MY HERO
「うわ…やっぱ気味悪ィ…」
毎日在るけど無い時間。0時を過ぎるとやってくる緑色の世界。外には下辺りがぼんやりと赤く染まっている棺があちこちに突っ立っている。
今日はタルタロス攻略もなく、暇を持て余して興味本位で外に出てみた。タルタロスの外にもシャドウがいる可能性があることは理解していたが、召喚器を持っているし何とかなると楽観的に考えた。
しかし何故、銃で頭を撃ち抜かなければ召喚出来ないのだろう。実際召喚の仕組み等、詳しい説明は何も聞かされていない。それでも自分には大した情報じゃないと思って放ってはいるが、本当に悪趣味もいいところだと思う。
考え無しに適当に足を運んで行けば、少し開けた道路に出た。車は一台も止まっていない。
何の音もしない、今この空間にいるのは自分だけ。そう思うと自分は特別なのだと改めて実感する。変な優越感。まぁリーダーにはなり損ねたが、そのうち挽回できるチャンスがくるだろう。
見上げれば大きな大きな月。普段よりも濃い黄色に輝き、緑色の空の中でそれだけがぽっかり浮いていて、正直綺麗だとは言えない。逆にクレーターが口に見える気がして、喰われそうな錯覚を起こすようで気味が悪い。
ぼぅっと月に魅せられて突っ立っていたせいか、風に吹かれてふるっと身体が微かに震えた。
「…、も…帰っか…」
一度妙な不安や軽い恐怖を覚えてしまうと居心地が悪いことこの上ない。あっという間に影時間の世界から興味が冷めて、寮に戻ろうと振り返った。その瞬間だった。
「… !」
黒い物体が視界に映った気がした。
途端にゾクゾクと身体が一気に震えて、すぐに硬直する。まさかまさか、アレなのか。適応者かもしれないと思いたい反面、僅かに視界に入ってきた物体はどう考えてもシャドウだという現実がチラついた。
召喚器を取り出して周りを警戒する。来るか?来んなら来い…や、やっぱ嘘!来んな!こっち来んなよー…
まだシャドウとの戦いに慣れたわけじゃなかった。何とかなると思ったが、いざ出くわすと恐怖が込み上げる。しかも独りなんて不味過ぎるにも程がある。今更ながら自分の軽率さに悪態をつくが何も変わるわけではない。
後退しながら黒目を忙しなく動かす。相変わらず自分の足音以外は聞こえない。
よし…来る前に逃げちまえば大丈夫だろ。そう思った瞬間弾けた様に駆け出すと、右足に鋭い痛みが走った。
「 ッ痛!?…おわぁッ!…ぃでっ!!」
痛みで右足に力が入らなくなると、つんのめってコンクリートの硬い地面に派手に倒れる。足を見ると脹脛辺りがザックリ斬られていて血が流れ出ていた。
……え?…斬られて?
恐る恐る顔を上げると黒い塊が目の前にまで迫っていた。とてつもなく大きい。パッと見でも自分の三倍はある。ウネウネと何本も手を生やしていて、そのうちの一本に血がベットリと付いていた。
…まさかアレで引っ掻かれたとか?はは…おい、マジかよ…っ剣で切り裂かれたみたいな痛みだったぞ!?
ヤベェ、ヤベェ!ヤベェ…ッ!!
慌てて召喚器を握ろうとするが、ホルスターに入っていない。辺りを探し、後ろを振り返ると遠くの方に転がっていた。こけた拍子に吹っ飛んでしまったらしい。
嫌な汗が背中を伝う。狩られる側になったという事実に恐怖で全身が震える。錯乱しながらも、とにかく召喚器を取らないことにはどうしようもないと何とか考えつき、右足を引き摺るように立ち上がった。すると、塊から血が纏わりついたその黒い手が伸びてきて、傷口を力一杯掴みあげられた。
「 ッ!!ァ゛、ぐッ…!?」
痛みのあまり、そのまま崩れ落ちる。痛みに呻く暇も無く、掴まれた足をそのまま引き摺り込まれ、黒い物体の方へと寄せられていく。
「やっ…痛ッ!!…、は、…っなせよっ!きもッきもいっての!!」
もがいても拘束が解けないどころか、密着するほどにシャドウに引き寄せられて、もがく手を掴まれて押さえられた。動きを封じられると、ドレスシャツの中にヌルヌルした冷たいのか熱いのか分からない感触が滑り込み、肌を探るように自身に絡み付いてこられて、思わず息を飲んだ。
「っひ…、…、ァ…ッ」
全身を感じたことの無い感触と温度で弄られて、恐怖と不快感しかそこにはありえないはずなのに、脇腹や胸をベッタリと触られると微かにピリピリと電撃のようなものが走り、喉の奥から甘い声が漏れてしまった。
マジかよウソだろ…!?…こんな、こんな化け物に触られただけで感じてんのかよオレ…ッ。…つかこのままじゃ色んな意味で喰われるんじゃねぇ!?確かシャドウは精神を喰らうから無気力症になんだろ?……ッ、まさかコイツその為にこんなことを?精神にたっぷりスパイスかけてから美味しく頂く気かよ…!ざけんなよ…ッ!
「っく…ッ触んな!!化け物のクセに盛ってんじゃねぇよ…ッ!!」
黒い手が絡みついた腕を必死に動かすが無駄に終わる。口で言っても人のことを餌としか見ていないような塊に意味が無いのは十分分かってはいるが、何とかしてこの状況から逃れたい一心で、大声で喚き散らしながら身体を動く限り暴れさせた。激痛が走っていた足も、今では恐怖に麻痺させられていた。
しかし、そんな抵抗も全く関係ないようで、シャドウの手がついに下腹部にまで伸びてくる。気持ち悪い、怖い、外になんかに出なければよかったと後悔するが、思うのには遅すぎた。
「い、いや…嫌だ…ッ、 ァア…ッ、そ…んなとこ…ッ」
手の形など、どうとでも変形できるらしく、ベルトで締められたズボンと肌の隙間を簡単に通り抜け、恐怖で萎える性器や、太腿に絡み付いてはウネウネと動きを再開する。
「あぅ…ッうぅ゛…、…だ、誰かっ…!!助け…ッリーダー…、真田サン…!!」
自分じゃどうにもならないと分かると、この時間で唯一頼りになる男二人の名前を叫ぶ。女性の名前を叫ばないだけの理性は僅かながらまだ残っていた。
涙声になりながら叫んでいると、シャドウに聴覚があるのかも疑問だが、煩く思われたのか多くのうちの一本の黒い手に口を押さえられる。手が顔程にあるため、輪郭ごと、と言った方が正しいかもしれない。
「ンンっ!!ん゛ーーッ!…っ、んむぅ…っ!!」
発声が出来なくても怖くて叫ぶことを止められない。止やめてしまったら恐怖と混乱から気を失いそうだった。そうしたらもう目が開かない気がした。
自分が勝手に出て行って、こんなことになるのは自業自得というものだと分かっている。もうしないから。だから、だから頼むから
精神的に限界にきた時だった。バリバリィィ、と轟音が無音の世界に響いた。
シャドウが驚愕した様子で拘束を解いてズルズルと離れた。数十秒経ってから、轟音が雷鳴だと気付く。力が抜けて動けずにコンクリートに横たわったまま、目線で状況を確認した。
衝撃でたっていた煙が風に吹かれて二つに分かれ、その中心に人が現れる。
濃い黄色の月に照らされて銀の髪が輝く。その様は人間だと思えないくらい神秘的だった。
ああ…まるでヒーローじゃん。格好良すぎろ。
真田サン。
現れた真田は、険しくも整った顔の眉間に召喚器を押し当て引き金を迷い無く引いた。見えない銃弾が貫通し、雷光を放ちながらペルソナが宙を舞い、踊る。それに合わせてその身を電気で光らせながらシャドウも踊った。
幻想的な世界の中、ピンチにタイミングよく現れ、華麗に敵を倒すその姿は、間違いなくその瞬間は自分だけのヒーローだった。
「順平ッ!!」
「…、ぁ…真田、サ…」
粒子になったシャドウの間から真田がこちらに駆けて来る。助かったことに安堵して飛びそうになる意識を何とか保つ。これ以上格好悪いところは見せられない。
「大丈夫か…?」
「…な、何とか…」
「そうか……、…っ全く何考えてるッ馬鹿が…ッ」
「っ…!すん、ませ…」
心配してくれていたのか、何なのか、突然の怒声にビクつく。分かっている、悪かったのは。もう二度としない。というかこんな目に二度と遭いたくない。
「…、…ハァ…『美鶴、順平を見つけた。連れて帰る』」
無線で桐条先輩に連絡を入れると怒ったような、疲労したような顔をして、ほら、と背中をこちらに向けた。
「…足を怪我しているだろ。言っておくが次は無いからな」
「…!あ…まさか、負ぶってくれる…とか?」
「…さっさとしろ」
「いや、でも…オレ、その……お、重いかもしれなっ !?」
助けてもらった上に負ぶってもらうなんて、しかも怪我してるとはいえ17歳なのに、等と戸惑っていると急に身体が宙に浮いた。気付けば目の前に真田の顔。うわ、睫毛長ぇなぁ…と暢気に思うどころではない。今の自分の状態は俗に言うオヒメサマダッコというやつ以外何ものでもなかった。
「もたもたするな。帰るぞ」
「待っ…!!ちょっ、ありえねぇッ、降ろして下さいよ…ッ、…恥ずッ恥ずかし過ぎるってッ!!負んぶのがマシ!!」
「煩い。大体影時間なんだ、誰も見ない」
そういう問題じゃない。オヒメサマダッコなんて自分に似合わない言葉&格好ベスト10に十分ランクインする。むしろ羞恥プレイの域だ。
結局何を言っても煩いの一言で黙らされ、仕方無く俯いたまま我慢すると、やっと寮に着いて降ろせてもらえた。
それなりに皆に心配をかけたようで、勝手な行動で心配させたことを謝ってから真田に肩を貸してもらい部屋に入る。最終的にはほぼ持ち上げられていたが、やっとベッドまで辿り着くと、腰をかけて礼を言う。しかし真田は部屋から出ようとしなかった。
「足の怪我…治療しないと不味いだろ」
口を開く前に答えられるが、手当てまでしてもらうほど落ちぶれてはいない。というか、まだ怒りが収まらないのか、先程から言葉に所々棘があって怖い。
「あ…自分で出来るんで。大した事ねぇし…真田サンも休んでください。ホント、迷惑かけました。ありがとうございました…」
「……」
一方的に言って出てってもらおうと思ったが、全く出て行く気配が無い。それどころか、じっと足元を見ていると思えば、いきなり目の前で跪かれてスラックスを膝まで上げられた。
「確かに出血に比べるとそれほど傷は深くないな。だが細菌が入ると厄介だ、消毒するぞ」
人の話を聞いているのだろうか。いや、自分中心な人物ということは共に生活してきて大分理解してきたが。怪我の手当てぐらいは自分でしなければ情けな過ぎる。大体ヒーローは怪我の手当てまではしないものと決まっている。勝手にヒーロー扱いしているのは置いておいて。
「…?っ !!」
突然舌を突き出したと思えば傷口を舐められた。反射的に足を退こうとしてもしっかり掴まれていて叶わない。舐めて消毒など、怪我が付き物のスポーツをしている人間とは思えない対応だ。唾液で消毒などは基本的に怪我の対処としては方法を間違っている。それぐらい素人の自分でも分かるもので、真田が知らないはずはなかった。
「や…傷薬で治しますから…バッチィっスよ、傷口舐めたら…」
「消毒だ」
有無を言わさず舐めることを止めない。そのうち舌先を尖らせ、傷口を軽く抉るように挿し込まれ、攻めるように舐められるそれはズキズキと痛みを伴うようになってきた。おまけに背筋にも何故だか原因不明の震えが走る。
されるがままになっていることに耐えられなくなってきて、正直に痛いと伝えると、素直に顔を上げて足に包帯を巻かれた。巻き終わると包帯をじっと見つめそれからオレを見つめてくる。意味が分からない。そしてついでに何か、怖い。
「消毒する必要があるところ…足だけじゃなかったな?」
そう言うと真田自身もベッドに乗ってきて、そのまま肩を持たれて押し倒される。B級のラブストーリーの王道通りの展開過ぎて、一瞬されるがままになりかけたが、すぐに我に返って、これまた王道通りに止めて下さいと押し退けようと試みる。しかし筋肉量で圧倒的に負けていては何の抵抗にもならなかった。
もがく手を掴まれ、身を寄せられる。思わず先程のシャドウとのデジャヴを感じるが、今はデジャヴってる場合じゃない。必死に逃げようとすると真田の足で怪我をしてる箇所にピンポイントで押さえられて、痛みで動きが止まる。怪我してるとこ狙うなんて汚過ぎる。それでもスポーツマンかという罵声こそ、何の役にも立たない。
「大人しくしろ…消毒出来ないだろう」
ロマンポルノで聞いたような医者のセリフを吐かれて、腕を掴まれたかと思うと包帯で両手一緒に巻かれた。手は怪我してないんですけど、と声を吐き出そうとした瞬間、次は目を包帯で覆われ、更には口にも素早い手つきで包帯を巻かれた。本当にグルグル巻きという状態で、さすがに思考が追いつかなくなってきた展開にあたふたと慌てる。とりあえず抵抗することで意思を伝えなければとなんとか思い、ヒトの体温を頼りに抗議をしようと縛られた手を伸ばすが、その手はやんわりと掴まれて阻止される。
「…ッ、ん゛…!!」
「…シャドウはどうだった?上手かったか?」
いきなり耳元で真田の低く、色気が含まれた声がして肩が反応する。
……それより今何を言われたか。一瞬何を言われているのか理解出来なかったが、あの自分の醜態を思い出す。顔が熱くなるのが分かる。それは恥ずかしさより悔しさと腹立たしさが上回って。恐怖で叫びを上げるしかなかった上に、簡単に餌になりかけたあの醜態を見てよくそんな台詞が言える。
「消毒してやる…全部だ」
そう言うとドレスシャツの前を外し、身体中に舌を這わせ始めた。消毒というのはどうやらシャドウに触れられた身体を、ということらしい。濡れた柔らかい塊が肌の上を滑るのは、やはり気分が良いものではない。逃れようと身体を捻るが、捻って現れる肌を舐められるだけで回避出来ない。
「んむぅ…っ!ん……んん、ッ…!」
目を覆われて何をされるか分からないことで身体が異常に敏感に反応する。それでも口も開けないせいで声が上手く吐き出せず苦しい。何とか縛られた手で真田の頭を空を掻きながら見つけ、離そうとするが上手くいかない。
「声が出せなくてよかっただろう?隣の部屋にも聞こえないからな…それに、その籠もった声もそそる」
楽しそうに言いながら身体に舌を当てつつ下へと滑らされる。嫌でも身体が火照るのが分かる。多分恐怖や嫌悪以外に、行為そのものにどこかで興奮してるんだろう。
腰の辺りを引っ張られたと思ったら、カチャリと金属の音がして布が肌を滑って下げられるのが分かる。もしかして本番をするつもりなのかと、咄嗟に制止の声を上げる。
「んんーーッ!!」
「ああ、分かってる。気持ち良くしてやるさ」
どう考えても逆を示した声だと思うのだが、真田的に解釈される。真田の頭が下がったせいで髪の毛を引っ掴むことも出来ない。それでも探し当てるように縛られた手を必死に動かしてみる。
「ん…お前もその気じゃないか。俺が早く欲しいと強請るのも良いが、いきなり挿れて痛い思いをするのはお前だぞ」
そう言いながら無理矢理身体を下向きにさせられて、腰を持ち上げるようにされる。四つん這いになれ、という命令らしい。命令以前に好きに転がされて、されるがままなのだが。口が利けないのを良いことに、わざと逆を言って反応を楽しんでいるように思える。趣味が悪過ぎるにも程がある。
「… ッ、ン…ぐ…」
指のような感触がアナルに突き刺さる。それはたっぷり濡れていて腸壁を撫でるように念入りに擦りつけていく。まるで軽く洗浄されているような感じだ。数センチのものとはいえ、圧迫感が尋常じゃない。詰まる息も吐き出せなくて縛られた手で必死にシーツを掴んで耐える。どうせ驚いて逃げようとしても敵うわけが無い。
「ッ、ん゛…ッ、…うぅ゛ッ!?」
突き入れられていたものが引き抜かれたと思うと、次は先程まで散々味わった舌の熱くて滑る感触が中に挿し込まれて、身体が強張る。無理に拡げられ侵入されると背中がゾクリと震え、腰辺りに痺れが走る。何とか身体を支えようとシーツを掴みながら肘を突いていた肩が痙攣するように震える。
こんな所にこんなヌルつく感触が這い、出し入れされるなんて、もちろん生まれて初めての体感である。腰あたりがざわつくのはあっても、妙な感じがするとしか言いようがなく、快楽には程遠い今はただ羞恥心が掻きたてられていく。
汚い、絶対汚い。始めの行為が洗浄だったとしても、あれぐらいで排泄器官が綺麗になるはずがない。というか排泄器官に舌を伸ばすなんて考えられない。本人がどう思おうが、やられているこっちは羞恥で死にそうだ。どこまで消毒する気なのかこの男は。こんなものは望んでいない。身体の自由が利かなくて、文句も言えない、喘ぎも満足に出来ない、何をされるか分からない…耐えられずに首を必死で横に振り、腰を曲げて拒絶を表してみる。しかし…
「そんなに気持ち良いのか?」
…と、低く笑われて、更に奥まで侵入される。何度も何度も出し入れされ、周辺を舐められ、性器まで繋がる縫い目のようなところまで沿うように舌を這わせられて、嫌でも熱を昂らせられる。それでも肝心の熱の中心には触れられることが無く、過剰な焦らしは苦痛にも似ていた。
「…う…う…う…」
このもどかしさをどうにかしたくて足を擦り合わせようとするも、太腿の付け根を掴んで引き寄せられて、腰だけが高く突き出たような体勢になる。きっと、自分でも見たことがない秘所が真田の目の前で丸見えになっているはずで、見えなくてもはっきりと分かってしまうのが酷く嫌だった。
狂いそうな中必死に耐え続け、何分経ったか分からない頃になって、ようやく感触が止む。だが、身体の力を抜く暇もなく、粘着質な水分を含んだ指のような感触が入れ替わりに挿れられて、括約筋が機能しなくなるほどまで、指を増やされしつこく解され続けた。
嫌だって言ってんのに…ヒーローだったら最後まで格好良くいてくれよ。一体何がしてぇんだよ…?
もう既に中の肉が麻痺する程に弄られ、自力で立てないほどにぐったりしているところを急に抱き上げられて、認識が追いつく前に、滑りを帯びたリアルな熱がアナルの入り口に触れる。驚愕する前に抱き上げられた身体をゆっくりと下げられていき、先程とは比べ物にならない質量を自分の身体の重みで埋められていく。
「 !!…ッッ、ぐ…」
嫌と言うほど慣らされた腸壁は重力に素直に従い、驚くほど簡単に許容以上の質量をドプリと飲み込んだ。それでもいきなり捩じ込まれたそれは、壁を抉り、内蔵を押し上げて圧迫感を増させる。声を上げることも息を吐くことも出来ない身では、じっとしているだけで違和感と苦痛が常に120%のまま疼いていた。
様々な責め苦に現状の体感しか受け入れいれられない状況だったが、中が火傷しそうな熱さだと感知出来た瞬間、自らを貫いている塊が生々しいことにようやく気付く。当然のことながら、その塊にゴムを覆わせているはずも無いことを中でありありと感じ、咄嗟に身体が拒絶の意思を示すが、当の真田は甘い声と多少苦痛の混じった声を出しながら、しっかりと腰を掴み、人の身体を好き勝手に持ち上げたり下ろしたりと、一人で楽しんでいた。
そんなに貪られていては、思考なんてものは揺さぶられる刺激に振り落とされ、狂いそうになるほどの熱を与えられていくことしか出来なかった。
「ん゛ん゛ッ、んっんっんっ…ッ」
尚も抱きかかえるようにして腰を動かされ、その度に強制的に抑制された声が漏れる。壁を裂かんばかりの質量が入り口を出たり入ったりする摩擦に電流を流されたような刺激が走り、奥の内臓を貫かれそうになれば訳も分からず脳髄から足先まで身体が痺れた。
その刺激に溺れていると、今まで触れられずにいた張り裂けそうな自身にいきなり真田の手が触れる。待ち望んでいたかのように、瞬間、全身がビクンと大きく痙攣して背が反りあがった。もうそこには自分の意思なんてものは無くて、膝を叩かれれば足が勝手に上がる、というような身体の反射の仕組みと同じようだった。
「ッ、ンふ、ぅ…ッ!?」
軽く撫でられるだけで射精しかけそうになると、根元を何かが、指…なのか。痛い程に喰い込んできて、行き場を失った精子が勢い良く逆流する。
「 ッ、ゥ…、んん…ッ」
「勝手にイクな…お前の身体も精神も、全て俺のものだ…」
啜り泣く自分の耳に唇を押し付けられ、妙にトーンが下がった声で囁かれる。達せない欲は自身を暴れまわり、熱さともどかしさは本当に耐えられるものではなかった。冗談じゃない、このままでは可笑しくなってしまうと抑えられた声を上げ、首を振って訴えるが聞き入れてはもらえない。
「ふ…、…ッ、うぅ…」
「順平…、順平…、…今、俺だけを感じているか?」
「ン…、ぅ…」
「…俺以外の奴相手に絶対感じるな。たとえ…シャドウでも、だ」
「…!」
目も口も利けなくされて、唯一の体温を必死に求めた。ただ自分を抱き締め、貫く人物だけを何よりも、より強く感じた。それが、この異常な独占欲が起こした行動なんて、子供染みていて滑稽過ぎる。
ただ、それを求める相手を愛しいと僅かながら感じてしまった自分も十分可笑しい。
「…ッ、…順平ッ、お前、も……ッ」
「ッ !!ン、ぅ…ッ、……」
息を荒げてきた真田にそう言われると、戒められていたものを急に解かれ、擦られると同時に奥まで一気に突き上げられた。突然の強すぎる刺激に目の前が激しくスパークすると、急激に視界が霞んだ。
…一緒に達したいなら、そう言えば、いいのに。
服が散乱して包帯も転がって、虚ろな意識の中、視界に映った僅かに残る手首の包帯の鬱血痕を眺めていた。何だか現実味が無い、そう思って身じろぐと身体はしっかりと行為の痕跡を刻んでいた。酷使した身体はタルタロスで鍛えているのにも関わらず、起き上がることも難しいほどに疲労と激痛が酷く、恐らく中に垂れ流されたのだろう精液が勝手に腿を伝ってきて、まるで漏らしたかのように感じて不快だった。
そこではっとする。そういえば避妊具も付けないで犯されたということを思い出した。いや、問題はもちろん妊娠するとかではなくて、直腸に液体を注入するなど明らかに後々腹痛を催しそうだ。それに、どう考えても適正とは言えなかった前処置での行為は、今やほとんどの学生が教えられている性病にかかる可能性だって有り得る。
ムードも何も無い考えだったが、常識的に大切なことだ。もう手遅れも甚だしいが、何とか身体を清めようと起き上がりかけると、後ろから手が伸びてきて、そのまま抱き締められるように捕らえられて、後ろ向きに真田の腕に包まれるようにしてまた寝そべるはめになった。
「っ、真田サン…!早く綺麗にしないと病気に…」
「…大丈夫だ。最低限の処理はした」
「最低限って…オレはまだ中に出されたまんまなんスけど!」
「それぐらい少し我慢しろ…、……それより」
中出ししておいて、それぐらい我慢しろというのは如何なものか。自己中心的過ぎる物言いに肘で鳩尾にでも一発入れてやろうかと思ったが、語尾が切羽詰ったような、辛そうな声色だったために攻撃する間も抗議する間も計れなかった。
「…二度と一人で勝手に出歩くな、絶対にだ」
「わ、分かってますよ…もう、しないっスよ…」
「シャドウなんかにあんな風に襲われて…腹が立つ。……守ってやれなかった」
「…、…助けてくれたじゃないっスか。あの時は一瞬ヒーローみたいで格好良かったし…」
「…ヒーロー?…こんな風にお前を扱った俺がか…」
「あの時は思ったんスもん…。ん…真田サンって…なんつうか、不器用っスよねー。つか、そう思うんなら離して下さいよ」
「…駄目だ。まだ…もう少し…」
強く強く、身体を締められ、肩に頭を擦り付けられた。シャドウに襲われたことを真田の方が傷付いていることに言いようの無い気持ちになり、とりあえずは暫くこのままでいることを我慢することに決めた。
中身に大分難があるけど、それでも自分を守りたいというなら自分専属のヒーローになっていればいい。
自分専属という良い響きに身体の痛みには目を瞑って満足しておこう。
マイ ヒーロー
とりあえずはオレの完璧な後処理と安眠を提供してくれ。
fin. 2006/10/17
2008/05/10 タイトル・文章修正