PERSONA3 UNDER TEXT

Gun Lesson B


 いやもう…ホント…野獣っスよ。野獣。

 あの恐怖の『真田的セオリー』の宣言通り、あっさり喰われました。オレのバックヴァージン。もちろんあんだけ嫌だったお口でのご奉仕も込みで…

 いやっだって滅茶苦茶汚ねぇんだぜ!?宣言日から数日空いてたからさぁ、もう用意万端なわけ。ちゃっかり、ゴムとか潤滑剤とか麻縄とか揃えてあってよ、部室とかも貸切にしてんの。ほら、部長サンだし。

 絶対ぇ逃がさねぇって感じでさぁ…マジ怖かった。何か召喚器ずっと持ってるし。

 意識とかかなりブっ飛んだんだぜ?もう朦朧としてるオレに咥えろっつーわけよ。嫌がっても召喚器突っ込まれて、もう無理やり咥えさせようとすんの。もうしゃーねーじゃん?…で泣く泣くっつーわけでさぁ…1回ヤるとかなり抵抗薄れたけどよぉ。

 あえて自分からは無理やり捩じ込まねぇあの鬼畜さにはさすがのオレも参ったね。お手上げ侍よ。泣いても縋っても許してくんねぇし…しかも命令する声とかンと甘ったりぃんだよ。耳元で言われりゃ女の子じゃなくてもアウトだな。言ってること、変態台詞ばっかだったけど。あ、でもキメるとこキメるとこでオレの名前呼ぶんだよ、そのハニーボイスで。アレには計算を感じたね。

 ンでも本人曰く男に興味ないらしいんだよ。なんか特別なんだと。お前面白いっつってさ…いや玩具扱いかよって全然嬉しくねぇけどよ。とにかくそんなこんなでぺロリと美味しく…かしんねぇけど頂かれちゃったんだよなぁ…

 あーでもその後、最悪だったぜ。掃除させられたんだよ、そーじ。神聖な練習場なんだぞとか言われてさ。アンタが連れてきたんだろ、とか言えねぇし…窓とか開けて換気して、モップかけてさぁ…アレはちょい惨めだったな…

 あ?オレ?いや…その…ぶっちゃけ、ものすげぇ気持ち良かったっス。

 女の子だけだと思ってたんだけどさ、生理的な涙?こう、テッペンきたーっつーか、もうヤベェ耐えらんねぇと思ったときに出るもんなんだなー。そんぐらい良かった。腰痛ぇけど、なんかじっくりされたせいで痔にはなってねぇみてぇだし。まぁ、不思議と嫌悪感湧いてねぇんだよ。ああヤられちまったなーとは思うけど吹っ切れるっつーか、別にホモとかゲイだとか思わねぇし。気持ち良かったからまぁイイじゃんってな。オレが前向きなだけかもしんねーけど。

 ただなぁ…それ以降がなぁ…

 気持ち良いんだけどさぁ、たまに変な要求してくんだよ。こないだなんか革っぽいので全身拘束されたしな…アレはさすがに変態だと思うぜ。オレ何ヤってんだってちょっとヘコんだかんな。ああいうのはパスだな。

 あと、オレもたまには上やりてぇっつっても聞いてくんねぇんだよなぁ。その選択肢は俺には存在しないみてぇな?お前何言ってんだって顔すんの。だって真田サンの中では世界の中心自分だから。自分が主導権握って遊んでるっていうのがイイらしいんだなーコレが。まぁ、力じゃ絶対ぇ勝てねぇし?本気で頼みこんだときは、かなり不満そうな顔したけど1回だけヤらせてくれたな。条件付で。これで脱・童貞よオレも。その後キツかったけどな…酷ぇよな自分のときだけ条件付きで倍返しで苛めんなんてよぉ…

 とにかくこーゆーわけでさぁ、今の悩みはあのドSぶりなわけよ…オレが苦しんでるときとか理性無くしかけて必死でお願いすっとさ、ものっ凄ぇ嬉しそうな顔すんだよ…で、オレもドMなわけじゃねぇからさ、結構限界まで焦らされるのキツいんだよなぁ。かなりの率でイク寸前で根元掴むんだぜ?それで言わせようとすんの。最近なんてかなり卑猥な…ハズいこと言わせようとすんだよっ!もうそん時の顔、ムッカつくんだよ…ッオレもプライド低いわけじゃねぇから我慢すんだけど…

 そのせいで最近…なんか出さなくてもイけるようになっちまったんだよな…いわゆるドライオーガズムっての?そりゃ出すのと比べると絶頂感みてぇなの全然違ぇけどさ、それで1回すんのに何回もイくようになってよぉ…変態に仕込まれていくのが今かなりオレの中で切実な問題なわけよ…




      っつーわけで加減してくださいよ」
「お前が鍛えろ」

 出た、自己中。即答も即答、1秒もかかってませんよ真田サン。うん、慣れてるっスけどね。

 休日。カウンター前。順平と真田はラウンジで、もはや定位置の椅子に横並びで座っていた。

 順平は真田の方を向き、椅子の上にちょこんと正座をし腕を膝に乗せ『問題のドSぶり・変態調教・e.t.c.…』について話し合いを持とうとしたところ、1秒もかからず話し合いは打ち切られた。

 予想はしてたけどよ…鍛えろはねぇだろーよ。つか鍛えろって何。どーしろっての。

 大きく溜息を漏らし、順平は脱力するように、いつもの前かがみの楽な姿勢に崩れるように座り直した。真田はボクシングのグローブを丁寧に磨き続けていた。

 せめてこっち向いて返事しろよテメェ!という気持ちを込めて、それでも怖いのでかなり怒気は少なめに、服の袖をチョイチョイ引っ張りながら「ね、真田サン真田サン」と呼んでも「あー」とか「んー」などと空返事をするだけでせっせっと手を動かしていた。グローブの次は召喚器を磨きだしていた。

 順平は自分の瞳にはもう『完璧な先輩』としては欠片も映らない真田を見つめて、また1つ大きく溜息を吐いた。

 今の状況はセフレっつーより性奴隷…に近ぇ…よな、うん、ここはハッキリ真田サンが怯むぐれぇのパンチ効いたのを言わねぇと…そう思い直して、順平は大きく息を吸った。

「あの…真田サン」
「んー…」
「…オレ…オレって何なんスか?」
「…何?」
「だからオレ」
「何って…俺のものだろ」

 …聞きましたか、今の。『俺のもの』だって。『俺の』『もの』だって。真田サンの所有物ですか、オレは。躊躇いも無く、当たり前のように言いやがったよ。

 がっくりと頭を落とすが、すぐ頭を振って気を取り直す。ここで退いたらいつもと同じだ。パンチをぶっ放すんだオレ!!負けるなオレ!!

「…いいスか真田サン。今日はハッキリ言いますよ…、オレは…オレはね…オレは真田サンの玩具じゃねぇしっ、たまにはオレだって突っ込みてぇしっ、変態プレイして楽しんでんの真田サンだけだしっ、つか体力的に割りに合ってねぇしっ、気持ちイイすよそりゃ、メチャメチャっ!ンでも最後はワケわかんねーしっ、限界まで苛めるしっ、変態に仕込まれたオレのこれからはどー責任とってくれるんスかっ!?女の子相手に何回もドライでイけっつーんスかっ?!いいスか、大体世界は真田サン軸にしてないっスからっ、世界の中心はアンタじゃねぇからッ!!てかっだからっだから…っフェアじゃねぇッ!!」

 言っているうちに熱が出て、思わず立ち上がって発作のように順平が叫ぶと、さすがに真田も唖然として手の動きを止め順平を見つめていた。

 肩を4、5回上下させ、徐々に冷静になってきた順平は、ほぼパンチが自分に返ってきたように感じて弱々しく椅子に座った。逆に真田は徐々に顔を歪めて不満気といった様子になると、順平の方に足を組んだ状態で体ごと向いた。そしてゆっくりと口を開いた。

「…フェアじゃない?…」

 どうやらあれだけ訴えたのにも関わらず真田が引っ掛かったのは最後の「フェアじゃない」という発言のみらしかった。いかにも聞き捨てならないといった様子で不満に不満を返してきた。あれだけ言っても世界の中心は真田本人らしい。

「そもそも…お前は俺のものだろ。遊ぶのは勝手だ」
「いや違うっスよ。どっからその発想がワくんスか」
「拾い主は俺だ」
「…は?」
「落し物を拾ったのは俺だ。拾い主は落し主から分け前を何割か貰うだろ。それに時期が過ぎれば拾った者が持ち主になることもある」

 自信満々に、知らないのかと見下したように、堂々と真田は言ってのけた。どうやら一応真田の中では      

『コンビニで落し物を見つけた。それは順平という後輩だった。シャドウを倒すついでに適応者だし、面白そうだから拾っておいた。俺が拾った。俺のもの』という式が成立しているらしい。テストの度に余裕で上位を取っている人間とは思えない思考である。やはり記憶力と思考力は別物なのだろう。

 …会話にならない。薄々は予感していたものの、何か妙な敗北感というか脱力感を順平は抱いた。落とした頭はテーブルに押し付けられ、引いた椅子との距離でお尻が突き出した状態で座りもたれているような、だらしない体勢に崩れた。

 知的なところもあるくせに、何故会話にならないのか…これは真田と深く接して初めて分かることだが真田は常に物事が自分視点であり、自分の意見が絶対的なところがあるので融通が利かない。こちらが怒っていた場合でも何に対して怒っているか、また何故怒るのかが理解し辛いのだ。

 特に順平に対しては何でも力で捩じ伏せられると思っている節がある。本気で怒られても去って行こうとされても腕を掴めば引き留められるのだ。焦りや不安は力が対等か、劣る場合のみ通じるものなのである。また順平は流されやすい性でもあるので自分なら簡単に縛り付けておくことができると自負してしまっているのだ。

 しかし逆に真田を怒らせてしまった時にはとんでもないことになる。怒りにまかせて殴りかかられるのはまだマシで、無言になり去って行こうものなら止める術がない。上下関係は無意識のうちにかなり出来上がってしまっていた。

 パンチを効かせるどころかもはやカウンターを喰らい、フラついて足にキている状態の順平にさらに真田は言葉を続ける。

「気持ち良いのなら問題ないだろ別に。俺が楽しむように、お前も良い思いをしてるだろ、どこがフェアじゃないんだ」
「…だから…オレの得してる部分ってのが10だとすんでしょ?したら真田サンは100ぐれぇの感じなの。明らかペース握ってる真田サンの方が得なわけスよ」
「分からんな。あんなに意識も理性も飛ばしておいて10なんてことはないだろ」
「…ああもうっ…だからぁ…っオレがドMだったらフェアでいいスよ。ンでもオレは違ぇの。オレだって攻めたいときもあるし、泣かせてみてぇときもある。女の子みてぇに胸ときめかせて次すること待ってるばっかじゃないんスよ」
「俺に受けろと言うのか?…それに、さっきからMじゃないとか言ってるが…軽い縛りとかだとお前興奮してるぞ。確かに痛みや度が過ぎる程のことは萎えてるみたいだがな」
「な…して、してねぇっスよ!真田サンが喜んでるだけじゃないっスか!」
「俺はもどかしそうに悶えてる姿に興奮してるんだ。動けなくする分には自分の手で十分だしな」
「…ほら出たよSが。マウントポジション絶対ぇ取らしてくんねぇもんなぁ…」
「だから何でお前が攻めるのかが分からん…、…ああ、そうか。わかった。つまりお前がマゾヒストになれば問題無いわけだ」
「は?」
「任せろ。ちゃんと仕込んでやる。というか何故あれだけやって身体が覚えないのか…物覚えが悪いのは頭だけじゃないんだな、全く。まぁ、安心しろ。縛って欲しいと言わせるまでちゃんと躾けてやる」

 新しい目標が出来たことに真田は楽しそうに微笑む。そして順平も口角を吊り上げる。痙攣で。

 もう、アレだ…真田サンの頭にはオレが攻めなんてことは太陽が西から昇るとかいうのと同じなんだよ多分。オレが上になる時はきっと騎乗位とかの展開なんだ。オレが真田サンに突っ込む時は嫌々条件付か、気絶させて無理やりとかしかねぇんだよ。ンでもし無理やりしようもんなら自分のこと棚に上げて、後でそりゃぁもうガチで腰ガタガタにされんだろーなぁ…骨盤ずれるってぐれぇにさ。いや、つか和解しても条件付だから一緒か。泣いてお願いしたところできっと喜ぶだけなんだろうなぁ…苦しくてお願いしてんのに逆効果ってどーいうことよソレ。

 半分意識が飛び掛っている間に、真田は椅子ごとズリズリと寄せて、テーブルに突っ伏している順平の耳に唇を近づけた。そしてあのハニーボイスで意地悪く呟く。

「お前がそういう話をするから…ヤりたくなってきた…順平」

 名前を呼ぶことも忘れずに。やはり順平はその声に大きく反応して、だらけた姿勢からピンと腰を伸ばした。

「オレ…今、身体…調子悪い…、…それに人来る…かも…」
「知ってる。だから、無茶はしない」

 順平の後ろ首に手を当てて、真田の方へ傾けながら、また耳元で呟く。

「身体貸せ…順平」

 ガックリと順平の頭が落ち、真田の肩へともたれた。真田の一発は簡単に順平をK.O.させた。



 召喚器が視界に入る。やはり痺れが走る。腰に熱が帯びる。

 真田の手に覆われている黒い布。ぴったりとしたそれが真田の長く逞しい指を形成している。その指に握られている召喚器を見るだけで順平は興奮するのを自覚していた。

 順平は腰に熱が帯びると同時に腹が疼く気がした。その箇所に昨夜のタルタロスでかなり大怪我を負ったためである。このまま死ぬんじゃないかと思うぐらい急速に身体から力が抜け視界がボヤけた。仲間が叫ぶ声も遥か遠くに聞こえた。熱い血が大量に流れ、ドクドクと脈打つ感覚に激しい痛みを覚え、その痛みを通り越すと何も感じなくなり、ただ強い寒さだけが襲った状態だった。

 すぐに治癒されたため、大事には至らず切り傷のようなものが残っているだけだったが、それほどの重症だったので、身体が治癒についていかず激しい怠さが残り、身体が本調子ではなかった。

 そのことを考慮してか、こういう雰囲気の場合、真田は押し倒すか部屋に連れ込むかするのだが、今日は比較的大人しく椅子に座ったまま磨き上げた召喚器で身体をなぞることを繰り返していた。

 そのうち押さえた順平の後頭部をさらに引き寄せ、額に口付け、耳朶を甘噛みし、舐め上げ、首の筋に舌を這わせた。身体をなぞっていた召喚器は疼く腹に移動し、腰、そして布越しではあるが、熱い中心に押し当てられ愛撫された。

 頭を肩に押し付け、目を瞑り、声を殺すように唇を噛み締めていた順平だが、次第に召喚器の硬い刺激にもどかしくなり弱々しく真田の名前を呼ぶ。しかし真田は順平の方に顔を向けると一瞬眉を寄せ、パっと離れ召喚器を磨き始めた。

「っ…焦らすの…やめ      
「やってもいいのか」

 真田がそう言ってすぐ、いくつかの足音が聞こえ寮のドアが勢いよく開いた。「ただいまー」の声の後、一気に騒がしくなり帰ってきた面々はソファに座りラウンジでくつろぎだした。

「…生殺し」
「そう言うな。部屋に行けば制御効かなくなりそうだ。身体が良くなったら遊んでやるさ」
「へぇ…オレをどう楽しませてくれるんスか」

 挑発的な視線を送れば、真田は召喚器に目を向けたまま笑みを漏らした。向こうでは何か面白い話題があるのか全員で話をし、腹を抱えて笑っていた。

 そうだな…と呟いた後、声を潜めて、こんなのはどうだと言った。

「まず…頭から始めて、耳を味わって、顎、首、鎖骨、胸、腹…足の指まで隙間無く口付けて舐めてやる」
「ちっと物足んねぇな。口にはしてくんねぇんスか?」
「好きならしてやる。ただ、お前だからいいが…髭、剃らないのか?邪魔だ。それに少し不快だ」
「不快!?…いや、剃らねぇっスよッせっかくこんだけ生えるまで待ったんスから」
「そうか。まぁいい、お前だからな。それで…ああ、キスだな。舌絡ませて歯裏も全てなぞってやる。息が上手く出来ないと言われても止めてやらない」
「それはきついなぁ…そんなんされたらオレ、マグロになるっスよ」
「力抜けかけたら首から肩まで噛んでやる」

 本気だ、というように意地の悪い笑みを見せた。順平は痛ぇのは嫌だなぁと思ったが、また腰に熱が帯びてくる気がした。向こうは賑やかだ。こっちの会話は聞こえてない、興味も別に向いていなかった。それでもみんなの前での情事の会話に耳を染めた。真田は淡々と語っている。

「それでその後は…ああ、そうだ。髭剃るのが嫌なら下の方剃ってやるのはどうだ?浮気できなくなるしな」
「それは却下。恥ずかしくて風呂行けねぇし小便もできねぇっスよ」
「ならこれは、またの機会にとっておくか」
「一生無ぇしッ!」
「じゃあ、刺激的に目隠しして縛って召喚器入れるのは…いや、後ろ手に縛ってその手で自分で突っ込ませた方が面白そうだ。それを俺が見る。ついでに根元も縛って無射精でイけたら褒美をやる」
「普通はマンネリ防止に刺激を入れてみるもんなんスけどね…あ、で、褒美って何してくれんスか?」
「俺のをやるよ。お前のも擦ってやる。召喚器でな」
「…、…」
「不満があるのか」
「一緒にされんの…良すぎてたまに怖くなるんスよ。このまま狂って壊れんじゃねぇかって」
「俺に壊されるなら良いだろ」
「うっわ出たよ俺様。もー何回も言いますけど世界の中心は真田サンじゃねぇんだって」
「それは知らなかったな」

 真田サンだと冗談に聞こえねぇ。つか冗談じゃ無ぇか。いや、それよりさっきまで必死に訴えてたのスルーしてたのかよ!?

 呆れている目に事務的に磨いている真田の召喚器が目に入る。また身体に痺れが走るのを感じる。思わず喉を上下させた。

「真田サンって…召喚器使うの好きっスよね」
「初めの興奮が蘇る。召喚器に怯えるお前を見たとき、手を添えた指が先まで熱く緊張したのを感じたとき…恍惚というのか…それが走った。ああ面白い、欲しいなと」

 それから視線を微かに順平に向けて「お前もそうだろ」と言った。不敵な顔付きだった。読まれてる、気付かれてる、そう思うと顔が熱くなって思わず視線を逸らせた。

「そりゃ…あんな…初めてなのに召喚器で色々されりゃあ…条件反射にもなるっスよ。刷り込みっスよ、刷り込み」
「まぁ、アバラがイってたんだ。流石に俺のを突っ込むわけにもいかないだろ」
「そもそも…初めてタルタル行ってバテて動けねぇオレにいきなり手ぇ出すっスか、普通」
「面白い欲しいと思ってる俺の横で口半開きのアホ面して無防備に寝る奴が悪い。それに美鶴や岳羽に手を出すわけにはいかないだろ。普段はボクシングなんかで欲求不満はあれほど溜まらなかったしな」
「いや…だからって…」
「それに…俺は他人には興味無いんだが…珍しいタイプだったんだよ、お前。俺の周りにしては。別にそっちのケはないし、抱きたいだの何とかしてやろうだの思わなかったんだが…手元に置いておきたいというか、退屈しないというか…まぁ、俺のものだし遊ぶのも勝手か、と思ってな」

 そこで、真田方程式が出てくんのか…それが自己中と気付かねぇところが凄ぇ。溺れた…つうか、引きずり込まれたオレが言えねぇけど。

 ハッキリ言って押しに弱いということを見抜かれ、流されやすいということを利用されたとも言えるのだが、そこには順平は気付かなかった。ただ呆れたり戸惑いつつも、2人の性格のバランスで保っている関係が不思議と悪くないのだから仕方ない。

 しかし、何度か俺の勝手とか、所有物扱いされている発言が気になる。何か引っ掛かる。そう思うと特に意識もせずに言葉が出た。

「ふぅん…じゃあ、飽きたら玩具はポイするんスね」

 どう考えてもやっぱりフェアじゃないという思いで何気なく言っただけなのだが、真田は手の動きを急にピタリと止め、じっと順平を見つめた。

 ヤベェ怒らせたかもしんね。そう思ったが、顔は無表情のままだった。そしてすぐまた召喚器を事務的に磨きだした。順平は首を傾げた。無言とは珍しい。そう思い、視線を走らせたが別に変わったところは無かった。まぁ、真田を分かるなんて方が難しいかと気にしないことにした。

 順平は人を気遣う質なので洞察力には長けていたが、真田の召喚器のグリップを握る革手袋にシワが増えたのにはさすがに気付かなかった。




「ねーさっきから何男2人でボソボソ話してんのー」

 ゆかりの声にハっとして順平は顔をソファの方へ向けた。誤魔化すように笑って立ち上り輪の中に混ざっていく。それを真田は視線だけで追った。

「ね…何の話?」
「別にー。え、何、リーダー聞きたいの?イヤンエッチ」
「うわ、ウザっ。聞かない聞かない。それより見てよこの雑誌。ホラここ、この子。ね?月光館の2年のE組の子!載ってんの!」

 ゆかり達は肩を寄せ合い雑誌を覗き込みキャーキャーと騒ぐ。順平が混じり、さらに騒がしくなった。

 真田は召喚器を磨く手を止めた。そして順平を銀の瞳で睨むように見つめた。

「…何のために、お前に色々仕込んでると思ってる…」

 呟いた声は順平自身の騒ぎ声によってかき消された。

 順平は人を気にする。洞察力がある。しかしそれにも関わらず自分の発言で自分を追い込むことが多々ある。さらに危機が目の前に迫らないとそのことに気付かないのも順平であった。

 真田が無言になる。それは止めるすべが無い、殴られるよりも怖い怒りの第2段階だということを順平は忘れていた。

 先程の会話のように楽しませてくれる情事…は自分のせいで延期となり、代わりに青ざめるような情事が用意されていることを順平はすぐ知ることになる。




to be continued.

2007/08/24

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