PERSONA3 UNDER TEXT

愛玩犬C


「脱がせて」

 順平を連れて浴室まできた僕は、顎を上げ堂々とそう命令した。対して順平は露骨に嫌そうな顔をした。



 この間の山芋責めが心身共に相当辛かったのだろう。何せ初めての挿入で散々啼かせて虐めぬいた後、洗浄の酢が沁みた痛みと疲労で最後には失神したのだから。トラウマになっていても可笑しくない、というかなったんだろう。

 まあ酷い仕打ちをしてしまったのだけど、あれ以来随分と素直に言うことを聞くようになった。と言っても、そういう欲求が起こったときにその処理をお願いする程度で、他の事に関しては今まで通りの扱いで、さほど無理をさせていない。

 行為を持ちかけるときは、さすがにまだウェルカムとはいかないようで、自尊心を捨てきれていないのか口では一応抵抗する。だが、拒否すると恐ろしいことになると分かっているから、一言二言文句を呟いた後は、身体を自ら倒し、刺激を享受し始める。

 行為としてはほとんど転がったままの順平を弄り回し、上に跨って好きに腰を動かせた。たまに加虐心が湧き上がり、無理に挿入する時もあったが、大体は自分が受け入れた。避妊具をつけているとはいえ、洗浄はしておきたいし、腸壁を解すのに慣れていない順平では時間と負担がかかってしまう。だから効率的に自分が先にトイレや風呂で準備しておいてさっさと済ませるというのが通例になっていた。

 何にせよそうした調教の結果大分、いや少しは犬らしくなってきた。けれど一つ得ると更に上を求めてしまうもので。犬になるのを拒みつつ且つただのマグロ状態、性処理には役立つがいまいち盛り上がらない。そんな状態が気になりだした。



 そんな頃、いつものようにシャドウの討伐をしていたら敵の攻撃をまともに受けてしまった。この攻撃というのがそもそも順平に向けたもので、それを咄嗟に庇った時に負った傷だった。すぐさま治癒してもらって見た目には傷は塞がったが、何となく骨に違和感があるままで、少しの間念の為怪我をした左腕を固定することにした。順平は庇われたことを気にして、心配するやら怒るやらしつつも世話を焼いてくれた。

 暫くして付きっきりの順平に何の気なしに風呂に入るついでに「一緒に入る?」と声をかけた。雑誌を読んでいた順平は一瞬硬直し、くるりと振り返ると即答で「入らねぇよ」と呆れた顔で言った。でも思い出したように腕を見て、眉を寄せた。

「…腕痛ぇの?」
「ああ痛い、動かし辛い」
「…、…しゃーねーなぁ」

 もう痛くも違和感もほとんどなかったけれどこういうのも新鮮かと話を合わせると、責任を感じているのか嫌そうにしつつも今度は溜息混じりに腰を上げた。




「服着たまま風呂に入るのか?」

 順平の性格からして気にしなさそうというか、普通なら風呂に一緒に入ることなんて気にもしないんだろうけど、弄り回した身だと精神的に色々と複雑なんだろう。まだ多少抵抗があるのか、一々行動を止める順平に無言の睨みをきかすと怖気づいて言われた通りに脱ぎ始めた。その頃にはこちらはさっさと浴室に入って湯の調整をしていた。

 座る両膝にタオルをかけているのを見て、長めのタオルを引っ張り出して腰に巻きつけていた。まだそわそわと落ち着きがない順平を膝立ちにさせると、自分も風呂用の椅子に座り、何も言わず腕を差し出した。その腕を見て溜息でも吐きたそうな渋い顔をして僕の手首を取った。

 タオルを泡立たせ、肌を擦る手付きは思ったより随分と優しかった。怪我をしていた左腕だからかふわふわと優しく、痛くないかと気遣ってくれた。何だかまだ複雑そうな顔をしながらだったけれど。

 反対の腕も同じように洗うと背中を洗い、腰にきたところで手を止めて、ちらっとこちらを見た。

「前は?」
「後ろはともかく前は片手でも洗えるだろ」
「どうせなら全部洗ってよ」

 誰のせいで腕が      と恩着せがましい言葉に順平は少し眉尻を下げて、のろのろと前に移動すると、そっと首にタオルを当てて動かし始めた。視線はずっと逸らせているというか下に落としっぱなしだ。

 胸から腹までさっと洗うと、また視線を合わせてきた。下はどうするんだという視線だろうが、何も言わずそのまま見返すと数秒戸惑った後、ほら、とタオルを手の上に乗せられた。

「洗ってくれないんだ?」
「つか逆に恥ずかしくねぇのかよ…?」
「今更?」
「…今更っつーか、余計に」
「意識したんだ?」

 タオルで覆われている下肢の中心を足で探ってみると、びくりと可愛い反応を見せたがまだ元気なようではなかった。

「なんだ…勃ってない」
「あっ…当たり前だろっ!お前の裸なんかで興奮してたまるかよッ」
「ふぅん…まぁいいや、早く綺麗にしてよ」
「綺麗にって…、おい      

 前のタオルを退けて大きく開脚すると裸なんて興味ないと言いつつも顔を赤くした。男同士でそれほど照れるものではないはずだが、行為をした後だと認識の違いから意識してしまうのだろう。困ったように視線を漂わしながら、仕方無しに前と足を洗った。下肢の中心はさっとしか洗ってくれなかったけれど。

 自分の足の間にいる犬が困惑した表情で自分の身体を清める様を見下ろす。愛撫してやりたくなるのと同時に優越感を抱く、そして加虐心が湧き上がる。先日転がして失神させた姿を思い出した。


 泡を流すために湯をかけようとする順平を止めた。せっかくだから愉しいことをしたい。というか普通は僕の裸体を見て雄犬ならば手を伸ばすところだろう。すぐにでも食べられる状態で目の前にいるというのに欲情しないのだろうか。犬ならば      、いや犬だから      

「舐めて」
「はぁ!?な、舐めて…って、せっかく洗ったのに      
「いいから早く。泡落としてよ」

 多分洗いもしない身体を口にするのはまだかなり抵抗があるだろうと、洗わせてから命令した。奉仕させることでより立場がはっきりとする。それに舐める行為は益々犬らしいし。自分がリードを持っておかなければいけない、欲しがる側だなんて思いたくはない。

「っ…、石鹸で腹壊したら責任取れよ…!」

 拒否したそうな顔だったが、言い出したら引かないとこれまでの経験で諦めたのだろう。もう自棄といった感じで言葉を吐き捨てると、手の甲にそろそろと舌を伸ばし、そのまま手首までその舌を這わせた。薄い白い泡が掬われて自分の肌がのぞく。

「うえ…苦ェ…」

 顔をぐしゃりと歪ませ、舌に乗る泡を取り除くように腕で口を擦る。それでも無理矢理順平の口に泡のついた手を擦り付けると、物凄く嫌そうな顔をした。

「っ口に入れるもんじゃねぇって!」
「早く」
「う゛…、ったく、バター犬の真似しろってか…」
「違うよ、犬は石鹸なんて舐めない」
「っ…!お前なぁ      ッ!?」

 ムッとして顔を上げた順平の股間をぐりぐりと足で刺激して、早くとまた言えば、今度は押し黙って顔だけを赤く染めていった。

 もう少し押せば流されるだろうと思い、順平の口に指を挿し込み、舌を挟むと、そのまま素直に指に舌を絡めてきた。暫く咥内を遊ぶように指で掻き回していると、足の下にある雄が同じように反応し始めていた。その勢いに流されるように、順平は自ら口に含んでいた指を掴むと腕を再度舐め始めた。ただやはり苦さがキツイのか、指の腹で泡を押しのけて現れた肌を舐めていたが。

 苦いだろうに、犬のようにハッハッと息を漏らしながら舌を這わせてくる。あんなに嫌がっていたのに、もう熱さに、行為に溺れてしまっている。苦行に性的な意味を含めて舐めだしたんだろう。

 しかし、相変わらず懸命な姿には愛おしさを覚えずにはいられない。慣れないことに下手さを隠せもしないで肌を赤くして、犬のように舌を使う様は。ベタベタに肌を舐められても嫌悪感なんて全く感じない。それは自分の命令を聞くことに優越感を感じるような、ペットや下僕に抱く感情に似ているかもしれないが。

 褒美の代わりに頭を撫でて足の指で挟んで擦り上げてやれば、肩を強張らせながら舌使いや唇を押し付ける行為を強めていく。息を荒くさせて漏らす甘い声は、こちらも興奮させる。

 熱が上がってきたのか、胸を舐め、腋や腹にまで自ら舌を伸ばしてきた。夢中になっているのは順平の方だ、何故かそれを確認して安心する。倒錯した愛情、ふとそんな言葉が浮かんだ。

「…ん、…っ」

 胸は感じることはないが脇腹から腋の下にかけては、くすぐったさに甘さが広がった。さらに脇腹に歯を立てられて、思わず背が震えた。

      っ…順平」

 震えを抑えるように順平の頭を掻き抱くと、それに反応するように瞳をくりっとこちらに向けた。

「っんう…?ここ良いのか?」
「…煩い」
      ッぐ、ぅ…!」

 嬉々として少し得意気な顔をしたことが何だか気に食わなくて、「勘違いするな、舐めさせてやってるんだ」という思いを込めて、思いきり足で踏むように擦ってやると、唇をつけたまま呻り声を上げた。

 それでも肩をヒクつかせているんだから…徹底的に調教すればどうなってしまうのか、とすら一瞬思えた。

 建物が少し離れているとはいえ寮の皆が使う風呂で、しかも関係を持っている女性達がいる中で、仲間の一人をそれも明るさが取り柄のような奴を犬のように跪かせて身体を舐めさせている。この背徳感が堪らなく気分を高揚させる。

「っ痛…おま      、っん…」

 乱暴な足での扱いに目を潤ませて睨みつけてくるのに、顎を掬って唇を合わせた。その顔に思わず下半身が疼いてしまったなんて認めたくないけれど。石鹸の味が残る舌を押し上げると、大袈裟なほど反応して逃げるように奥へと動かしたが、より貪ってその舌を追いかけた。

 唇をからかい程度に舐めたことはあったが、ちゃんとキスと言える行為は初めてのことかもしれない。順平は瞳孔を開かせて、絡まってくる舌に咄嗟に頭を引こうとしたが、膝立ちで身体を支えていたから項に手を回せば顔を両手で包めば多少仰け反る程度しか逃げられなかった。

「にが…」
「っ…お、お、お前が石鹸舐めさせるからだろぉ!?」

 順平は酷く動揺し、妙に居心地悪そうに視線を逸らせた後、回した手を退けるとタイルの壁に背をもたれさせた。

「…、…照れてる?」
「いきなりキスされたら驚くっつの!」
「今更?」
「だから…余計に、だろ」

 前にも言ったような会話をしながら壁にもたれた順平に迫りつつ、腰を挟むようにして手をついた。

「じゃあ…もっとしようか」
「…なん、で…」
「理由が欲しいの?」
「…だってお前…」
「…したくなったから。順平、してよ」

 少し意識して順平に目をやってから、一間置いてそう答えると、順平は視線を落として睫毛を僅かに震えさせた。どうしていいのか分からない幼児が顔を染め、泣きそうな表情…というのか。う、と眉尻を下げて声を漏らした後は唇を一文字に閉じてしまった。その顔が嗜虐心を煽るっていい加減学習してもいいだろうに。

「嫌なの?」
「……、…だっていつもお前が勝手に…」
「さっきは自分から積極的に舐めてきたくせに」
「なっ舐めさせたんだろ…っ」
「最初はね」
「…っ」

 困ってる困ってる。いつもマグロ状態でされるままだったし、行動を起こそうとしても勝手な動きは抑えさせて、何をするにも命令していたから。

 じっと待っても下を向いたまま動かない。朱に染まった頬に指を這わせて遊ばせると唇を戦慄かせた。見ると下肢を覆っていたタオルを少し押し上げている。慣れずに過敏な反応をする上、行為は知っているから次を期待する。

「…ねぇ、抱きたいって思う?組み敷いて泣かせたい?」
「そ、なこと…」
「好きにしてもいいよ…、…犬になるんだったら」

 眉を寄せて反抗しようと口を開いたところを壁に手をついて、嬲るように唇を舐めた。順平は肩をひくりと揺らせてまた困ったように視線を逸らせた。

 手を胸に当てると鼓動が痛そうなほどドクドクと早まっていた。少し微笑んでから、今度は順平の手を自分の胸に運んだ。

「…!、…お前でも緊張することあんのかよ」
「というより興奮、かな」
「相変わらず顔に出ねぇな…」


 そう言うと少し嬉しそうな顔して、今度は順平から唇を押しつけてきた。

「…犬になるの?」

 もう一度聞けば、突然肩を掴まれて逆に床のタイルに押し付けられる。見上げると順平は勝気そうな顔をしていて、それでいて切羽詰った様子というか、もう勢いで後ろに捩じ込みかねなかった。

「誰がなるかよ」

 掠れた声は雄々しくて、艶も含んでいた。が、それは気に食わなかった。

 頬を火照らせて、肩を震わせて懸命に舐める様の方が好きだ。余裕が無いのは良いとして、雄を曝す姿は気に食わない。やりたいのなら強請って欲しい。自分の性処理ではあるが、順平にとって自分はそうであるつもりはない。あくまでも主導権は自分になければならないのだ。そうでなくてはこの状態で興奮なんて出来ない。

 自分ひとりが盛り上がるのは嫌だけど、相手に盛り上がられると冷める、そんな感じだろうか。はっきりとは自分でも分からない。

「…じゃあ嫌」

 ぐいと圧し掛かった身体を押し戻すと、順平は面食らった顔をした。いくら標準に比べれば若干細身だとはいえ、押さえられて抵抗出来ないような身体でこのような危険な行為をするはずがない。

「マジでどっから力出してんの、お前…」

 順平がぽつりと呟いたが、その問いには微笑んで返すだけにして、シャワーの蛇口を捻った。


「次は頭洗ってよ」
「え、やめんの…?」
「だって犬にならないんだろ?」
「…、…なぁ、お前何考えてんの?どうしてぇの?」

 拗ねたような声色で後ろから聞かれる。ただの欲求不満をぶつける相手なんて答えるのはさすがに可哀想だろう。それに、何か玩具に対する愛おしさに似た感情もあるといえばある。自分の犬にならないのが気に食わないというのもそこにあるのだろう。まぁ人間の三大欲求に理性のある答えなんて見つけることが馬鹿らしいとも言えるけれど。

「お前は暇つぶしの遊びぐらいにしか思ってないだろうけどさぁ…、オレは色々いっぱいいっぱいなんだからなぁ…」

 手で顔を覆いながら疲れた様子で言われる。少し意外だった。順平は分かりやすい性格をしている割に、どこか気持ちを隠すような時がたまにある。無理に笑ったり盛り上げたり。自分にもそんな感情を向けられると思わなかった。流されるままにきていると思っていた。

「色々って?」
「だからっ…なんでこうなったのかとか、お前相手にちょっと盛っちゃったりとかすんのに…、つかお前がオレなんかに手ェ出してこなきゃ…ッ」
「へぇ…ならさっさと犬になっちゃえば楽なのに」

 椅子に座ったまま、未だ膝立ちのままの順平の股間を踏みつけた。ほんの少し硬くなっていたそれは、痛みに萎えることも無く踏む度に反応するようだった。手より足が出るのは、あくまでも立場を保ちたいから。

「っつ…!!それ…やめろって…ッ」
「要は出してないから満足してないんだろ?」
「そうじゃ、ねぇ…ッ、つか踏むなって!!」
「だってこれが好きみたいに見えるから」

 踏みつける足でそのまま何度も擦り上げてやると、順平はその踏む足を強く掴んで頭を振った。ああ泣きそう。

「やめろ…擦んな…!で、出る、から…ッ」
「いいよ、出せば?」
「ちがっ…中で…!」

 そう発した瞬間順平はしまったという顔した。その言葉の続きなんて考えるまでもないけど、もちろんその口で言うまで応じてなんかやらない。それよりも、早くもその言葉が順平の口から漏れたことが意外でもあったし、少し満足感を覚えた。自分の身体に欲情しているということが。

「…何?」
「あ…、や…」
「なあに?」
「…やり、てぇ…」
「どうやって?」
「…中、で…」
「中?挿れて欲しいの?」
「ち、違ぇよ…お前の中で…中で、……ああっもうッ!!お前に挿れてぇんだよ!ヤらせろ畜生!!」

 散々渋った末、自棄になってそう吠えた。先ほどの雄々しさよりも、子供っぽくて可愛らしい。こう強請られるのがきっと自分の好みなんだろう。何はともあれ、はっきり口にしたことには満足したので、今日のところはこちらが折れてやることにした。


 準備するからと待たせて、順平の目の前でソープを絡めた指を後孔に塗りつけ拡張していく。その様に順平は真っ赤になってお預けを食らっていた。手を伸ばそうとするのを制して、焦らされているというのに中心の熱は膨張していく。そういう意味では犬の素質が十分あるだろう。そしてそれを見て自分も熱が上がってくるのが分かる。躾ける事に倒錯した快感を覚えてしまったんじゃないだろうか。

「ほら、喰いつき過ぎ。腰落として、ここにちゃんと座って」
「っ…」

 何か言いたそうに口をもごもごとさせたが、もう限界だったのだろう。潤ませる目は請うようで、僅かに漏らす息を震わせながら従った。

 順平の首に手を回し、腰を下ろすと待っていたとばかりに背に手を回し、埋まりきってもいないのに急くように突いてきた。

「あ…!っ…勝手に動くな…」
「オレ、もう…ッ」
「…手を後ろで組んで。勝手なことするならしてやらない」

 いつも命令しないと動かないくせに、余程切羽詰っているのか腰を揺らすのを制した。順平は制されたことに捨て犬のように濡れた眼をして見つめてきた。もう限界なのだろうけど、ここで許しては調教の意味がない。腰を上げようとすると慌てて縋りついてきた。

「だっ…て…、あ…っわ、分かったから…!動かねぇから…ッ」
「あと、先にバテたらお仕置きね」
「そ、なの…!…ぅ、っ…」

 腰を動かすと命令通りに手を後ろに回したまま顔を強く肩に埋めてきた。少しでも密着してこようとする、こいつの癖だ。

 人並みの肉棒を感じながら、何が良いわけでもない、でも悪くもないこの状況を愉しむ。優越感を得られる、ただの性処理。でもどうしてもそれだけでは済まない高鳴りがある。犬も三日飼えば情が湧く、それと同じだろうか。じゃあ、その犬に胸が熱くなるのは何故か。分からない、けど、分からないままでいい。

 激しく揺らすと腰骨が痛いだろうに、何も言わずに縋り寄ってくるのが愛おしく感じて額と耳に唇を寄せて吸った。すると、惚け始めた顔をこちらに向けた。

「オレも…したい…」
「…少しなら」

 そう言った途端、唇を吸われ、顔を擦り付けるように頬や首に押し付けてきた。下手くそなんだけれど、きっとこれは技巧がどうこうというより、愛情とか行為の堪らなさとかを身体で表現しているんだろう。…何だもう、本能的には犬じゃないか。思わず笑みが零れたが夢中になっている順平には見えていないようだった。




「何でいっつもお前って上に乗んの?たまにはさぁ…」
「上から見下ろしながら犯したいから」

 何とかバテずについてこれた順平は、今度は洗い損ねた僕の髪を泡立てながら不満げにそう口にした。そして返答に「…あー」とか複雑そうな声を出して、シャンプーが眼に入らないように湯を流した。

「んでもよーオレだってたまには好きにしてぇよ」
「従うのが気持ちよくなるまで調教してあげる」

 今度はリンスに手を伸ばそうとしていた順平に腰を屈めて女性にするように繊細な手付きで顎を持ち上げ唇を重ねた。

「んんっ、…ふ、あ…」

 舌を吸い出すとビクビクと肩を揺らせて腕を強く掴まれる。その大袈裟な反応に口の端を引き上げた。

「何、キス好き…?性感帯になっちゃった?」
「お前が…お前、が…、っ…」
「僕のせいなの?順平が勝手にやらしくなってるだけでしょ」

 そうきつめに言いながらまた咥内を掻き回すと下腹あたりが波打ったようだった。あれだけ泣かせて搾りとってやったのに、意外と性欲がある。

「まだ大丈夫そうだな」
「もう出ねぇのにお前が弄るから…、つか上手すぎだっつーの」
「上手いというより順平が意識するから過敏になってるんだろ。キスって好きじゃないと興奮しないし」

 また顔を赤らめ始めた順平にそう言うと、目を伏せて消え入りそうな声を出した。

「だって…嬉し…から」

 そんな言葉が出てくるなんて思いもしなかったから驚いた。快楽を楽しみこそすれ、勝手な自分に好意を持つなんて。驚いた自分をそのままに順平は相変わらず小さな声で照れくさそうに、でもどこか哀しげに続けた。

「初めは玩具みたいにしか…、…こんな風に一杯になるキスされっと愛されてるみてぇで…そういう錯覚起こして…嬉しくなる」
「錯覚なの?」
「っだって、…犬は…違うだろ?」
「…どうだと思う?」

 そう首を傾げて、今度は唇を覆うほど貪った。喘ぎさえも飲み込みながら再度元気を取り戻し始めた下半身の中心に手を伸ばすと、疑惑の顔もすぐに綻び背に手を強く回された。




to be continued.

2009/07/30

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