PERSONA3 UNDER TEXT

影遊び


 気が付いたら可笑しなことになっていた。


 その日栄吉は悪魔とばかり戦ってクタクタに疲れた身体を久しぶりに自分の部屋で休めていた。もちろんあの恐ろしい父親に普段の格好を見られでもしたら鉄拳制裁されることは間違いないので、近くの公衆トイレで化粧も青に染めた髪も綺麗さっぱり落としていた。当然家の中でチュニックなんて着れるわけがなくて、古着の黒のTシャツにカーキ色の膝で絞りがあるだけのハーフパンツと簡単な服装を着用していた。

 その完全寛ぎ体勢で夢を見ることもなく久々のたっぷりの睡眠を貪っていた。だから遮光性のカーテンをきっちり締めた部屋じゃあ何時間寝たのかも、真夜中なのか明け方なのかも栄吉には分からない状態で、ただ気持ちよく眠っていた。

 しかし、その身体に突然胸を圧迫されるようなズシリとした重みが圧しかかってきたのだ。

「…、…う゛…ン゛ー…」

 熟睡している身では、重みや違和感に気付くのが鈍かった。暫く暗闇の中で妙な息苦しさに唸るだけだったが、そのうち身体を指のような棒が探る感触にさすがに首を左右に振ると、ゆっくりと重い瞼を持ち上げた。覚醒しきれてない脳でもやっぱり身体の上に何かが乗り掛かっている重みを感じた。あれ程戦って疲労していたのもあったし、まさか金縛りにでもあったのか、そう思って瞳を動かした。

 真っ暗でよく分からない。それでも何かが蠢いている、確実に。…まさか霊的な?そうであっても栄吉たちは悪魔と戦って、その上噂話まで仲良くする仲だ。人並み以上にその類には耐性があるから、身体を押さえられようが体重の乗っていない頭をぐっと持ち上げて目の前の物体を睨みつけてみる。

 自分に圧しかかり、身体の細部まで弄るようにゆっくりと蠢く影。押さえつける物体を跳ね除けようと身体を震わせながら、眼が闇に慣れる少しの間我慢して待った。それには大して時間は掛からなかった。

「…え?タ、タッちゃん…!?」

 目を瞬かせ再度じっくり射る様に目の前の影を見るが、やはりそこには何故だか正真正銘周防達哉が何食わぬ顔で覆い被さっていた。

 栄吉と自分自身を確かめるように手で触っては、酔ったようにトロンとした様子で猫のように擦り寄ってきて、また身体を探るように触られた。見慣れてきた暗闇の中で頭を動かす度にべっこう飴の様に艶々した髪を滑らせている。

 何故タッちゃんが此処にいるのか。しかもこの時間に。自分の上で。その上制服のままで。どうやって入り込んだのか。

 寝起きの頭にはとてもじゃないが状況を理解出来なくて、とにかく栄吉はもがきながら達哉の名前を呼んだ。それに鈍く反応してノロノロと顔を上げると伏せ目がちに顔を寄せてきて、頬…というよりは顎から目尻までをべったりと、本当にじっくりべったりと舐め上げられた。栄吉は当然驚いて覆い被さっている達哉を引き剥がそうとしてみるも、片手では肩の骨が軋むほど強く掴まれ、もう一方では顔を背けようとするのを阻止しようとしたのか髪をしっかりと掴まれて下手に動くと強い痛みが毛根からジンジンと響いた。

「ぃ゛…ッ、何す…!」
「…、髪…黒いの、綺麗だ…」

 達哉は頬を舐め終わると、元の黒髪を下ろした髪を魅せられたように見つめ、そのまま栄吉の眼と合わせるように瞳を下ろしてきた。

      !!」

 栄吉は自分を見下ろすその眼を見て驚愕した。いや、そもそも自分の上に達哉が乗っていたこと自体が異常なのだが。しかしそれよりもさらに異常だったのだ。

      まさか…お前ェ…シャドウ、か…?」


 見下ろす瞳が濁りさえ帯びているように赤く発光し、禍々しい雰囲気もどこか内在していた。もちろんそれには見覚えがある。だからこそかなり警戒心を持って声を掛けたのだが、当の達哉は口角を吊り上げて薄く笑った。

「どっちでも大差ないだろ?俺が周防達哉であることに違わない」
「いや大差あるとかないとかじゃ…、つか何で居んだよ…!?」

 確かシャドウ達哉含め、自分達のシャドウは皆倒した…いや、あれは同化したというのか、とにかくもう実体化はしないはずだった…多分。正直今この世界じゃあ理不尽に何か起きる可能性は十分あるが。

「狡いよな…お前達は。同じでありながら肉体があって…」

 言葉に殺気を感じて身を強張らせると、髪を掴んでいた手で撫でられた。それでも怪しい雰囲気は強くなってきている。身体が欲しいならタッちゃんの所に戻れ!そう言おうとしたが、言葉は唇を押し付けられて吐き出すことを阻止された。

「っん…、…っは…、…ちょっ…と、待て…ッ」
「知ってるか…?俺はいつもいつも我慢して…」
「我慢…?っん゛…      ぐ、んぁ…ふ…ッ」

 栄吉が疑問に口を開けるとそこに舌を捩じ込まれる。舌を吸われ、歯を立てられ、唇を噛み切られた。ピリっとする痛みごと吸うように、その血を啜って何度も何度も舐められて、血が止まるとまた傷を深められて啜られた。血を滴らせた赤い唇の達哉は酷く野性的で、良く言えばワイルドなのかもしれないが、シャドウ特有の雰囲気の禍々しさが猟奇的な顔を作り上げていた。

 血を舐めて美味しそうに微笑むと、シャツをたくし上げて素肌を露にした。それと同時に胸の突起に食いつかれて喉奥で潰れた悲鳴が鳴る。

「っ      ィ゛、痛っ痛い…!」
「…ずっとずっと…」

 うわ言のように呟いては肋骨辺りを爪を立てて掴んで、突起から唇を離そうとしない。甘噛みなんてものじゃなく、噛み千切りそうなほど顎に力を入れられて、あまりの痛さに栄吉は生理的に涙を浮かべながら濁った悲鳴を一瞬吐き出して、それからはずっと歯を食い縛っていた。動こうにも突起や皮膚が引き攣れて微動だに出来ない。

 唇同様、吸っては舐め、力いっぱい噛みついてはまた舐めるというのを繰り返されて、無駄に身体が強張っては弛緩するというのを繰り返されて、マウントポジションもひっくり返せないほど力が抜けてしまっていた。

 ただ胸を真っ赤に腫らしながら、切れた唇を噛み締めて苛烈な痛みに耐える姿に、達哉のシャドウはまた嬉しそうに微笑んだ。その笑みはもちろん爽やかさの欠片も無い毒々しさで、そのまま吊り上げた唇をゆっくりと動かした。

      壊したかった」


 恐ろしいほどに甘い声でそう囁くと、栄吉の細い首に食らいついて身体を押さえつけ、ハーフパンツを性急に下げた。剥き出された臀部を鷲掴みにすると何の準備もされてない秘所に親指を突き挿れた。

「っ…!や、め…」
「…いつもこの細い身体を壊さないように、傷一つ付けないように…丁寧に丁寧に抱いて…」
「…、タッ、ちゃん…」
「一度でいいからこの白い痩躯を滅茶苦茶にしてやりたくて      

 突き入れた親指で腸壁を掻き回して、入り口を無理に抉じ開けると、さらに人差し指と中指も捩じ込んだ。潤滑剤も無しに乾いた指で肉を裂いて怪我をしないわけが無い。いや、血を、怪我をさせたいのだ。フィストファックでもしようというのか、長い指を更に侵入させ、四本目までもを無理矢理挿れようとしていた。

「ァ゛、ァ゛…っぐぁ、う゛…!!」
「…でも、優しい俺が理性で抑えつけるんだ…我慢して我慢して…、我慢し続けた想いが形になって、俺がいる」
「嫌、だ…ッ、つ、やァ゛ァ…ッ」
「奪う愛だってあっていいはずなのにな?必死に求めるものに理性なんていらない、それこそがありのままの俺なのに…そうだろ?」

 我慢してた…?シャドウみたいなデカイ塊になるほど俺に対して抑えて接してたのか?

 栄吉自身、達哉の言葉に酷く動揺した。もちろん思考が途切れそうになるほど肉を貫かれて痛い。死にそうに痛い。てかマジで死ぬ。このまま何の処置もされてない状態で無理にフィストファックなんかされたらショックで死ぬ。それほど恐怖を感じていた。それでも動揺するほど達哉が秘めていたということに胸を痛めた。

「ッ…、タ…ちゃッ、うあ゛…ッ」

 今の状態じゃ会話も満足に出来ない。達哉のシャドウはこの身を性的に、それも壊すほど犯しにかかろうとしている。この家の中で、しかもシャドウじゃあ本当に何をされるか分かったもんじゃない。このまま腕まで挿入されても可笑しくない。

 とにかく会話がしたかった。悩ませるぐらいなら少しぐらい乱暴に抱いても構わない。それを伝えたい。だからとりあえず抜いてくれ、せめて和姦にしてくれ。いや、とにかく家の中は不味い。

 シャドウなら離れている分なら本人に直接危害はない、と思いっきり髪を掴みあげて渾身の力で頬に一発を入れた。下半身の痛みで腹に力が入れられないとはいえ、さすがに本気の殴打にはシャドウ達哉も多少怯んで顔を押さえて俯けた。



 その隙に突き飛ばして距離を取ろうとした。その時、突然後方から肩を押さえつけられた。ありえない方向からの力に驚いてされるがままになっていると、耳に息が吹きかかった。

「駄目だろぉ?せっかくの綺麗な顔に傷付けちゃあ…」
「ッ!!……お、俺の      ?」

 視線を横に向ければ、頬が引っ付く程傍に自分が、シャドウが笑っていた。自分のシャドウはいつも通り化粧も格好もバッチリ決めたままで、宥める様に紫の唇で目元にキスをされた。

「タッちゃんもさぁ…何殴られて怯んでんのかねぇ。頑張ってこっち側に何しに来たんだか」
「…黙れ栄吉、今からが良いところだ」
「な…何…」

 完全に置いてけぼりだ。何で自分のシャドウまでいるのか、呆気に取られて見つめると自分のシャドウは微笑んでベッドに自分も乗り込んできた。甘えるように抱きついてきて、羽交い絞めされる形になる。もちろん咄嗟に抵抗しようとしたが、シャドウ達哉が足を押さえつけたためにしっかりと拘束される形になってしまった。

「…逃げるなって。気持ちよくしてやっから…一緒に楽しもうぜ?」
「な…何で俺のシャドウがいんだよ!?」
「あァ?ペルソナと同じもんだよ。記憶や意識の狭間に棲んでる。まぁ実際現実で肉つけるのは大変だったけどよぉ…タッちゃんがどうしてもっていうから…」

 な?と栄吉のシャドウが相槌を求めると、達哉の方は余計な事は言わなくていいといった感じで顔を逸らせた。

 当たり前のように説明されても訳が分からない。というかシャドウ二人に妖しい雰囲気で捕えるように掴まれた状態で冷静に理解出来る方が難しい。

 眉間に皺を寄せて二人を睨みつけてみるも、達哉のシャドウは相変わらず不敵な顔をしているし、栄吉のシャドウは何故か艶を持った大人びた雰囲気で、二人ともこの身を犯したくて堪らないらしい。

「お前ェの代わり俺がずっとやってたんだぜぇ…?しかも人を乱暴に抱いときながら俺じゃ満足出来ないなんて酷いよなァ?」
「ん…ッ、っやめろよ…!」
「大丈夫だって。親父にバレちゃ恐ろしいもんなァ。声出しても起きないようにしといたからさ」
「何し…、っ…つか触んなッ自分のシャドウとヤるつもりなんかねェ…!!」

 暴れるのを抑えるように、耳朶を唇で咥え、舌でチロチロと舐められる。自分に性的に犯される気持ち悪さといったらない。大体シャドウ同士でかなり遊び込んだのか、手馴れている感が余計に腹立つ。

 耳に集中しているとまた達哉が後孔に突き挿れた指の動きを再開した。それどころかそのまま足を持ち上げて痛みに未だ萎えたままの性器に舌を這わせ咥えられた。

「っあ…!や、ぁ…、そ…んなの…ッ」
「暴れるなっての、そこ噛み付かれたらそれこそ死んじまうだろ」
「あ、っつ…、…っン…!?」

 羞恥に足をバタつかせて蹴り離そうとすれば、後ろからシャドウが腫れて痛む胸を摘みあげて、サービスとでもいうように耳に舌を捩じ込まれて大きく跳ねた身体はそのまま後ろにもたれ掛かってしまう。

 嫌だ嫌だと喘ぎを懸命に飲み込んで必死に首を振るが、それが余計にシャドウの、特に達哉の嗜虐心を煽ってしまったらしい。虐める為にわざわざ現れたような奴だ。栄吉の悶える顔を凝視しながら、前立腺ばかりを狙って乱暴に押し上げて、含んだものを思い切り吸い上げた。

      ンン…ッ!!ぁ、ぁぁ…」

 前後からの激しい刺激に、目を見開いてガクガクと震える栄吉にシャドウ達哉は満足そうにしながらも手を緩めることはなく責め続けた。苦痛が続いた後孔も腫れあがる胸の突起も、性器に与えられる甘美な刺激につられるように、ジンジンとした痺れがそのまま快楽に連鎖していく。

 やはりシャドウというところか、的確に弱いところ突いてくる。それに噛みつかれでもするかと思った睾丸まで唇でフワフワと咥えられたら男として勃たないわけがない。

 今まで何度か達哉と性交したことはあるが、いつまで経っても慣れないというか、お互い恥があるというか。ヤると決めたらヤるとそこは男らしくある感じなんだが、さすがに性器を躊躇なく咥えることはなかった。嫌なら無理にはして欲しくないし、性器を口に触れさせて汚させたくないと思ってしまう。お互いそんな風で、それはもちろん恥ずかしさ以上に相手を想っているからで      まさか欲求不満が溜まるなんて思いもしなかったことだが      こんな風にシャドウと分かっていても達哉がいやらしい手つきや舌つきで、されたことのないプレイをされれば過剰反応してしまう。

「ッぁ、待…っ      んあぁ!!ああっう、っく…、あ、あ…、…は、ァ」

 刺激に耐え切れず栄吉が大きく痙攣して果てれば、シャドウ達哉は射精が終わるまで強く吸い続けて快楽を伸ばそうとした。いや、どちらかといえば果てる瞬間を長く見たいのと、果てても終わりを迎えさせない強い快楽を超えた先の苦痛を味あわせたいのかもしれない。

「あ、ィああ…ちょ、まだ…ッ、…放しっ、…も」
「オイオイあんまり傷物にすんなよ?使いモンにならなくなっても関係ねェけど達哉二人とも相手すんのは勘弁だわ」
「っは…、…使い物にならなくなっても栄吉は栄吉だ。傍に置いておけばいい」
「い、いい加減にしろって…ッ、あ、…イッたばっかだぞ…休ませろ…!」
「嫌だ」

 シャドウ達哉は吐き出したばかりの濡れる性器を擦り上げ、一瞬でも休ませることを許さない。シャドウ栄吉の方はやれやれといった様子で抱きついたまま栄吉の首に頭を落とした。

 ふざけるな。呆れてるのは、被害者なのは俺だ。だが、自分のシャドウも欲の為かは知らないが何だかんだで達哉の我が儘についてきているあたり、やはり自分なのかと思ってしまう。もちろん飢えから会いに来ているシャドウ達哉も恐ろしい以上に何故か放っておけないというか、こんなにされても突き放せないんだから俺もこの重い愛に浸かってるというか。まぁ簡単に動ける状態ではないけど。



 今は何時なのだろうか。目が慣れたとはいえいまだに真っ暗でどこか空気が重い。それに比べてシャドウたちの嬉々とした様子といったらない。この先を考えるだけで瞼を閉じても開いても目の前が暗い。

 それでも、それでも受け入れてしまう自分が悪いのか。気付けなかった自分が悪いのか。考えることさえきっと無駄だ。こいつ等は答えなんて求めていない。




to be continued.

2008/11/09

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