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PERSONA3 UNDER TEXT

瞳に映る狂気


「……っ、っイ…」

 目を覚ますと同時に腹痛に襲われ、反射的に身体を丸める。

 痛ってぇ…、何だ?腹が物凄く痛い。それに、何だ、当たる背中が冷たくて硬い。

「あ…?どこだ、ここ」

 見慣れない景色に上半身を起こすと鳩尾の辺りを抉るような痛みが走ったが、なんとか堪えて周りを見渡してみる。

 床に寝てたみたいだ。それに周りに…サンドバッグ…縄跳び…リング…?

 ここ…って…



「…何だ、もう起きたのか」

 深く鳩尾に入れたのに意外にタフだな、と呟くと無表情で部屋に入ってきて、後ろ手で鍵を閉めた。

「え…真田サン…?…、…あッ」

 突然現れた人物に驚く。いや、見るからにこの部屋はボクシング部の練習場なのだろうが、何故自分はこんな所にいるのか。思考を巡らせて腹の痛みにすぐに思い出した。

 放課後になり帰ろうとした時に、不意に真田に呼び止められたのだ      




「あぁ、真田サン。何スか?」
「いや…その、な…、…」

 真田はその何というか、妙だった。声を掛けてきておいて、見つめ返すと目を逸らし、何か言葉を出そうとしては飲み込むことを繰り返していた。

「真田サン?……っお、あれリーダーと友近じゃん。最近仲良いよなぁアイツら」

 真田の様子を不思議がっていると、その後方にリーダーと友近が仲良く歩いているのが見えた。

 あの二人、ここ最近で随分と仲が良くなった。強固な信頼関係、といえば聞こえはいいのだけれど、放課後になっては二人でこそこそとしているのが何だか何とも言えない感じなのだ。

「…羨ましいのか?」
「え?いやいや、ないっスよ。アイツら極端に仲良過ぎるっていうか…前に友近が手作りのチョーカー渡したらしいし…、接し方がなんつうか…ちょい危ないっスよねぇ」
「危ない?」
「あー…ほら、ホモ?つうか…ま、似たような行動してるってだけっスけど」
「…ホモ…」

 男同士の友情をはやし立てる気は無い。だからちょっとからかい気味に笑い話にしただけだった。真田は見た目には変化が無いように見えたから、そのまま話を続けた。

「正直、ホモはねぇよなぁー。うん」
「…、…そうなのか?」
「そりゃ、そうっしょ。レズならまだ分かる気するんスけどねぇ…見た目的にも綺麗っぽいし。けど、男同士はありえないっしょー。ムサイっつうか、ゴツゴツっていうか」

 ねぇ?と笑ってみるも、真田は難しい顔をして俯いたあと、そのまま複雑そうな顔でお前は、と続けた。

「…お前はそうなる…とか、考えたことはないのか…?こう、ホモとかじゃなくて漠然と…」
「えぇ!?オレみたいなのは無いでしょ。つうか、男同士なんて考えらんねぇし…実際引きますよ、気持ち悪ィ」
      !…っ、…」
「真田サンだって無いっしょ?なんせボクシングっていう漢のスポーツしてるし。ンなの外道っしょ?大体あんなレベルの高い女性陣が寮にいるわけだし」
「……」
「ね、真田サン。……?真田サン?どうしたんスか、急に黙って…」

 次の行動は予測出来なかったし、予測出来たとしても防ぐことなんて出来なかったと思う。

「え…?何……      ッ!?」

 俯いて急に黙り込んだと思った真田は、顔を上げた瞬間肩を強く掴み、間髪入れずに鳩尾に重く強い衝撃がきて、声を上げることも出来ずにぐらりと視界が揺れる。その後ブツリと全てが途切れた。




 そして話は最初に戻る。

「そか…殴られて気ィ失って……、真田サン、どーいう…ッつ!」

 声を上げると殴られた腹に響いて痛む。普段は装備しているとはいえタルタロスで鍛えているのに一発で気を失うなんてよっぽど強く殴られたってことだ、しかも急所に。何せ無敗のボクシング部主将だ。

「此処には誰も来ないようにした。まぁ、俺が管理しているからな」

 確かに真田なら使いたい放題だ。主将の職権濫用じゃないかとも思うが。それよりも何故こんなことになっているのか全く理解出来ない。何故か真田は酷く冷たく、そして深く怒っているような気がする。

「俺の言っている意味が分かるか?」
「…オレにはさっぱり分かんねぇスけど…」
「なら…分からせてやるよ」

 普段、肩に担ぎ続けているブレザーを手から離して地面に落とすと、ゆっくりと歩み寄ってきて乱暴に顎を掴まれる。そして…

「…っん、…!?」

 唇が触れる。それだけの…キス。ただ、ありえないキス。いや、キスなのかどうかも驚愕して判別出来ない。

 …え?…は!?何だよ、コレ。

 一瞬僅かに唇が離れると、先程のは確認用だったとでも言いたげに、今度は押し付けるような濃厚なキス。

「…ッ、んん…、む…ッ!」

 ちょ…何なんだよ、この展開!?今オレ…キスされてる?真田サンに?男の真田サンに!?

 冗談じゃないと酷く混乱して腕で必死に押し返すが、ただでさえ殴られて力が落ちているのに、ディープなキスで更に力が抜けていく。

 何だよ…!怖ぇ、気持ち悪ィ、訳が分からねぇ。

 こんな状況も、真田と性的なことが繋がらないことも、気持ち悪い。とにかく敵わないとしても、されるままでいるわけにはいかない。何とかしなければいけないと思ったとき、舌が歯を割り裂いて、無遠慮に侵入してきた。他人の体液とか一部が中に入ってきた不快感に戦慄した。

 …ッ!!やめろ…!!

      っつ…!!」
「…っ、ハァハァハァ…ッ」

 咄嗟に侵入してきた舌にカリリと歯を立てた。突然の攻撃に離れた隙に、上手く動かない身体を腕を支えにして、僅かに後方に下がる。その腕も力を入れる度にガクンと崩れてしまう。

 …ヤベェ、オレ震えてる。

 顔を上げると真田サンの口から、というか舌から噛み切ったせいで少量の血が流れている。眉を一瞬寄せ、口を押さえたが、血を拭うとすぐこちらを睨みつけてきた。

「ちッ……、大人しくしてろ。また痛い目を見たいのか」

 自分が知っている真田とは思えないほど目が鋭く怖かった。シャドウと向かい合ったときよりももっと危機感が増したような感じで、傍にいると絶対に不味いと本能が告げている。

「ど…どういうことスか…、…っ何の冗談スか…ッ」
「…冗談?俺は本気だ」

 せっかく懸命に距離を遠ざけたのに、一瞬で間合いを詰められて胸倉を掴まれ、冷たい床に押し付けられて組み伏せられた。

「な、真田サン…!?お、オレ…男っスよ…ッ、こんなこと…可笑しいっスよ!!」

 ガツッ、と鈍い音がした。叫んだ瞬間顔が横に向く。

「ッが、…ッ」

 頬が熱い、痛い。手加減なく殴られる。痛みにもだが、殴られたことにショックを受けた。

「…気持ち悪いんだったな、男同士は。実際どんなものかやってみようじゃないか」
「…ッぐ…、何言って…真田サン、マジで…、オレ相手に…!?」

 一体何でこんなことになっているのか理解できない。とにかくこの状況から、狂った真田から逃げ出したい、そんな思いで殴られて弱った身体を滅茶苦茶に暴れさせて、自分でも煩い程に喚いた。そんな暴れる自分を鬱陶しげに、濁ったような目で見下ろされる。

「…大人しくしないと痛い目を見ると忠告したはずだぞ」
「っ…!」

 そう脅されるとボタンなど全く気にせず、乱暴に服を引き裂かれて首に顔を埋められる。

 真田の舌がナメクジのようにべったりと首を這う。くすぐったい以上に、舌のヌルヌルとザラザラした感触が酷く気持ち悪い。怖いという意識も、与えられる不快感に我慢が出来なかった。

「っく…!」
「真田サン…ッ、やめ…、い、今ならまだ…なしに出来る…ッ」

 咄嗟に真田の髪の毛を掴み、引っ張って引き離しながら、必死に頼む。掴む手に汗が噴き出してくる気がした。極度の緊張状態にあるのが、ドクドクと打つ心臓で分かる。

 頼むから、やめてくれ、やめてくれ…

「…、…離せ」
「離したら…やめてくれるんスか…?」
「……いいから離せ、順平」
「…っ、…真田サン…、…ホントに…絶対ぇ…やめて、下さいよ…」

 真田の声に畏怖して、恐る恐る手を離すと、真田も上半身を起こした。それに少し安堵して緊張で全身に入れていた力が抜ける。

 しかし、真田は全身を未だ退けようとはせず、起こした上半身を自分の上方に伸ばした。まるで何かを取ろうとしているような…

「ッ      !!ン、ぐ…、…ッ!?」

 黒い紐のようなもの一瞬が見え、確認する前に首に冷えた感触がして、何事かと身体を動かすと突然首が思いっきり絞まった。驚愕して真田を見ると、手には先程転がっているのを確認した鍛えるための縄跳びが握られていた。慌てて抵抗しようとすると、真田の腕に力が込められ冗談では済まない力でギリギリと絞め上げられる。

「…が、っぐぅ…ッッ!!」
「…っ、……気持ち良いか?」

 見開いた瞳には、目を血ばらせて口元を吊り上げている真田が映る。

 狂っている。怖い。殺される。

 縄を夢中で解こうとしたが、喉にしっかりと食い込んでいて指を入れる隙間がない。緩めることが全く出来ずに、苦しみのあまり、もがくように紐が絡みつく喉を引っ掻く。

 纏まらなくなってきた思考で何とかしようと、震える手で絞め上げている真田の手を掴んでも力は緩まることがない。流れを塞き止められた血液が脳に集まって、顔が異常に熱くなる。耳鳴りがキンキンと警報のように鳴り響き、視界が白く霞んでいく。酸素を全く吸えずに喘ぐ声はゾンビの呻きのように濁って掠れていた。涎が口から流れても拭うなんてことに考えが向かない。

 本当に意識が遠のいてきた。

 ……死ぬ。そう思った瞬間、急に絞まっている力が緩んだ。

「…、…ッ、…ッは、ぁ゛!……っ、っゴホ…かは…っ」
「…お前なんか簡単に殺せるんだぜ…?」

 シャドウみたいにな、と吐き捨てるように言われると、噎せ返り自分の意思と全く繋がっていない身体を押さえ、行為を再開される。

 胸が痛むほど酸素を取り込んで、身体全部で呼吸をすると、今度は暫く身体がぐったりとして動くことが不可能になった。余計な思考は全部削ぎ落とされる。

 ただただショックで、信頼とか何もかもが崩れていく気がした。


 コイツは真田サンじゃない。

 コイツはオレの知ってる真田サンじゃない。




to be continued.

2006/10/28
2008/05/10 タイトル・文章修正

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