黄金色の教室
黄金色の光が差し込む放課後の教室。
普通なら綺麗だとか趣があるとかいった感想を零すほどの美しさだったが、順平にとってはこんな時間まで残らされていたのかと憂鬱にさせるだけの代物だった。
何故こんな時間まで学校にいたかというと、トンガリ先生、もとい鳥海先生の授業中に寝るという愚行を犯してしまったため職員室に呼び出されて小一時間説教を受けたあと、やっと開放されて教室に戻ってきた。いやまさか通例のケーキを持ってこいから愚痴話になって、それから若人に対する説教になるとは思わなかった。
既にリーダーは部活に出たようで、友近や、他の友達も、何時までかかるか分からない長い説教の間待っていてくれるはずもなく、さっさと帰ってしまっている。
気怠さしか残らなかった説教に大袈裟に溜息を吐いて、さっさと帰ろうと思い、机のリュックを掴んだときだった。
「ッ…!?」
ぐっ、と腹の辺りが伸びてきた腕に締め付けられる。その後さわさわと指が這う感触。全く気配を感じなかったために、驚いて大きく肩を揺らしてしまったが、それも一瞬だった。こんな場所でこんな常識の無いことをする人物は一人しか思い当たらない。
「…真田サン」
「何だ?」
「何だ、じゃないでしょ…いきなり何なんスか…」
「こんな時間に独りで何してる?」
「…そのセリフそっくりそのまま返すっス。…こんな時間に独りで、しかも二年の教室で、人の腹を触りまくって、何してんですか…」
振り返らずにリュックを持ったままで、溜息を吐きながら言うと、抱きついたまま真田が首に顔を押し付けてきた。甘えるときによくする行動だが、される側としては首のような皮膚が薄いところに感触を与えられては、堪ったものじゃない。
「生徒会室に行こうと思ったら、お前が居た」
「っ…だ、だったら早く生徒会室に行けばいいじゃないっスか…!」
首に息がかかってくすぐったいと、順平が腕を振り解くように身体を動かしても、がっちりとホールドされたままで、全く離れない。尤も他人の言うことを聞くような人物ではないのだけれど。
「やめた」
「やめ…、…ハァ、やめるのは勝手ですけど、オレは帰るんで離してくださ… っん…ッ」
ぬるり、とした感触が首を襲う。っちょ、首は弱…ってそうじゃない!!
「待っ…ッ何、考えてんスか…ッ、こんな所で…!」
「大丈夫だ。誰も来ない」
「はァ!?現に真田サン来たじゃないっスか!!」
「ああ…まぁ、ドアは閉めた方がいいか」
「人の話聞いてます!?」
当たり前のように無視をして手を離すと、後方のドアを閉めに行く。
…この人、天然とかボケとかのレベルじゃねぇ…もう頭可笑しいって。自己中心的が過ぎると恐怖さえ感じるわ。
後方のドアを閉めに行った隙に、こんなところで犯されて堪るか、と順平は前方のドアに向かってダッシュした。しかし…
「…!開かねぇ…!?」
いくらドアを横に引いても扉がガタガタと騒ぐだけで、全く開かない。そんな馬鹿なと振り返れば、口角を吊り上げている真田が近付いてきていた。
「安心しろ。前のドアの鍵はちゃんと閉めておいた」
軽く鍵を振って見せられる。何をどういう方向から見れば安心出来るのだろうか。最悪のパターンだとしか言いようが無い。
そもそも、鍵を持っている時点で最初から狙って来たってことじゃないのか。靴箱でも見られて、今なら遊べるとでも思われたのか。ああ、本当に何を考えているのか分からない。
順平がただただ放心していると、そんなことはお構い無しに真田はゆっくりと近付いてくる。後数歩というところでハッと我に返り、咄嗟に持っていたリュックを投げつけた。
「っ…、何するんだ」
「そ、そっちこそ何する気なんスか…!?怖えよ!」
「何って…勉強でもして欲しいのか?」
顔を向けたまま詰め寄られ、ゆっくりとした動作で手を伸ばされる。その黒い手が不敵に笑う顔と重なって恐ろし過ぎる。
「…っマジで、嫌だって…真田サン…」
順平は逃げるように後ろに下がるが、ドンと壁にぶつかって、次には真田の手が頬に触れて簡単に行き場を失ってしまう。微笑を絶やさずに触れた頬を撫で、そのまま滑るように首、肩、と手を移動させていく。優しく、繊細な手つきが逆に順平の不安感を煽る。
「…順平」
滑らされた手が最終的に順平の手首を掴んだ。
「年上にリュックを投げつけるなんて教養の無い奴だ…、それとも仕置きが欲しかったのか…?」
真田の台詞に順平の恐怖心がMAXになったと同時に、掴まれた手に力が込められ、そのまま強い力で逆方向に引っ張られ、投げられた。
「 っ!!痛ぅ…ッ」
順平は並べてある手前の机に乱暴に打ちつけられ、狭い机の上で痛さに身体を抱えた。その上に真田が素早く覆い被さる。
「っ真田サ…ッ、え…、…マジ、かよ…」
嫌な汗を流し始めた順平とは対照的に、真田は浮き浮きとした様子で仰向けに倒れた身体を両手で押し付けてくる。
宙に浮いた足が心許ない…それよりも自分の身が絶体絶命。順平がこれからの危機を悟り身体を身悶えさせ、頭突きをしようと試みるが肩を押さえられているために、不気味に頭を前後に揺らしているだけに終わる。
必死に抵抗を試みる順平を尻目に、真田は片手で押さえ込み、片手でドレスシャツのボタンをゆっくりと外していた。引き裂かれないだけマシか…いやいや、そうじゃねぇ!
「やめてって…!!ホント、頼みますから…ッ、…っそんなにヤりたいなら寮でヤらせてあげますから…!!」
此処よりは絶対マシ、そう思って順平が叫ぶと真田の手が止まる。
…まさか言っちゃいけねぇこと言った…?嵌められた!?始めから、こう言わすつもりだったのか…?
「そんなに、嫌なのか?」
首を微かに傾げて聞かれる。たとえ嵌められていたとしても、此処で強行されるよりは確実にいい。それに寮までの間に逃げる隙があるかもしれない、そう思い、真田の顔を窺いながらゆっくりと首を縦に振る。
「そうか……なら、此処でたっぷりとしてやる」
「っえぇ!?何で!!普通、じゃあ寮でってなるでしょ…!」
「お仕置きだからな…?嫌がることをしないと、つまらないだろ」
何というサディスティックな発言なのかと思ううちに、ボタンを外し終えられ、革の音をしならせ肌に直接触れて撫で回される。
「やっ…!!こ、こんなとこ、マジで誰かに見られでもしたら…!最悪、退学っスよ!?」
「…まぁ、俺はボクシングがあるし、お前となら別になってもいいかもな」
「オレは嫌だ!!男にヤられてるとこ目撃されて退学なんて、そんなフェイドアウトの仕方は絶っ対ぇ嫌だァ!!…ッ んぅ…っ!」
そんなことになれば人生の汚点になると順平が喚き散らせば、黙れとばかりに唇を重ねられる。口での息継ぎもさせてもらえず、体力も理性も持っていかれそうになる濃厚な口づけ。
「っは…、…そんなに騒いだら本当に人が来るぞ…?」
「ッ…な、ら…やめて下さい、よ…!」
真田のベストを掴んで懇願するが、満足気な笑みを湛えたまま肌に触れていた手が動き回る。その何でもないような手にさえ、キスで弱められた身体では体温が一気に上昇するようにカァーっと熱くなる。
欲しくなんて、ない…こんな所で、襲われるみてぇになんて。それでも身体が…覚えてる。身体が勝手に疼く。嫌だ…こんな身体にされた自分が、嫌だ。
「やめて、という割には随分興奮してるじゃないか、…なぁ?」
「ッう…!」
真田は意地悪く笑いながら、順平の制服の上からの中心を握りこみ、考えを見透かすように煽り立てる。
「こんな所でも…嫌がっても、お前の身体は欲しがるんだな。天邪鬼な口だ」
「ッな…!誰がこんな風に ッ!?」
抗議する前に手馴れた手つきでベルトを緩め、下着ごとを一気に脱がすと、剥き出しになった性器を有無を言わさずいきなり口に含まれ、順平は机を揺らすほど身体を跳ねさせた。
「ンっ…!!あ…ッ待っ…!!」
「ッ…、ん、ふ…」
堪らず身体を起こして、攻め立てる真田の髪を手加減なく掴みあげ、髪の毛を引っ張ったが、痛みに多少顔を顰めただけで離れようとはしない。それどころか、このボクシングとトレーニング以外頭になさそうな人間が、どこで覚えたのかは知らないが、巧みな舌使いでどんどんと絶頂へと追い込んでいく。
「あっ…あっ…く…、んな…っしたら…ッ」
もう達するのが近いことを言おうと順平がハクハクと口を喘がせていると、真田はチラリと視線を合わせて目で笑う。それが合図だったのか、根元から先に向けて絞るように擦られ、先端を一気に吸い上げられる。
「ッ、うあ…ッ!!」
その刺激で簡単に果ててしまう。思い通りに操られて、まるで真田の人形だ。そう順平が悔しく思うところで、身体は快感に震え、呼吸を荒げるのを止められない。
余韻が尽きると、起こした身体は力を抜かせて、机にぐったりと沈む。そのまま薄く目を開いて、立ち上がった真田を見ると、射精した液をペロリと得意げな顔をしながら舐め取る様を見せ付けられる。
いくら処理が難しいからって、飲みやがった…と一々癇に障る行動をする真田を睨みつけると、一層笑みを深くされる。
「いい顔だ…その顔、凄く好きだ」
「…っ、これで、満足…かよ…」
「そんなわけないだろ。俺はまだスッキリしてないからな」
順平の意思などお構いなしに、まだ精液で汚れているだろう指を中に挿れる。身体が強張って、身を寄せる真田に思わずしがみ付く。
「くぅっ…ちょ、本番、やる気…っスかぁッ!?」
「当たり前だ」
「無理っ…だって…ッ!も…やめ…っ、誰か来た、ら…ッ」
「すぐ終わらせる…」
真田自身、もう我慢出来ないのか、急いたように指を増やされ掻き回される。自分の精液だけではそうすぐには解れないと順平が思うものの、連日行っていた営みによって、解す手間を減らす程度に締まりが緩みつつあるのか、案外真田の指を堪能し、盛る熱が欲しいと迎え入れる体勢に勝手に蠢いていく。
しかし、問題はそれだけではない。
「っ真田、サン…ッ!中…汚い、って…!駄目だって…!!」
「問題ない。ちゃんと避妊具をつける」
「それだけじゃ…なくて…ッ!んぅ…、やだって…言ってん、でしょ…ッ!!ッ…んあぁッ」
震える身体を暴れさせようとすると、いきなり熱い塊を捩じ込まれた。ちゃんとゴムの感触がするのでその点はまだいいとして…いや、挿れられてしまったら、もう何を言っても完全に駄目だ。一秒でも早く果ててもらう他無い。
「っ…く、…っ大人しくしろ。痛い目に遭うのは…お前だぞ」
「そ、んな…ッ、んっ…ぁくっ…ッ、…真田サ…ッ、早く…ッ」
前後の運動を激しくされ始められて、言葉が喘ぎに変わる。そのために順平の身体も揺すられて前後に動き、何とか耐えようとして机の端を必死で握る。
もう暫くは絶対性交させてやらないと、真田のことを思えば無意味に終わるだろう意思を決意した。
中を暴れられて頭が溶けそうになった頃、順平の喘ぎでも真田の呻きでも、嫌な水音でもない音が微かに響いた。
沸騰している頭ながらも順平の耳は何とか音を拾い上げた。何だ…?
コツ…コツ…コツ…
ッ!足音…!?誰か来る!!規則正しく足音が鳴り、その音は近付いてきているようで徐々に大きくなっている。順平はもう快楽どころではなくなり、身体を支えているうちの片方で、思い切り真田を叩いた。
「さッ…あっ、真田サ…ッ」
「っ…ん、何だ…順平…」
「だ、誰かぁっ…来て、る…ッ、早く、退いて…ッ」
「何…」
真田がやっと理解して、動きを止める。静まり返った中ではその音はより大きく聞こえた。
コツ…コツ…コツ…
「ほ、ほら…ッ」
「…ちッ、邪魔をするなよ。…まぁ、鍵はかけてあるし気付かれる確立は低い」
「気付かれたらどう責任を… ッ!?ま、窓…うわ、窓鍵かけてねぇッ!!」
「…お前の煩い声が一番危険だと思うんだが。というか、…もうイク。さっさと出させろ」
「今はンなこと…ッ、…っえ!?っちょ、ア…、何ッ!?」
本当に限界なのか、真田は繋がったまま順平を抱きかかえ、教卓の横の、教員用の机の脚の隙間に身体を無理に捩じ込ませた。
「ここなら窓を開けられても簡単には…」
「っだ、ダメだろッ…!もう、ホント何考えて… っあ!!ん、っちょッ!?」
順平の制止も聞かず、切羽詰った真田は狭い中で無理矢理身体を折りたたませ、小刻みに動き始める。順平が逃れようとしても抱き締める腕の拘束が解けない。
ああ、駄目だこれは。真田サンもう昇りつめることだけで一杯になってる。耳にかかる息も熱くて、余裕ねえ。これはもう出すまで止まらねぇわ…。順平の中に諦めの文字が浮かんだ。
「んんっ…!!む…ッ」
声を何とか抑えようと、順平は口元を腕で覆って必死で耐える。快楽よりも緊張でそれどころではない順平は、耳に神経を集中させていた。
心境としては、ああ…頼むから気付かずにどっか行ってくれ…!ついでに誰かこの人もどっかにやってくれ!!という思考を呪文のように繰り返し続けていた。
コツ…コツ…コ、……
…音が遠ざかっていく。たかが数秒であっただろうが、張り裂けそうな心臓を必死に抑えていた順平にとっては永遠に感じた。
う…はぁ…どっか、行った…助かったぁ……マジ、オレの学園生活終わらなくて良かった。汚点作らなくてよかったぁ…!!
心でそう叫び、安堵から全身の力を一気に抜いたときだった。
「っ、…う…ッ」
「ッ!?うわ…ッ、…ッ」
聴覚のみに集中していたために、真田の予兆などには全く気付かなかった。そこで急に腸内に精液を注がれて、さらに性器も掴みあげられてビクビクと痙攣させたが、一度出したためか、腸を突かれていたためか、射精もなしに順平も果てた。
…ま、まぁとにかく…ようやくこれで、一応解放されんのか…
呼吸を整えた真田が自身を引き抜き、ずるずると狭い教卓から抜け出した。その顔は何故か妙に満足気である。
「…中々…教室ってのも、いいもんだな」
「なっ…!二度としねぇっスからね!!独りで勝手にやって…、……あ」
「…順平?」
「ど…どーすんスか、コレぇ!?」
声を思いっきり裏返して出したが、今の順平にはもう目の前のことしか見えていなかった。何故ならこの状態に状況…
「真田サン、ゴムしてたのは!?何で中出しなんスかァ!!あーもー気持ち悪ィし、真田サンだって服汚してるし…つか、教室濡れてちゃってるしッ!!」
「…、…あー…動いたせいか…?ゴム破れてるな…、まぁお前は帰るまで我慢しろ。ベストは脱げばいいし…教室は雑巾で何とか…」
本当に眩暈がする…こんな気持ち悪ィまま帰んのオレ。アンタは病気とか考えないの?つか何、二人の液拭いた雑巾で机とか拭くわけ?洗ったとしてもオレすげぇ嫌なんだけど。
「ほら、お前も拭け」
「…もう知らねぇ…オレ帰ります…雑巾は捨てて下さいね…」
「おい、何一人で帰ろうと…」
「っ全部アンタのせいでしょーがぁッツ!!」
怒りと哀しみと恥を含んだ声で順平は叫ぶと、真田のポケットから鍵を奪い取り、リュックを引っ掴み、ドアが壊れる程に乱暴に開けると走って帰った。目尻は涙で濡れ、中学以来の本気の俊足を見せた。
「 ……明彦?」
「ッ!!み、美鶴っ!?」
真田なりに性欲が主の愛情表現だった、それが泣かせてしまうとは…、そう思いながらどこか腑に落ちないものを抱えつつ、一応は床を拭いていたのだった。
そしてまさに一生のうち三本の指には入るバッドタイミングで、生徒会長である桐条美鶴に、拭いている姿を見下ろされた。
「…何をしてるんだ?二年生の教室で…床なんて拭いて…」
「い、いやっその…、床が酷く汚れていたのが目に付いてだな…ッ、…ああ、いや、お前こそこんな時間に何して…ッ」
「私は今まで図書室で調べ物をしていて…、今済んだから、生徒会の用を片付けておこうと思ったんだが…」
「……そ、そうか…」
「……」
「……」
順平が身を清め休息している頃に、真田は美鶴と帰ってきたのだが、タルタロスに行ったときより何倍も疲労していた顔をしていたが、拭き掃除ぐらいでだらし無いと順平の好感度を下げるだけであった。
ただ、あれから一度も教室で襲われたりしなくなったため、黄金色の教室は神聖なる勉学の場所であり続け、学校生活は平穏無事に過ごせたという。
fin. 2006/11/23
2008/05/14 文章修正