愛玩犬A
特別課外活動部でのリーダーは色々大変なわけで。だから過度のストレスとか欲求を発散したいのは当然で、その手助けをしてくれるのが仲間というものだろう。
何も肉奴隷になれだとか、傷物にしようなんて考えているわけじゃない。忙しく人間関係が複雑な自分の為に、ちょっとだけ都合を合わせてもらって、ちょっとだけ従順になってもらって、ちょっとだけ身体を貸してくれればいい。そう、ほんのちょっとだけ。
でも、どうやら前回ほんのちょっと手伝ってもらった順平は全く、少しも納得してくれなかったようだ。
まぁ確かに、何でも言うことを聞けと、理不尽なまでの要求は普通なら聞き入れられないものだったろう。もちろん順平もあの時は行為の後で疲労感と倦怠感が酷く反論する元気もなかったから黙っていただけで、後々同じ台詞を言えば顔を歪ませ、首を横に振った。
「つか、あれレイプだからな?監視カメラがどうとか言ってっけど、それお前の犯罪記録だからな?」
「でも悦んでたくせに」
一週間ほどしてまた無断で部屋に侵入したところ、今回はしっかりと起きていた順平に前回の行為のことを含め目くじらを立てて非難された。
行為を行った日以降、今日までは必要最低限の会話だけで、こちらが話しかけても戸惑ったように相槌を打つ程度だけだった…つまりは避けられていたのだけど。それでもこちらは別段気にしていない。むしろ恐怖心がある方が都合が良いと考えて今日まで無理に近付かなかった。
そして今日、普段と変わらない調子であの時最後に強制的に取り付けた約束を守ってもらおうと足を運んだのである。…が、順平は怯えながらも負けじと威嚇するかのようにこちらを睨みつけ、例の約束をきっぱり破棄した。
「何でも聞くって言っただろ…約束を破るのか?」
「あれは脅しだろ!?尻に爪立てられた状態で断ったら絶対怪我させられるだろーが!」
「…だから約束は無効、って?」
「だから無効も何もお前が無理矢理言わせたんだろッ、つかそれ以前に好き放題してたじゃねぇか…ッ」
「じゃあ、また好き放題させて。ね…絶対悪いようにしないから」
少し自分より背が高い順平を上目でじっと見上げ、胸にそっと手を当てると、僅かにうろたえた表情をした。それでもすぐに首を横に振って身体を引き離される。
「い、嫌だっつの…!お前に好きにさせたらマジ何されるか分かんねぇし…。つか、お前ならオレなんかじゃなくても 」
「順平がいいんだって。大丈夫、酷いことはしないから」
「 …、……や、駄目だって、可笑しいって。…お前とはそんな関係になりたくねぇよ」
他の人間ではなく自分を指名されたことに何か思ったのか少し間を置いたが、それでもやっぱり首を振ってはっきりと断られた。何のために順平をターゲットにして襲ったと思っているのか。これじゃあまるで、ナンパした子をホテルに連れ込むために「先っぽだけだから、最後までしないから!」と明らかな嘘をついて必死に説得しているようじゃないか。こういうまどろっこしい事を避けたくて順平を選び、尚且つ約束を取り付けたというのに。
「……そう、素直に聞いてれば優しくしてあげたのに。じゃあ次も好きにさせてもらうから」
縋るような眼をぱっとやめて、そう宣戦布告をすると、順平は見て分かるほど身体を一気に強張らせた。ああ血の気が引くってこんな顔なんだ、などと思いながらその場は後にした。後ろから「待て」とか「おい」とか聞こえた気がするけど立ち止まってなんかやらない。
欲求不満の捌け口にするのに抵抗されては面倒くさいから約束をさせたのに、と文句を呟く一方で、次はどうしてやろうかと考えるのが少し面白かった。面倒は嫌いだけど獲物を追い詰めていく感覚は愉しい。追い詰めるなんて強行は順平以外には使えないし、などと倒錯した感情が知らず湧き上がる。順平から見れば約束を破ったことに腹を立て、それでいて面白がっているなんていう矛盾は迷惑と困惑以外の何物でもないだろうが。
まぁ理不尽さは初めからだ。それより策を考えなくてはいけない。
前のように多少嫌がられても強引に迫れば行うことは比較的容易いのだが、これから先関係を続けるためには従順にしておいた方が格段に効率が良い。それこそ犬になってくれるのが好ましい。酷いことをするつもりはなかったが、この際少々肉体的にも精神的に圧迫させて仕込んでおいた方がいいかもしれない。
可哀想だけど、何も虐待するわけじゃない。他の人物だとトラブルが起きる可能性があるのを最小限に抑えるためだ。ペルソナを複数扱える身として皆のリーダーとして平和のために、延いては順平のためにとも言えることだ。…少し、いやかなりこじ付けな感じは否めないが。
とにかく一度手は出してしまっているのだし、押せば思いの方向に倒れることも予想して始めたのだ。このまま多少強引でも進めるしかない、そう無理矢理自分に言い聞かせ、準備に取り掛かることにした。
実行したのは宣戦布告してから五日後。その間順平は常に緊張していただろう。いつ部屋に来襲されるか、いつ手を引かれるか、そりゃあもうビクビクとしていた。何でも無い風に装いながらも横目でこちらの様子を窺っていたし、タルタロスの中でも指名されないように隅っこで眼を逸らせていた。寮にいるときは出来る限りラウンジにいるという徹底振りだった。
それに引き換え、狙う側としては気楽なもので策を思いつき、その準備にかかったのはたった一日で、後はタイミングを計っていただけだった。そしてそのタイミングというが五日目で、その頃にはもう緊張の疲れが出始めたと言うか緩み始めて、いつものような無防備さに戻りつつあったので実行に移した、それだけだった。
学校からの帰り、今日は部活も生徒会の用事も、少しそそられるような頬を染めるメンバーの誘いも断って、ダラダラと何も考えていなさそうな様子で寮へと帰る順平の後ろをついていく。10メートル弱の距離を保っていたが、全く気付く様子がない。やはり大分警戒心が緩んでいる。
どのあたりがいいだろう。この距離だと丁度良いだろうか。いや、もっと近い方が…
少しワクワクした調子だったのだからもう傍から見れば完全に危ない無い人だろう。しかし、僕には感情が表情に直結しないという生まれつきの特技だか癖だかがあるので、何の支障も無い。この時ばかりは自分の顔面の神経の鈍さを褒め称えたい。音楽を聴きながら、ポケットに手を突っ込みながら、ただ10メートルほど前に順平がいるという以外全くいつも通りだ。
…何だかんだで計算していると、モノレールに乗ってしまった。さすがに白昼堂々モノレールの中で友人相手に痴漢行為なんて色々と洒落にならない。というか、変態だろう。確かにスリルがあるのも耐える様も面白そうだけど、肝心な調教が出来ないじゃないか。いや、大体混んでいようが身体弄くり回してる時点で可笑しいし気付かれないはずないじゃないか。…そうやって車両の隅でじっと確認している自分もどうかと思うけど。
で結局、寮の前まで来てしまった。まぁいい。この辺が実際時間的に丁度いいだろう。人通りは少ないし、別にじゃれる程度だし。寮の傍ら、壁と壁の隙間になっている暗い路地に連れ込むよりは普通に行く方が効率がいいだろう。
さあ準備をして、…よし。
10メートルからそっとそっと近付いて、5メートル、3メートル、気配を極力消しているとはいえ、意外と踵からペタペタと歩けば音が響かないのか気付かれないもんだ。…2メートル、1メートル
「 っぅおわ!?」
閑静な宅地に素っ頓狂な声が響いた。
それはそうだろう、突然背後からスクールシャツの下のタンクトップの裾からがばっと思い切り手を入れたのだから。
例の準備だけど、何も難しいことをしたわけじゃない。胸部辺りに山芋を塗り込めたのだ。あの野菜の山芋。もちろん自分に被害がないように使い捨てタイプの薄い手袋を装着済み。一日で済んだというのは山芋を購入して、後はせっせと擂り下ろして持ち運べるように小さな容器に詰めていただけだからだ。でも中々この山芋が厄介で、手に付いただけでも成分から酷い痒み症状が起こる。これを敏感な場所に付ければどうなるか、その状態なら色々と言うことを聞かせられるのではないか。
まぁ作戦としてはかなり荒っぽいが、とにかく山芋の痒み成分が付着すればそれでいい。恐らく症状は秒単位で表れる。学校で隣の席から苦しむ姿を頬杖をつきながら見続けるのも面白いかと思ったけれど、他人に具合が悪いと判断されて保健室なんかに連れて行かれたら厄介だ。それにすぐに効果が表れてしまうから、学校についてから誰にも悟られず服の中に手を忍ばすということ自体が中々の難度だ。だからどの辺りが良いだろうかとさっきから計算してたのだけど。
「なっ…何すんだよ!!」
「スキンシップ」
微笑を浮かべてから、手袋を脱ぎつつ前を通り過ぎて寮の扉を開けた。もう少し時間を稼がなければいけないし、出来るなら部屋まで誘導したい。そう思ってあえて無視する形をとった。…ああ良かった、さすがに帰宅部と同じ帰り、最初の帰宅のようだ。
「お前ッ…何だよこれ!!おい…!あの時のことオレは軽くトラウマになってんだぞ !!」
後ろから似つかわしくないと言うか順平にしては珍しくヒステリック染みた声を上げながら追いかけてくる。
後ろをチラッと確認すると、眉を寄せて不快そうにタンクトップの上から腕でぐいぐいと拭うように擦っていたけれど、そんなもので治まるはずがない。むしろ刺激をさらに与えることで痛痒が酷くなる一方だろうに。
そもそもそんな手を入れやすい格好なのが悪い。約束を守らないのが悪い。順平が悪い。僕が悪いと言ったら悪い。
自室に入ったところで強く腕を掴まれた。顔を見上げると、少し顎を引いた。何だろう、こう怯えつつもそれを隠そうと強がっているような顔が嗜虐心を掻き立てられる。狙っているからか、行動が一々愉しくて仕方ない。順平にしてみれば迷惑以外の何物でもないだろうけど。
「あのな、質の悪ィ悪戯も大概にしろ…ッ」
「っ 」
どうやら僕の横暴な態度に大分苛立っているようで、胸倉を荒く掴まれて、その勢いに負けて壁に強く押し付けられた。片手でリュックを乱暴に下ろし、片手でまた胸を擦っていた。もう痒みがジリジリと我慢できないほどになってるんだろう。
「お前…これ…ッ」
「…ああ、胸どう?」
「どうじゃ …痛ッ!?」
押さえられている腕の下から手を伸ばして、胸を思い切り抓り上げると喉で潰れた音を漏らしながら身体を屈み気味に後退させた。
痛む胸を押さえようとする両腕を今度は僕が掴む。振り解こうとするのを逃がさないように、それでも鬱血痕が出来るだけ残らないように。
「大人しくして…辛いんだろ?ほら、胸立ってる。服の上からでもはっきり分かる…恥ずかしくない?」
「っ…黙れよ…!お前のせいじゃねぇか…ッ、触んな…治せよぉ…!」
指摘されて恥ずかしかったのか、痛痒がジクジクと疼くのか、劣勢に立たされ続ける理不尽さにか、強気の態度から一変して軽く錯乱して口調が子供っぽくなり始めている。感情が混じりすぎて言いたいことがあるのに、胸に詰まって出ない…そんな感じだ。まあ何を言ってももう遅い。身体を洗ったってその痒みは簡単には取れないのだから。
試しに掴む順平の手ごと胸に持っていき触れさせてみる。
「布が擦れるだけでも辛い…?」
布越しに触れるだけで眉をぐっと寄せた。過敏な箇所なだけに痛痒が酷いのだろう。痒みは引っ掻き反射が起こるほど耐え難いものだし。
「治して欲しい?」
「あ、当たり前だろッ…!治るんならさっさと…」
「…約束」
「っな、何だよ…?」
「何でも言うこと聞く約束…今度こそもちろん聞くな?」
「はぁ!?なんでいっつも脅しなんだよ!そんな勝手ばっかり…」
「こっちにも事情があるんだよ。嫌なら丸一日その状態でいればいいけど」
順平はギリ、と音が届くほど歯を噛み締めた。悔しそうで、どこかもう辛いことから逃げたいと降参した風でもあった。掴まれている腕を力任せに振り解いても痒みはそれで治るわけではない。順平はそれを理解して腕に込める力を抜いて、ついでに大きく溜息を吐いた。
「…ホント何考えてんだか…、…早く治せよ」
「約束は?」
「ったく…、聞く、聞くって」
さっさと治せと言わんばかりに仕方なく、といった顔付きをしていた。とりあえず返事をしておいてこの場は済まそうという魂胆が見え見えだ。今回は仕込むための調教だというのに。
ギュッと周りの肉ごと抓ると反射的に顎を上げた。
「痛っ、痛い…!!聞くって言って…!」
「それは当然だろ、何しろ二度目の約束なんだから。いつどうするかは僕の勝手」
「い…いい加減にしねぇとマジで怒んぞ…!」
その言葉に瞳を上げた。上目遣いと言えば聞こえは良いだろうが、順平がその眼に一瞬怯んだようだから、かなり睨みが利いていたようだ。
「治すって言ってるだろ。…こっちはさ、電気を流したり殴打して昏倒させたり緊縛したり出来るんだよ。でも無暗に傷付けたくないからこうしてるの…分かる?」
「っ…、なんで…」
順平はかなり畏怖してしまったようだった。なんで…の後には自分がとか、こんな行為をとか、理不尽さに文句を零したかったのだろうがそれすらも制されて、ただ言葉を詰まらせて項垂れるのみとなった。前回はあんなに良さそうにしていたのだから割り切ってしまうか、完全に拒絶するか、どちらかにしてしまえばいいのに。その弱さが自分で自分の首を絞めているのだけど、そんな馬鹿なところも順平らしい。
幼児を抱くような優しさでその項垂れた頭を抱き、帽子の上から撫でながら耳に唇を寄せた。そして宥める口調でわざとらしく付け加えた。
「…好きだよ、順平」
そう呟くと、順平は溜息を震えさせながら吐いた。
「 、……嘘、吐くなよ」
否定された。酷く疲労したような掠れた声だった。自分より少し背が高い順平が心なしか小さく感じる。
「…オレなんか好きじゃねぇくせに…、…全然好きじゃねぇくせに…」
そう言うとようやく逃げるように身体を弱々しく捻らせた。どこか怯えているようにも感じる。
そんな悲しそうな声を出されると良心が痛む。そんなに好意を信用されていないのだろうか。それとも女性と仲良くしているのを知っているのだろうか。それでいて自分にちょっかいを出すことが許せないのだろうか。確かに動機は不純なものだけれど、自分に利得もないのに嫌いな人間に積極的に構うほど順平のように博愛の精神は僕には無い。だからこそ理解し辛いのだろうが。
「妙な遊びはやめろよ…早く…」
いや、結構本気なんだけど。何がって欲求不満的にはギリギリだ。弱った順平の頭を抱いていることすらこの間の情事を思い出してしまう。何だか身体に何も変化が起こっていない自分の方が急いてしまうようだ。早く順平を自分以上にその気にさせる必要がある。
「…はいはい。じゃあ大人しく言うことを聞いて」
順平を自分のベッドへと誘導する。掴んだまま押して押してベッドへと倒れたところを跨いでマウントポジションをとった。
突然胸に何か塗られて、脅されて、色んな感情が混ざって泣き出しそうになりつつも小さく抵抗しようとするが、治してあげるから、と言うと「…う」と漏らしてさられるがままになった。余程痒みが酷いのだろう。どの道抵抗したとしてもマウントポジションをとったし、マウントポジションをとったら暴れられても無理矢理やってしまう気でいたが。
布の上からツンと押し上げている突起を舌で突いてみる。舐められたことに驚いた順平に制止の声をかけられたが、一度最後まで事を進めているので今更感が強い。慣れずに反応を返す初々しさは可愛らしいのだけど。
もう一方を指で弄りながら、舌でベッタリと嬲る。んん、と順平は喉で声を上げ眉を寄せた。
「っ…それ、意味あん…のかっ…?」
「しっかり反応してるだろ」
痒み以前に、元々胸が過敏なのだろうか。それとも痒みという刺激はそれほどまでに快楽に直結するのだろうか。それは分からない、自分で試してないし。試したくないし。でも順平は胸だけで十分な反応を返している。
身体の異常に困惑したように胸に埋める頭を引き離そうと掴まれるが、下からではそれほどの力がない。もしかすると、ここで派手に抵抗して逃れても、また今回のようにあくどく手を回されるのではないかと悟っているのかもしれない。もぞもぞと小さく身体を捩じらせるだけだ。
弱く噛み、舐め続け布が湿気って唾液の痕が残り始めた頃、寄せる膝に硬いものが触れた。僅かに押し上げ始めている。
「何だかんだ言って…満更でもなさそうだな」
「んなわけ、な…」
「でもほら、胸だけでも案外大丈夫そう。…胸だけで達せるんじゃないの?そうしたら治すっていうのはどう?」
「そ、な…無理に決まって…っ!」
「やらずに無理だなんて分からないだろ。食わず嫌いと一緒で」
「分かるっつの!そんなとこ…弄ったことも無ェのに…っ」
「初めてでこんなになってるんだから十分だって」
爪でカリカリと先端を引っ掻くと息を詰まらせた。女性と違って乳腺が少ないから、まず性感帯ということを覚えさせて徐々に感度を上げていく必要があるはずだけど、今は痛痒の症状がある。痒みは引っ掻き反射を引き起こすし、もたらす刺激は快楽以上に理性を崩壊させ我慢出来なくなる。だから不可能ではないはずだ。本当は性器でも一緒に弄ってやれば悦楽として感じられるんだろうが、それでは調教にならない。
「もう…もうやめ…ッ」
始めは小さく呻く程度だったが、胸だけを執着に責め続けらるうちに順平はシーツに擦り付けるように頭を左右に振り、跨る僕の上着を強く掴んだ。
きっと布の上からじゃあ刺激が半減するのだろう。刺激が辛い、でも中途半端な刺激はもっと強い刺激を求めてしまってやっぱり辛い。
ああ可哀想。でも愉しい。
「っ 、あ、吸うな…っ」
「どう、イけそう?」
見上げると、ぶんぶんと首を横に振った。もう必死といった風で、先程まで反抗していたのが嘘のようにされるがままになっていた。抵抗したらしたで本当にそのままで放置される危険を恐れてかもしれないが、掴んできたということは求めているということなんだろう。
「い、イけないっ…!ほん、とに…無理だって…!胸だけじゃ…本当にっ 」
犬のようにハッハッと荒い呼吸をして苦しそうだが、さっきから弄っても腿に当たっている下肢の中心が僅かに震えるのみだ。焦らされる快楽も痛痒もこの状況も十分な興奮材料なのだろうが、決定打には繋がらないのだろう。……仕方ない。
ちょっと待って、と声をかけると手伝いの一つでもしてやろうと用意していた新しい手袋をはめ、また山芋の液体を掬った。やっぱり初めて弄るところのみで絶頂を迎えろというのは酷過ぎただろうか。もう少しこのままで悶える順平を見続けてもいいけれど、体力がここで削がれて後でぐったり、なんてのはつまらない。
「タンクトップたくし上げて」
「何 、い…嫌に決まってんだろ!怖ェからやめろって!」
「嫌…?このままでいたいなら別に構わないけど」
勃ち上がった突起を押し潰すと、視線を忙しなく動かせた後、唇をぎゅっと閉じてタンクトップの裾を掴んだ。何かされる怖さと、自分から強請る羞恥があるのだろう、掴んだまま暫く固まっていたが膝で小突いて促すと鎖骨のあたりまで躊躇しつつもそろそろと上げた。
現れた突起は果実のように赤く熟れて腫れていた。美味しそうなどとつい思ってしまって舌を伸ばしかけたが誤って口の端に成分がついてしまったら大変だ。衝動を抑えて液体を再度、たっぷりと塗りつけた。
「おい…大丈夫なんだろうな…?」
不安げな声色で聞かれる。まぁこれが痒みの原因なんだから大丈夫なわけはないんだけど、順平はなるべく胸元を見ないようにと斜め下に逸らしていたから液体の確認もしない。
「…、…っ !な、なんか…」
塗った後もそのまま同じように胸を弄っていると、効果が表れたのか身を大袈裟に捩らせた。痒みに痒みを足して効果があるのか疑問だったが、どうやら弄って過敏にさせたこともあって上手く効果が上乗せされたらしい。
「また…ッ」
「良くなった?」
「っン、ぅ !!」
ぬるぬるとした液体が付着した手袋のまま直接先端を引っ掻き、捏ねると、ぐっと身体を丸めた。布一枚あるのと無いのとでは大きく違うようだ。丸めた上半身をまたシーツに押さえつけ、指の腹で何度も擦ってやる。
抵抗ではなく、刺激に暴れ始めたが押さえる力を緩めてやらない。喉元に片手をかけ体重を乗せ、片手で執拗に弄る。順平は激しい痛痒に加え、喉を圧迫されて呼吸が満足に出来ず、掠れた悲鳴を上げた。
「っ 、い 」
「何?」
順平は首元に置く手を必死に掴み、声を絞り出す。それを悠々と見下ろして僅かに首を傾げる。酸素不足で失神させるような真似はしない、首に鬱血痕を残すこともしない、酷いことはしないが今回に限っては優しくするつもりも決してない。
もがく順平を尻目に、赤く腫れた乳首を摘んでまだ達せないのかと急かす。下肢の中心はスラックスを押し上げていたが、どうやらどれ程刺激が強くても、胸だけではまだまだ絶頂は迎えられないらしい。むしろ、強すぎる刺激でも達せないというのは快感に狂うというよりも苦痛が勝っているように見えた。そして、ついに泣き始めてしまった。
「…泣いても駄目。順平が悪いんだよ?約束を破ったりするから…」
「あ 、許 」
「初めから言うことをちゃんと聞いていれば、こんなことしなくて済んだだろ?」
「っ 」
「だから今日は、許してあげない」
愉しくて微笑む僕と対照的に、順平は顔を歪め、涙をボロボロと零し始めた。
to be continued. 2009/06/30