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アイスキャンディを持ってニコニコとする真田サン。子供のような嬉しそうな顔と、色気の溢れるオーラが真逆なのに何故かマッチしていて、整った顔が無性に苛立つ。
こっち…って、…今度はそれ…オレの中に?
「意味…分かんねぇ…何してぇんスか…、ちょ、ホントもう…」
慣れってのは怖ぇ。自己中に振り回され過ぎると、驚きとか拒絶とかよりも、呆れとか疲れが強くなるらしい。呆れ過ぎて、もう喚けねぇ…
呆れた顔で疲れたように言葉を出したのを見て、真田サンは面食らった様な不満そうな顔をして眉を寄せる。どうせ、怯える顔が見たかったんだろう。…その顔すら不細工に見えない、むしろ整ってるとか思っちまうからムカつくんだかオレが病気なんだか…ただひたすらに溜息。
「面白くないな」
つまらなそうな顔をしながらアイスキャンディを袋から取り出している。革手袋を外した大きくてしなやかな白い指なのに、対照的にバリバリと汚らしく破いている姿は随分と不釣合いだ。
「…面白くないって…じゃあ、どうすれば良いんですかねー…!」
顔を背けつつ投げやりに言ってやる。オレは玩具じゃない、この人に比べたら確かに格が違うけど、ちゃんとヒトとして生きてるんです。多分、こういう苛立ちなんてものはきっと一ミリだって分かってない。
どうして、いつも自分のことしか考えてないのか。どうしてそれで他人に嫉妬なんて出来るのか。好きなら好きと、傷付いたなら傷付けられたと普通に言えばいい。表現がストレート過ぎるのか、逆に回りくど過ぎるのか…理解し難い。
「それ、が面白くない」
「は?」
背けていた顔を元に戻そうとすると、右手で頬を挟むように掴まれて固定された。
「お前は、可愛い顔の方が似合う」
「っへ…?」
か、可愛い?そんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。
不意打ち。つか、可愛いって…男的には嬉しくねぇ言葉だろ。そもそもオレみたいなタイプは可愛いなんて部類ですらないだろ。
真剣な顔で言われたことと台詞にポカンとしていると急に頬に当てていた手を膝に入れられて、そのまま足を折り曲げられた。慌てて顔を瞠ると、口端を上げる真田サンが視界に入る。なっ…やべぇ、完璧に受身の姿勢をとらされた…!
「き、汚ねぇ!!嵌めやがって…狡いっスよッ」
「嵌める?俺は本当のことを言っただけだぞ?いつもの可愛い順平が俺は好きだ」
「ッ!?……だ、だったら、こんな格好させないで下さいよ…ッ」
「…だが、俺は普段と違って艶やかな顔をする順平が、もっと好きなんだ」
不敵な笑顔。あー…眩暈が再発しそうだ。クラクラ、もちろん眩暈の方でしていると、突然真面目な声が上から降ってくる。
「…う、…や、その、あ゛ー…」
それ…反則だろ…ホント狡い、こういうことを素面で、本気で言うから…嫌いに、なれない…いざという時の幼稚にも聞こえる台詞は、その分裏が全く無くて直球だから、文字通りストライクとなってしまう。跳ね返すことも出来ずに注がれる愛情の言葉にただ、しどろもどろになるしかない。
「だから、お前が誰かにその顔を見せたのかと思って…すごく、辛かった」
「…んなこと…するわけないっしょ…こんだけ縛っといて…」
「順平…」
「だから、もう勘弁してくださいよ…オレだって傷付いたんスよ?オレが好きな真田サンは顔も中身も格好良い真田サンなんスから」
「駄目だ」
うわっ即答!?流れからいったら頷くだろそこは…!!どんだけ空気詠み人知らずなんだよ!!
「俺はどんな姿も格好良いだろ?」
「ど、どんだけ自分に自信あるんスか!?」
「お前にだけはそう思っていて欲しいからな」
「ッ…だ、だから…そういうの っんあッ!?」
急に冷たいものが宛がわれて、驚愕して身体を跳ねさせるのを上から押さえつけられて、更にそのまま捩るようにして中にゆっくりと侵入される。真田サンに集中してたせいで左手のアイスのことは一瞬にして忘れていた。覚えていたとしても足を取られたままじゃ逃げることも叶わないんだけど。
「つっ冷て…ッ!あ、アイ、ス挿れん、なぁ…ッ」
「格好良い俺が好きだと言うが、気持ちよくしてやる俺が一番好きなんじゃないのか?」
「ッひ…ィ!!こんな…の、…嫌、だッ」
散々湯でふやけさせられた壁はすんなりと氷菓子を受け入れて、奥まで入っていく。本当に咥えるように収縮して、冷たい棒が体温で溶けていって、ドロドロになった液体が腸に染み渡っていくのが何とも言えず気持ち悪い。
もう、ずっと我慢して、気絶していて忘れていた熱が蘇ってくる。違う、オレが欲しいのは
「凄いな…お前の熱でどんどん溶ける」
凄い速さで溶けていく感触がゾワゾワと走り、身体を震わせる。あっという間に全て溶けて、棒だけになったそれをクルクルと中で回されて身悶える。
「う゛…ッ、…真田、サン…!」
小さな刺激が凄くもどかしくて…望んでる刺激が欲しい、けど自分の口からは言えない、言いたくない、何もかも思い通りになって負けるのは、嫌だ。
「ん、どうした…?」
「…ッ」
「もっと食べたいのか?」
「っちが ッ!?」
拒絶する前に、素早く次のアイスを取り出されて、冷たい感触がまた襲う。しかも、捩じ込んできたのは一本だけじゃないらしく、さっきより圧迫感が強くて息を詰まらせる。
目の端に溶けて流れ出してきたものを捉えてしまった。始めは赤色のアイスキャンディを挿れられていたらしく、シーツが真っ赤に染まっていて、その上に今挿れられてるらしいアイスキャンディの青と黄の色がポタポタと垂れていく。自分にしてみたらその光景は羞恥を煽るものでしかなくて、唇を噛み締めた。
「綺麗だな…順平、綺麗だ…見ろ」
「やめ…、真田サ、ン…ッ、オレはこんなの…は…ッ!!」
「甘い匂いがする」
次に入っていたアイスも溶けると棒を引き抜いて、足を更に抱え上げられて、垂れ流れている溶けたアイスキャンディを舐め取られる。舌がベッタリとなぞっていくのに肌が粟立った。
「ぅあっ…あ…」
「やっぱり…甘いな。美味い」
「嫌だ、って…ッ、ホントっ…怒る、っスよ…!!」
「怒る…?何でだ」
「オレはッ…」
「ん?」
「ッ 」
なんて意地悪。どうせオレの口から言わそうとしてるんだろ。絶対言わない、意地でも言わないッ!今日だけは…オレは真田サンを見返そうと…、だからあんなに頑張った。そのアイスだって全部…!!
「もっと欲しいのか?」
「いらねっ…ッ」
「分かってるだろ?そうやってお前がムキになればなるほど…お前の思いを崩したくなること」
「お、オレのこと…嫌いなんスか…」
「何度言わせるんだ、こんなこと好きじゃなきゃするわけないだろ」
「だったら…!!」
だったら、普通に愛してくれよ、もっと優しく、もっと素直に、もっと、もっとオレを…
「…俺たちは男だ」
「っ…は?…何を、今さら…」
オレの頬を、額を撫でながら、真田サンは少し黙った。何度も見せる、余裕の顔と、悲哀の顔。そのふたつが…オレをまた困らせる。どうせだったら、嫌わせてくれればどんなに楽か…。無意識な縛りは逆に鬼畜だ。
「女よりももっと、身体で繋がらないと不安になる…もっと縛って、躾けて…俺がいないと駄目になるようにしないと…不安になる」
俺たちは普通の関係じゃないから、と言われて甘ったるいアイスの香りがするキスをされる。
何もかも自分より上なくせに、離れられることを恐怖している。本当は余裕なんて全然なくて、いつも焦っていて。馬鹿みたいだ…駄目になっていってるのは真田サンの方だ。
「…不器用過ぎっスよ、真田サン…こんな形でしか表現出来ねぇのかよ…」
「お前もそうだろ」
「オレはいつも同じっスよ…真田サンが何もしなけりゃ…」
「一度撮って見せてやりたいもんだな」
「え…何のことっスか。オレ、そんないつも変なんスか…?」
「お前が理性も何もかも吹っ飛ばして俺だけを求めているときは、本当に凄いんだけどな…愛しい言葉も沢山言ってくれるし、必死に俺を欲しがるし…」
思い出したかのように顔を緩ませて、クックッと喉を鳴らす。
オレ…最終的には、いつもほとんど意識無くなっちゃってんだけど…そ、そんなことになってんのかよ…!?
それは、ある意味何か腹が立つ…いつも一歩上な感じで。与えられる側なんだから狂わされていくのだって仕方ないじゃんか。
そんな中、今でも刺激し続けることを忘れずにいる真田サン。何でこういうところだけは抜かりないのか。そろそろ、ホントに限界になってきた…。でも、絶対口で欲しいなんて言わない。
「っ…分かってんでしょ…真田サン…」
言葉にしない代わりに真田サンの唇に強く吸い付く。早くくれ、と貪るように。上唇にも中にも歯列にも激しく訴えた。
「っん、…はっ、…順平…」
「ッンン…、真田サン…ッ」
吐く息が熱い…。中はもっと熱くて、疼いてる…冷やされたはずなのに余計にドクドクと脈打って火照ってくる。
「…言う気は、無いか。…まぁ今日は俺の負けにしといてやる。珍しいキスだからな、正気の時は」
最後がちょっと気になるけど、真田サンが妥協して許してくれるなんてホンっっトに珍しいから、いいことにしとく。切れたままだったらどうなってたか、思いたくもねえ。
棒を放って、指を挿し込むと中のアイスを掻き出される。部屋中に甘い匂いが立ち込めて、酔った気分になってくる。指を引き抜かれて、ついにずっと望んでいた熱が入ってくる。肉壁は食いつかんばかりに絡まって奥へと侵入を促した。
「く、ぅッ…」
「ッ…きつい、か?」
「ッ 、…ん゛っ…」
苦しいとかよりも待ち望み過ぎた熱に浮かされて声が上手く出ない。一気に中も欲も満たされていく。それでも横に強く首を振って意思を伝える。
「進め…るぞ?」
「っは、っは…ッ、う…あッ…!」
今度は縦に首を振ると、大きな質量が最奥へと進む。徐々に慣れてくると圧迫感が弱まり、快楽に全てを飲まれていく。ずっと我慢して、刺激だけ与えられてた分、待っていたものが入ってくると、気持ちよすぎて可笑しくなりそうで。背に必死に縋りついて、はしたなく足を絡めた。
「可愛い…順平…その顔、大好きだ…」
「…ッ、あ、んッ…、真…田、サっ…」
「…、…悪かった…順平、…信じ、られなくて…」
霞んでくる頭に真田サンの声が届く。だから、狡い…、甘く艶に濡れた声でそんな風に謝られたら怒れなくなる。
「それ、と…その顔見たら…我慢、できない…ッ」
「な、…ッ、…え…? んぅッ…!っあ、んあ…ッ」
前後の運動を激しくし始めて、内臓を引き出される感覚に、頭まで痺れて、全身が突っ張る。壁を余すとこなく擦られて嬌声を上げてしまうけど、ここまでくればもう後は狂わされていく一方だから抑えるなんて制御も出来ない。激しい動きはきついけど、真田サンを追いつめたと思ったら、何か少し嬉しくなった。
思えばいつもオレが必死に真田サンを求めてる感じだけど、真田サンも本当は必死になってる。二人とも、同じ。同じように求めてる。二人とも器用じゃないから相手を困らせることも多いけど、それは気持ちを形にしてる、そういうことだと気付くけど素直になる程どちらもまだ大人じゃないから。
「さ、真田サン…ッ、オレ…真田サンしか、っ…いらねぇ、から…、だか、ら…だからァ…ッ」
「ッ…順平」
優しくて力強い刺激に、二人して天国へと昇りつめた。最高にいい死に方って、このまま本当に天国逝くことなのかもしれない。そんなことを思いながら、脱力して息を整える。性交での昇天だったら何度でも味わいたい、熱は理性まで溶かしつくして、体力も戻らないうちに、また真田サンの身体に貪りついた。
「… ン、…んぁ〜〜…あ?」
目が覚めると元通り…というか、元より綺麗になった部屋。そこにあれだけ汚したシーツも綺麗になっていたベッドに転がっていた。
あれ…オレ…、…やっぱり覚えてない。アイスにアルコールでも入っていたんじゃないかと思うぐらい、一度達してからの記憶が抜け落ちている。確かに体力的に先に根をあげて駄目になっていくのは自分だけど、一回分しか記憶がないのはあまりにも早過ぎる。
まぁその前に散々な目に遭ったし、焦らされ過ぎたから仕方がないのかもと考えていると、ベッドの端にDVDのディスクらしきものが置いてあった。いかにも見てくれとばかりに置かれていたので、とりあえず部屋には再生機具がないから作戦室の機械をちょっと拝借する。機械には弱いが再生ぐらいなら大丈夫なはずだ。
スクリーンちょっと大きいけど、ま、見やすくていっか。さてと、コレ…か?再生。ピッ、という軽い電子音が鳴ると、数秒砂嵐のような映像の次に、部屋が映った。というか、何でオレの部屋
『真田サンっ…真田サンっ…!!あ、熱い…もっと欲しッ…もっと、してッ…ああッイイ…ッ』
ピッ!
慌てて停止ボタンを叩いた。熱い。顔がみるみる真っ赤になっていくのが自分でも分かる。
な、何だよ…今の…今のぉ!!あれ…オレ、だよな…?マジでオレ…?あんな…、あんな…、いや何でオレのあんな姿が!?
"お前が理性も何もかも吹っ飛ばして俺だけを求めているときは、本当に凄いんだけどな…愛しい言葉もたくさん言ってくれるし、必死に俺を欲しがるし…"
…マジで…撮りやがったのかよ…。怒りなのか呆れなのか、身体がぶる、と震えた。セクハラで訴えたい。
すぐに消去…!と思ったが、何か怖いもの見たさというか、妙な好奇心が少し覗かせた。何より自分だとまだ信じられなくて、恐る恐るもう一度再生ボタンに手を伸ばした。
『真田サン…ッ、もっと愛し、て…ッ!ああ…真田サンッ!中ッ中に、出して!!中…も、グチャグチャに…、して…!!』
……うわぁ……、オレ…ホントにこんな風になんだ…女みてぇ…つか、乙女じゃんこれ。なんつうか…キモっ、自分キモイ。簡単にイったら駄目だなオレ…、あー今さらだけど凄いヘコむ…。ああ…自己嫌悪…というか、こんだけメロメロになるんだったら別に四日間の頑張りいらなかったよな…考えれば考えるほど落ち込んでいく。普段いかに言葉にしないで、不器用にしているかを悟った。
こうなったら、次は絶対真田サンを壊して同じ目に遭わせてやる…!!とネガティブ思考に疲れたので違う方向に考えを逸らせて、次の目標を作った。
そしてその目標の遂行中、結局は先に壊れて、また甘い声で強請っている自分を逆に撮られてしまったという話は、それから僅か三日後のこと。
fin. 2006/12/27
2008/05/28 文章修正