ…、…荒垣、サン…、怒った…んスか?」
「…そんなにヤって欲しいのかよ?あ?」
「そう、言ってんじゃ…ないスか…」
「俺は挿れられるのは絶対に御免だ。分かってんだろうなァ…そんだけ、ほざいたんだ。どうなるか…おい?」
「ッ…ヤってくれんスか…いいっスよ…抱かれる側で…、じゃあそこのホテル ッつ!?」
ホテルに入ろうと、拘束から逃れようとした順平を壁に手をつかせるようにして、また後ろから押さえ付ける。
ついさっきまで抱くのだけは駄目だと自分に言い聞かせていたが、たがが外れた後はもう滅茶苦茶にしてやりたいような気分に襲われた。その考えも、想いも、身体も、余裕も、全て滅茶苦茶にしてやりたい、と。とにかく今はその不敵面を歪ませたかった。
「別に移動しなくても此処ですりゃいいだろ。影時間を有意義に使いたいんだろ?なぁ?」
「!?ちょ…待っ…いくらなんでも、外は…ッ!いつ明けるかも分かんねぇし…!」
「そんなのは中でも一緒だろうが」
散々ヤりたいと言ってやがったくせに、外は嫌だと暴れだす順平に更に腹が立って、壁に顔を擦り付けるぐらいに押し付ける。
「痛ッ…、ぐ…荒垣…サンッ…」
「黙ってヤられてろ…テメェがヤって欲しいつったんだろ」
後ろから耳元で言うと、怖さにか興奮にか、ビクビクと身体を震わせて、壁に手を当てて黙りやがった。
シャツの中のタンクトップと腹の隙間に左手を差し込みながら、右手でスラックスに手をかける。ベルトを無視して、無理に下ろすと痛がる声を上げられるが、その方が苛立ちが引く気がした。
「んん゛っ…」
胸を、性器を、乱暴に弄ると鼻にかかった、堪えたくぐもった声。どうやら律儀に黙ってろと俺が言ったことを守ってるらしい。
「…う゛…」
手荒く扱っているのに、それでも快楽を拾っているらしく、足を震わせて、ずるずると崩れ落ち始める。それを抱えてまた壁に押し付けると、かぶりを振って呻り声を上げた。
「ちゃんと立ってろよ…最後までヤって欲しけりゃ、俺の言うこと聞くんだな…」
「ぅ…ぁ…ッッ」
壁に爪を立ててなんとか必死に立ってようとする順平に少し愛しさを覚えるものの…。これもアキのためなんだと、俺じゃなくてアキが好きで、俺を完全にアキから離すための…見えない印。自分だけが納得する、自虐的な行為。
だから…俺だって優しくする義理はねぇ。
だってよ、これは"素敵な思い出作り"じゃねぇんだから。消して、忘れてしまいたいぐらいに思わせてやるよ。こんな行為は。…きっとその方がいい。
「ッつ!!」
首筋に噛み付きながら、前を弄って流し始めた液を絡めた指を順平の中に突き入れた。
きつい…だが、知るか。無理矢理、引き裂くように中を指で押し広げて、適当に解した後に俺を挿れようとすると、喘ぎながら嫌がる順平の声。
「テメェ、大人しくしてろよ…」
「ぉ…ッねが、ッ荒…垣サ、ンの方…向きた…っい…ッ」
「俺の方?」
向き合って、ヤりてぇっつうのかよ…、普通見たくねぇだろ嫌ってて、こんな扱いしてる俺の顔なんて。
「ふざけんなよ、テメェ…何の嫌がらせだ」
「ちがっ…!頼ん…っます、から…ッ、…荒垣…サンッ」
「…、…順…、…ちッ」
痛みのせいなのか、支えが必要なのか、とにかく必死で悲痛な声を出すから放っておくことが出来なくて、仕方なく俺の方に向かせて、また壁に叩きつける。
「オラ、これでいいんだろ?」
「ぐ…ッ、んぅ…、…ハァ…ハァ…」
縦に首を弱々しく振りながら、俺にしがみ付こうと手を伸ばしてくる。求めてくるその手が何故か純粋なものに思えて、思わず乱暴にその手を払い除けた。
「ッ…触んな」
震えている足を片方を掴み上げて、無理に挿し込もうとすれば、またかぶりを振ってガキのように嫌がった。
「ッう…、そん…っ、ねがぃ…しまっ…」
「何度頼む気だ。ヤってやるのが最初で最後のお願いなんだろ。テメェの言いなりになってるつもりはねぇぞ」
「ッ…掴んで…ねぇと…無、理…なん…ス…」
「知るか…最初の余裕の面してろよ…ヤられてぇって壊れた面してろよ…ッ」
今にも泣き出しそうな順平に、モヤモヤした気持ちの悪い思いが胸を熱くして…それを吹っ飛ばすように、きつい順平の中に無理矢理俺のものを突き立てると堪えきれないように悲鳴を上げられて、途端、片足で踏ん張っていた力が一気に抜けた。
慌てて突き立てたまま、俺も合わせてしゃがみ込む。それでも急に崩れ落ちたことで一気に全て奥まで入ったのか、金切り声のような悲鳴じみた喘ぎ声と、それに続いて泣くのを我慢出来なくなったのか嗚咽を漏らし始めた。挿れた中は体温以上にドロリと生温かい感触がしやがる。多分さっきの衝撃で出血してやがんだろ。
「ッちゃんと立ってろっつったろ…!!」
「 あ゛!!ィあ…、ぐぅ…ひ、ぅ…ッ」
ぼろぼろと珠のような涙を零して泣きながら、声を上げないように、痛さを我慢するように、自分の腕を咥えて噛み千切んじゃねぇかと思うぐらい歯を立ててやがる。
「ッおい…、ックソ…、声出して構わねぇから…腕離せよ、千切れんぞ…ッ」
それでも順平は激しく首を横に振って、顔を真っ赤にしながらさらに強く噛む腕からは、血が流れ出していた。
「やめろっつってんだろ!!言うこと聞け!!」
「んあぁっ…、は…あっ…うあぁぁ…、だっ…だってッ…ああッ」
無理やり口を抉じ開けて順平の腕を取り出すと、抑え切れないという風に、強くしがみ付かれる。
「触んなっつったろ…ッ、…おい…、……順平」
今まで見たことないほど幼児返りして、泣き喚く順平を見下ろすと、一気に自分が虚しくなった。
この様子じゃコイツは初めてだ。恐らくアキとは前戯とも言えねぇような、軽く触れる程度かしてねぇんだろ。それを怒りにまかせて、痛めつけてもう馬鹿なことを考えさせないようにしようとして、無理やり突っ込んで精神的にも追い詰めて…、俺何してんだ…
「…順平…落ち着け…、悪かった…分かったから…抜くぞ?…ッ!?」
それでも順平はさらに強く俺にしがみ付くと、また首を強く横に振る。何でだよ…そんなにアキが好きなのかよ…、俺にどうしろって…
「うぁぁっ、あっ…あっ、ん…あぁッッ」
「!ッ…くッ…あ…、テメっ…ッ」
突然順平は自分で身体を弾ませ始めて、奥まで抉らせては喘ぐのを繰り返し始めた。
そんなにヤりてぇのかよ…泣いてんじゃねぇかよ…俺は応えりゃいいのかよ…?
「 っあ…!ィ、あぁ…や、あ…!」
膝で順平を固定して、強く突いて、順平が俺を飲み込む運動を繰り返してやる。振り落とされないようにしているのか、それとも…
泣きながら、荒垣サン、と喘ぎに混じらせて呪文のように繰り返す順平の想いが分からなかった。何に必死なのか分からなかった。
俺は、とにかく順平が果てるまで激しく攻め立てた。それぐらいしか…出来ねぇから。
ボロボロじゃねぇか、コイツ…なんでこんなになっちまったんだよ…テメェは耐えられなかったからっつったが…アキへの想いを俺に向けるのは可笑しいだろ。…ヤらせるために俺をわざときれさせて…、その結果がこれかよ。こんなんで、テメェは何に納得すんだよ。
「っら垣さ…!荒垣サンッ…、ァ…んああ…、う゛ぁ…!」
「…ッ、順平…、っく…」
「っハァ…っん、は…ぁ…、…っ荒垣サン…、…す…き ッ」
「ッッ !!」
ぐったりと俺にもたれ掛かる順平を見て呆然とする。
…最後に、好きっつったか?今?
誰に…?…アキを…思い浮かべたんだよ、な…?
果てた余韻を感じるよりも、最高に昂った状態で呟くように言われた言葉に衝撃を受けていた。荒く息をする順平が身じろいだのでようやく我に返る。
順平がイク寸前で手で覆ったから、そこまで服に被害が出なかった。このまま寮に帰っても悟られることはねぇだろう。俺の出したもんは中に入っちまったけど…、思いっきり首にしがみ付かれていたから抜くことも無理だったから仕方ない。
「…、…おい退け…、触んなって…言って…、っの野郎…」
「荒垣…サン…、…こ、こっちだって…触りたくて触ってんじゃ…っ」
「ッ!」
すぐに優しくはなれなかった。混乱もあるが。冷たい台詞を思わず言うと、悲しそうな顔をした後、無理に身体を動かせて、俺を押すようにして膝から地面に転がり落ちた。
のろのろと服を着直して、小さくありがとうございましたと言うと、立ち上がった。中に出したままの精液が垂れ始めたのか、呻りながら肩を震わせた。
「おい…順平…」
声をかけても振り返ろうとしない。腰を引きずりながら、壁にもたれてズルズルと歩いていく。その先の空の緑色が闇に溶けるように消えていって、街灯の明かりが点いてボロボロの順平を照らす。
その後姿…なんて
「…っ、…じゅ…ッ、…順平…!」
「ッ!?」
ヨロヨロと歩いている順平をもたれ掛かっている肩を掴んで壁に押し付ける。突然の行動に順平は疲労した顔を驚かせた。
「…、…順平、…こんなんで…終わりにする気かよ…」
「…な、に…言って…?」
「1回だけで…許すと、思ってんのか?」
「ッ!?そんな話じゃ…、…っ大体オレが頼んだんだから…オレの勝手っしょ…ッ」
放っておけないとかそんなんじゃない。こういう形で終わらせられなかった。最後に言われたことが、必死に求められたことが。もう順平に対して明らかに違う想いを抱いていた。
それでも普通に告白するなんてのは出来ない。そうすればきっと苦しむのは、もっと苦しむのは順平だ。そう自分に言い訳をした。
「…アキは諦めてやるから…、テメェが、代わりになれよ…テメェが捌け口になれよ…」
「!!」
「なぁ…俺はアキを諦める。だからお前もアキを諦めろ。…じゃねぇと平等じゃねぇだろ」
「っ…ちが…、…オレ…は…、 ッんぅ…!?」
両手を壁に押し付けて唇を塞ぐ。お前は首を縦に振ればいいんだ。
舌を挿し込めば、逃げるように引っ込められた。それを無理矢理絡めれば、そのうち抵抗しなくなったが、それでも身体は微かに震えていた。嫌なのか、怖いのか、それとももっと違う感情なのか、俺には分からない。
アキなんて、何も関係ないのに…引き合いに出す俺は、最悪だが…このまま終わらせて堪るかよ…
「っ…、安心しろよ…愛さねぇから…」
愛したくても…愛さねぇから…、俺のことを憎んでくれて構わねぇから。
「…オ…レ…ッ、…っ、…べ…別に…いい…っスよ…」
泣きそうにグシャっと顔を歪ませて、何かを言いかけたが、帽子のつばに顔を隠して。…暫くして上げた顔は最初の不敵な壊れた笑顔で…いい、と返事をされた。
その頬に一筋涙が流れた。
だが、そんな涙は舐め取って、愛の無い…はずのキスをもう一度したからよく分からなかった。
fin. 2007/01/04