PERSONA3 UNDER TEXT

Effeminate Birthday


 誕生日。別にこの世に生れ落ちた奇跡に心から感謝するということもないが、やはり高校生あたりの思春期の頃は自然と気分が高揚し、無条件で他人に祝ってもらえる日は楽しみなものである。

 伊織順平もまたその1人だった。

 例年のパターンとしては、周りにいる連中に「オレ誕生日なんだよねっ!」と祝って祝ってオーラを言動で一杯に放出し、仲の良い数名で安さとボリュームで評判なファミレスに寄って奢ってもらい、気の利いた誰かにプレゼントを頂く、というような流れである。

 しかし今年に至ってはどうやらそのパターンが崩れそうである。

 何せ、人類滅亡まであと数十日、周りは影人間だらけ、宗教モドキにどっぷりの人間がいれば、親しかった友人はいなくなる始末。

 決意を秘めたメンバーには「オレのこと祝ってくれよぅ!」なんて言えないわけで。もちろんきっと言えばそれなりの待遇をしてくれるのだろうが、ただでさえ神経が張り詰めている仲間の意識を自分に向けさすのも少々気が引ける。

 正直自分自身がそれどころじゃない状態で、いつも通り明るく振舞うのが精一杯だった。

 友近あたりは覚えててくれそうな気もするが…この雰囲気では、おめでとうの一言を貰えるだけで十分だろう。

 しかしその予想もさらに崩れることとなった。

「38.4℃      …過労による熱ってとこ?」

 朝起きようとした順平の身体にダルさと重さが襲った。起きる気配のない順平に、出かける寸前に警告をしにきたリーダーが、鍵をかけていない順平の部屋を覗いていなかったら夕方あたり、最悪影時間まで放置されていただろう。

 敏感なリーダーは様子が変なことを悟ると、寮に備え付けの救急セットを持ち出してきて、体温計を投げてよこした。

 人の身体というのは不思議なもので、ただの疲れかと思っていても、熱があると判明すると途端にダウンしてしまうものだ。さらに身体が重くなって酷い頭痛がしてくる。

 薬飲んで寝てれば治ると、うつさないためにリーダーを追い出すと、順平は頭を抱えるようにしてうずくまった。

 まさか誕生日に部屋に閉じこめられるはめになるとは考えもしなかった。

 最悪だー…昨日タルタルから帰ってきたとき、そのまま布団も被らず薄着で寝てしまったのが悪ィのかぁー?

 とりあえずモゾモゾと薬に手を伸ばす。チカチカと光る携帯に気付いて取り上げると数件メールが溜まっていた。

       あ、おめでとメール…

 見知った顔から誕生日の祝いのメールが来ていた。少し胸の重たいものが引いた気がしたが、明らかに例年に比べると…影人間か妙な宗教か。減っている気がする。

 ため息を飲み込むようにして用量用法なんか無視して薬を水で流し込む。

 ふはぁ、と間抜けに息を吐くと、とろんと温い眠りに無理に縋りよった。




      …平。順平」

 軽く揺すられて急速に順平の意識が浮上する。無理に眠りから引きずり出されたとき独特の軽い頭痛に思わず呻き声が漏れる。

 薄く目を開けると目の前には我が物顔でベッドに脚を組んで腰をかけている真田がいた。掠れた声で名前を呼んでみると、無遠慮に首の後ろに手を回され上半身を起こされる。

 何、という視線を向けるとお粥が乗ったレンゲが目の前に突き出された。

「一日中食ってないだろ。栄養摂取、だ」

 一日中?眉を寄せて辺りを確認すると、外は漆黒になっていた。その様子を見て真田が20時過ぎてると呟く。

 疲れていたとはいえ…よりによってこの日にほぼ12時間寝てしまったことにカクンと首を落とせば、真田は顔を覗きこんで唇にレンゲを押し付けてくる。

 これ…あーん、しろっての…?つかお粥…誕生日にお粥って…お粥って…

 さらに頭を落とすと、食べるのを嫌がっていると捉えたのか真田は無理矢理顎を掴んで口をこじ開けようとした。

「んがぁっ!?…ッぐ…ごほっ、熱ッあっつーーーッ!!」
「っおい、吐き出すな!沸騰してるわけじゃあるまいし…!」
「のっ、喉に直に押し込まれたら熱いってのッ!!ていうか自分で食えますから!」

 むせて吐き出したお粥が顎を伝って気持ち悪い。拭おうとした手に圧力がかかった。

 見れば真田の指が腕に絡まっていた。2度目の何、という視線を向けると真田の方に軽く引かれる。いつの間にやらお粥が入った小鍋は机に移動していた。

 ざら…と顎から頬に湿った感触がした。効果音的にはべろん、というか。

 掴まれている手と逆の方で髪を鷲掴むと、さらに強い力で腕を握られ擦り寄ってくる。

「…犬、みてぇ」
「お前に言われたくない」
「オレ、人が吐いたモン口にしようと思わないスけどー…っ、ん゛      

 順平の顔を舐め回していた真田の舌が咥内へと侵入する。順平が多少抵抗するも、元々力では敵わない熱帯びた身体ではなんの意味も無かった。

 病人とも思っていないようなディープなキスで、項に回された手は貪ろうとしているかのように力を入れて真田の方へと密着を進める。

 されるがまま…以前に強く抵抗するのも億劫なほどの身体のダルさで、絡めてくる舌にも反応しないで、ただ諦めているかのように順平の身体は脱力しきっていた。

      …熱いな、中。やっぱりまだ熱が残ってるか」

 あれだけ深く唇を重ねても真田は息を乱さず順平を覗き込んでくる。

 順平の方は肩で息をしながら男2人で誕生日に何やってんだという思いがこみ上げて、張り手というほど強くは無いが、真田の頬を押すように突いた。

 そんなことも気にせずに照れているとでも思ったのか、真田は順平の頭をよしよし、と声が聞こえるような雰囲気で撫でる。

「こんな大事な時期に風邪なんか引いて…」
「…真田サンこそ、うつるっスよ」
「お前と違ってヤワに出来てない」

 言葉さえ冷たいものだが撫でる掌は温かで優しいものだった。順平はこういう愛情に似た表現に弱い。摺り寄せるようにスッと目を細めて感触を楽しむ。

 そのうち、ぎこちなく上着の裾から手が侵入してきて、少し汗ばんだ順平の背を背骨に沿って滑らせていく。フルっと順平が震えると、その手は一度止まって、それからそろそろと引くと上着越しに今度は撫でてきた。

 珍しく真田が遠慮がちになっている、というか遠慮という言葉が真田に存在していたことに順平は驚いた。

「…何スかそれ?」
「…、…やっぱり止めておく。一応病人だろ、無茶はさせたくない」
「へぇ…なんっか不気味ー…」
「おい…大体さっきだって完全に力無くしてたろ。鳴かないのはつまらん…が」

 ふいに言葉を止め、真田は順平の全身に目を走らせて困ったような表情をした。

「今のお前…妙に      艶、が」

 ぼそりと呟くと斜め下を向いて視線を逸らす。そして密着する箇所に硬い感触。順平は呆れた視線を投げた。熱に浮かされた状態の人間を見て欲情するとはなんて古典的で本能に忠実なのだろうか。

「勃ってるんスけど…?」
「っ、仕方ないだろ」
「…元気なことで。それ、どーする気っスかァ?」
「…煩い。安心しろ、一度言った以上、手は出さない…」

 そういう間にも元気になっていく真田の熱。順平としてはセーブしようとしている真田は珍しく、面白かった。必死に目線を外して、それでも名残惜しげに背を撫でている。

 熱に浮かされた頭は思考までもショートしてしまうらしい。順平はおあずけ状態の真田を見て、不覚にも可愛らしいと思ってしまった。そしてその信号は下腹部まで伝わり…つまりは腰にきた。

「真田サン、ヤワに出来てないんスよね…だったら…風邪もらってくれないっスか…」

 普段より掠れて鼻にかかった声は確かに真田の言うとおり艶が出ていた。真田が視線を上げたと同時に肩に頭を沈め、耳元で呟く。

「オレ…身体ダルくて口でなんてしてあげられないっスから…真田サンがきて      …ぶち込んでくれないっスか…?」

 普段なら口から漏れることがないような言葉が零れ落ちる。真田の喉が上下するのを見たのと順平が倒されたのは一緒だった。

 優しすぎるキスが喉や鎖骨にされる一方で、荒々しくズボンと下着が下ろされた。思わず順平が笑う。

「っはは…やっぱ、止められねぇんじゃん。余裕無ぇ」
「っるさい…お前が悪い。嫌なら、今のうちに言え…」
「…いいっスよ…オレ、真田サンが余裕無ぇの見んの…すげぇクる」

 甘い囁きは簡単に飲み込まれて、真田の栄養剤になる。いつもより妖艶な声と姿に前戯らしい前戯もなく、枕を腰に差し込むと、片手で膝裏を押して秘所へともう一方を伸ばす。触れた肌はしっとりと手に吸い付くようだった。

 指を差し込もうとして、潤滑剤が無いことに気付く。そういえばゴムもない。

 しかし興奮状態の真田がそこで一度引くはずもなかった。一瞬流した目に机へと退かした小鍋が映る。

       …粥でも潤滑剤代わりにはなるか…?

 そう思うと同時に手は小鍋を引き寄せて、レンゲなんて構わずにとろりとした粥を指ですくっていた。暫く放置していた粥は丁度いいぐらいに温かだった。

「…っう…ぁ?」
 いきなり菊門にぬめり気が帯びて思わず下腹がひくつく。順平が視線を向けると白いものが零れて股関節に伝っていた。

 使ってたローションこんなだっけか…?それともどっちかの、か…?

 ショートした鈍い思考回路で状況を把握しようとするが答えが出る前にドロドロとしたものが押し込められる。堪らずハッと息を吸うが、壁に指で擦りつけられるいつもと違う粒のある感触に首を持ち上げると情事中とは思えないほどの素っ頓狂な声が上がる。

「っなあ゛ぁ!?ちょっ…それッ!!」
「いや…解すものがなくてな…ちゃんと後で掃除してやるから」
「だからって…ンな食いモン…っ      ぅん…ッ」

 米一粒には何かの神様が何人かいるって聞いた!バチ当たりな!いや、それ以前に常識…はもう諦めてるとこもあるけど…いやでもそれは無ぇよ!!

 順平の叫びは奥へと指が抉ることで小さい喘ぎに変わる。腰が揺らめいて微かに逃げようとするが、その動きに合わせてより深くへと侵入されて、順平は堪えきれない声を上げる。

 次第に指が1本から2本へ、そして3本へと増え、腸壁を押し広げていく。順平の声も比例して甲高く、濡れていく。

 何度もの行為で発見した他の箇所と少しだけ硬度が違う箇所。そこを的確に押しては甘い泣き声に耳を傾ける。

 こんな姿、声、普段の順平からは想像がつくだろうか。誰が知っているだろうか。その独占欲に真田はまた息を荒げる。もう既にウイルスが感染してしまったかのように。

 順平の方はというと、食べ物での性行為、ぬらつく刺激に粒の刺激まで加わって、その上前立腺まで執拗に突き上げられれば、ショートした頭からは火花が散りそうだった。

      …ひっぁ゛ッ…っだサン…ッ、真田、サンッも、も…いいから…ッ」

 首を振り、シーツに頭を擦りつけ、求めるように腕を宙に浮かせている。

「もう少し…我慢しろ…」
「ァ、無理ッ…身体っ、焼け、そ…ッ」

 ほとんど触っていない順平のモノは既に反り返って涙を零している。熱のせいか、いつも以上に汗を掻き、涎を零し、体中を赤らめ火照らせている。いくら壁が防音だとはいえ、周りを気にせず声を上げるのは本当に久々なことだった。

 …最初の余裕はどこにやら、だな。こう乱れてるのも珍しいが…本当に今日は…      

 そう笑みを零す真田の瞳も異常に欲の色を放っていた。

 指を引き抜いて、身体を前に倒して両膝裏に腕を回すと、刺激を求めて収縮を繰り返す秘所にゆっくりと自身の先端を突き入れていく。一瞬堪えるように呻いて、突き入れると、喉をひくつかせて喘いだ。

「っん、…      っああぁ…ッ」

 順平は夢中で真田の首にしがみ付いた。真田はゆっくりと奥へと進めては、腸壁を探ってから、また腰を引く。何度か繰り返すと膝を抱え直して、一気に奥まで突き上げた。

「っ      アッ…!あぁ…ふ、ア…ッ」

 圧迫感と衝撃で強制的に漏れる声は男とは思えないほどの色気を含んでいる。真田の方も粒の違和感がゾクゾクと背を震わせて、堪らずにガツガツと一心不乱に腰を突き上げた。

 性感帯を掠める度に順平は一際高い声で啼き、真田のモノをキツく咥えこむ。潤滑剤代わりにした粥が卑猥な水音をたてた。


 何度も挿入を繰り返して、次第にペースが上がっていくにつれて、真田も呻き声を漏らし始める。順平はより真田にしがみ付いて、身体を小刻みにと震わせる。爪先がピンと伸び、空を蹴る。

 もうそろそろかと、真田は目も眩むような刺激の中、順平の張り詰めた性器に指を絡ませ、動きに合わせて上下に擦り上げる。順平は身体を反らし、喉を突き出すと上げる声を大きくしていった。

「う゛、っは…ッッんぅっ、あッ…ああッッ      …!!」

 息を吸うように一番の甘い声を出して、真田の指に促されるまま欲を勢いよく吐き出し、身体を白に染めあげる。順平が果てると共に、強く閉じた菊門が真田を締め付け、急いで引き抜こうとしたものの、締め上げられる感触に思わず中に射精してしまった。しかし、順平はその感触に一度眉を顰めたものの、余韻に浸ってグッタリと身体を投げ出していた。

 まぁ、掃除するなら同じか。そう軽く考えて、数度腰を軽く揺らして全て吐き出してから自身を抜き出した。一緒に流れ出てきた液は粥が絡まっていて入れた本人もなんとも言えない表情をした。

 とりあえずシーツは洗うとして、中の処理も後で綺麗にするとして、真田は適当にその辺に落ちていたタオルで一通り順平の身体と自分の身体を簡単に拭うと、胸を大きく上下させている順平の唇や額に真田がキスを降らす。いつも以上に頬は上気していた。

 そこで真田は順平が風邪を引いていたことを思い出した。しかも栄養摂取…できたのかどうなのか。したと言えばしたのだが…できていないと言えば完全に出来ていない。

 不味いと思って別のタオル、なのか布のようなものを引っ張り出してきて汗を吸い取ると、湯を張って身体と中を綺麗にしようとベッドを立つと、掠れた小声が呼び止める。

「…今、何時、スか…?」
「ん…っと、21時半前ってとこか。寝てていいぞ」
「…どこ、行くんスか…」
「湯を張るだけだ。安心しろ、ちゃんと綺麗にする」
「湯…あー、洗面台付いてんだっけ…」

 順平は一度言葉を切ると、ジっと見つめてからシーツに顔を埋めた。

「…今日は、タルタル行かない…」
「そうだな、早く回復するために休んだほうが      
「真田サンも。真田サンも…いて…」
「俺も、か?」

 この時期さすがにできるだけ身体を鈍らせたくない、というような表情を見て順平は、さらにシーツに頭を擦りつけた。

 順平としては真田からの愛撫で今日という日を埋めようと縋りよったわけだが、自分から離れてしまった途端急激に熱が遠ざかったような気がして恋しくなってしまった。

 誕生日に結局夜に一人だけ置いてけぼりをくらうのはめになんのか…それって寂し過ぎ…

 猫のように喉を鳴らして、モゾモゾしている順平を不思議そうに見た真田は、また近付いて顔を寄せる。どうした?と。

 順平は幼い子のように首を左右に振って唸るが、「何でもないっス。やっぱいいっス」と言ってずっとシーツに顔を埋めている。

「…順平」
「ただ…ちょっと言ってみただけ、っス」

 真田は首を軽く傾げて、しかしそれよりも早く処理しないと順平の様態が悪化すると思い傍から離れた。




 オレ何してんだ…

 綺麗に清めてもらった身体を抱きながらため息をつく。皆が出て行ってからどれくらいの時間が経ったのか。時計を見ても外の様子を窺っても分かるはずも無い。

 ただ分かるのは0時にはもうなったということ。たかが誕生日、されど誕生日。最悪もしかしたら最後の誕生日になるかもしれない今日。

 …女々しいっての…

 そう思うのに物凄いガッカリ感と喪失感がどうしても胸をつく。順平にとって注目してもらえることが、愛が与えられることが何よりも満たされることだった。それは愛を削がれることを経験しているためなのか      

 瞳を閉じれば外の闇に同化するように意識も身体も沈んだ。




      …平。順平」
「!」

 揺すられて順平の身体が大きく跳ねた。目の前にはいつの間にか真田が引っ付かんばかりに寄っていた。

      え、あれ…あ、タルタル終わったんスか…?」
「ああ。まだ影時間だがな…お前の様子が変だったから急いで戻ってきた」
「…、…」

 さぁ、どうした?言ってみろ!といわんばかりに真田がありえないほどに近距離で順平と視線を絡ませる。

 順平は低く唸った後、頭を真田の肩に擦り付けた。

「あー…と、その…あ゛ー…」
「何だ」
「…た、誕生、日…だったんス…オレ…」
「!…誕生日?」
「あっいや、その…ガキみてぇなことで、すんません…ちょっとそう、思っただけっスから…ッ」

 真田の顔が一瞬歪んだことに呆れられたかと焦った順平だったが、真田はふぅと軽く息を吐くと、順平の頭を軽く撫でた。順平が好きな感触だった。

「なんで言わない…祝ってやったのに」
「…あぁ、と…今はやっぱ…オレの誕生日なんか祝ってる場合じゃないかなー、て…」
「…」

 頭に回された手がさらに真田の肩へと押し付けられる。タルタロスやシャドウ特有の何とも言えないニオイが順平の鼻をかすめた。

「お前って…急に強気になったり、変なところで気を遣ったりする奴だな」

 両腕でさらにぎゅうぎゅうと抱きしめられると、息苦しさから順平はもがいて顔を上げた。その目に映ったのはいつも以上に柔らかい目だった。

「まだ影時間だ。次の日にはなってない…、…おめでとう、順平」
「…真田サン…」
「何も用意してないからな…俺をくれてやる。朝まで抱き枕でも何でも好きなように使え」
「…プレゼント、ね…まぁ、十分っスかね」

 くしゃりと泣きそうな顔をして精一杯笑顔を作る。そして筋肉のクッションを力強く抱きしめた。

 独占できる愛情なんて自分への最高でピッタリのプレゼントだと思った。




 翌日の朝、たっぷりの睡眠と適度な運動。それの賜物なのか、順平の風邪はほぼ全快していた。まさか真田に移ったんじゃないかという心配も徒労に終わる。真田はいつも通り鬱陶しいほど元気だった。

「言っただろ、俺はヤワじゃない。ウイルス如きに俺の免疫が負けると思ってるのか」
「…わーさすが真田サンだー」

 棒読みの賛辞も真田にとっては関係ないらしい。これ見よがしに胸を張っていた。

 …ただその胸に、否、それだけでなく項や脇腹や背中に、自分が染め上げた順平印の刻印が押されているのを思うと幸せを噛み締めずにはいられなかった。

 影時間に感謝したのはこれが初めてで、そして最後かもしれない。




fin.

2008/01/23

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